あぁ、懐かしの友よ
□11 懐かしの「夢」6
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オレは、盤上をじっと見つめる。
これ以上、打つ手がないのかを探すために……
しかし、いくら探してもこの白が生きる道は見つからない……………
「ありません………」
オレは頭を下げ、負けを認める。
はぁ………たまには、進藤に頭を下げさせたいぜ…………
いや、進藤自身が頭を下げることは、何度もあったか。
「「ありがとうございました!!」」
オレと進藤は、同時に挨拶をする。
碁は、礼儀も大切だからな。
「なぁ、佐為!検討しようぜ!!あと、この前の分もさ!!」
オレは、進藤の斜め後ろに向かって声をかける。
そこに佐為がいるのは、対局終了後に進藤がそこに振り向いたことにより、確定しているからだ。
『やります!やります!検討しましょ!!』
「えぇー!!オレも打ちてぇよ!検討してたら、オレが打てなくなっちゃうじゃん!!」
進藤が不満顔でそう言う。
時計を見ると、確かに、あと一局打つか、検討するかのどちらかしかできないだろう。
だが…………
「お前、今日は打つ気が起きねぇとか言ってたじゃん。ちょうど良いだろ?」
オレは、しっかりと覚えてた。
進藤が全く乗り気がなかったということを。
「ちぇーっ!全く、無駄に記憶力良いよな、大河って!………分かったよ!検討にすりゃー良いんだろ!でも、次に打つ時は、佐為より先にオレだかんな!!」
オレが頷くと、進藤は、渋々だが納得してくれたようで、不満顔はやめてくれた。
あー!待ちに待った、佐為との検討!!
佐為との検討も、とっても勉強になるので、凄く楽しみにしていたのだ。
しかも今回は、新しい手を使ってみた。
佐為の、貴重な意見を聞きたくてたまらない…………
「そんじゃ、第一手から並べながら、検討しようぜ!!」
「『おう!(はい!)』」
オレと進藤は、順に石を並べていく。
所々で、止めながら、お互いに意見を述べていく。
オレは、佐為の言葉を聞き逃さぬよう、集中して検討に臨んだ。
「そんで、ここでオレが投了っと!ここって他に手があったのか?」
進藤が最後に打った場所に石を置いた。
オレが最後に、いくら考えても活路を見出せなかった場面だ。
『これはですね、ここをこうやって、こうやって、こうすると………』
進藤が、佐為が説明してくれたことをそっくりそのまま言いながら、石を並べていく。
そして、石が並べ終わり………
「あっ………蘇った…………」
流石は、佐為だ。
オレが何度考えても見つからなかった活路をあっさりと見つける………
「くっそーー!!研究会で沢山勉強したから、もっと良い勝負が出来ると思ったのによ!!完敗だぜ………」
オレは、思わず頭から後ろに向かって倒れ、悔しさで一杯の表情を浮かべてしまった。
あーーーっっ悔しい!!
そんで、まだこの程度の力しか持っていないのに、佐為ともっと対等に打ちたいって思っている自分が恥ずかしい………
『かっ完敗だなんて、そんなことないですよ!ここの場面………思わずヒヤリとさせられました…………しかも、この前の対局の時よりずっと強くなっている………』
「佐為がここの場面で、ヒヤリとさせられたってよ!というか、大河ってホントに強ぇーんだな!これなら、今度の大会は、優勝だな!!」
進藤が、満足顔で言う。
佐為がヒヤリとさせられたという場面は、自分でもなかなか打てたと思っていたので、素直に嬉しい。
だけど………
「進藤、その今度の大会ってなんだ?」
オレは、大会など一度も出たこともないし、オレはプロになるつもりなので、アマの大会に出るつもりもない。
だから、その今度の大会という物に心当たりがなかった。
「あれ?言ってなかったっけ?オレがこの前出た大会、本当は中学生の大会だったんだ。そんで、来年こそは葉瀬中生として筒井さんと一緒に大会に出るつもりなんだ!!大河も囲碁が好きだから、囲碁部に入るだろ?そしたら、一緒に大会に出ることになるじゃん!!」
進藤がキラキラとした笑顔を浮かべながら言う。
それが、まるで決定していることのように……
………………………………………………
何処から突っ込めば良いのだろうか……
まぁ、取り敢えず最初に……
「………オレ、葉瀬中に進学しねーぞ。」
進藤は、一瞬フリーズする。
そして、
「えっ、えぇーーーーーーーーーーーっっ!?」
と、こちらの鼓膜が破れるくらいの大音量で叫んで来た。
はっきり言って、凄い近所迷惑だろう。
まだ、夜ではなくて良かった。
「え!?それじゃ、お前、何処に行くんだよ!?」
「海王だけど。」
オレがそう言った瞬間、進藤はピシッッと固まる。
さっきのフリーズとは、比べ物にならないくらいに………
どこに、そんなショックを受ける要素があったのだろうか?
「お、お、お、お前なんて………」
…………?
進藤の声が小さくて聞こえなかった……
オレが首を傾げていると、今まで固まっていた進藤がオレを睨みながら
「お前なんて、敵だ!!!!!」
と叫んだ。
その後、すぐに進藤は、ここから逃げるように走ってオレの部屋から出て行った。
「おっおい!ちょっと待てよ、進藤!!」
進藤は、オレの声に少しも反応せずに、走って行ってしまった………
いったいどうしたんだ?
何故、いきなり敵ということに?
というか、あいつ、オレが海王に行くの知らなかったのかよ…………
クラス内では、有名な話だったのに。
やっぱ、進藤って変わってんな。
オレは、チラリと碁盤を見る。
盤上は、オレと佐為が検討した時のままだ。
…………検討と言えば…………
「また、佐為と金曜日にやった対局の検討してねーや…………」
オレは、また先延ばしか…………
と少し落ち込んだ…………
そして、翌日…………
オレは、進藤を捕まえて話をしようとするが、ものの見事に避けられている。
いつしかの時みたいに…………
クラスメイト達は、いつも一緒に行動しているオレ達が、別々に…………いや、一方的に避けているのを見て、不思議そうにしている。
「ねぇ、貴方達、喧嘩でもしたの?」
進藤の幼馴染である藤崎が、見るに見兼ねたのか、オレにそう言って来た。
オレは、昨日の出来事を簡単に藤崎に説明した。
「ヒカルったら、加賀君が海王に行くこと知らなかったの!?すっごく有名な話なのに………」
藤崎は、進藤の方をチラリと見ながら、呆れた風に言う。
「だよな……オレもてっきり、知ってるかと思って進藤に話してなかったんだよ。そんで、敵だ発言については、何か知ってる?」
「それは、葉瀬中囲碁部の目標が打倒海王!だからだと思う。でも、ヒカルは、そんなことで、加賀君を無視してるわけじゃないんだと思う………」
え!?そーなの?
でも、敵だ発言以外は何もなかったよな………?
オレが疑問に思っていることが伝わったのか、藤崎は丁寧に答えてくれた。
「ヒカルはね………拗ねてるのよ…………そんな重大な事なのに、オレに話してくれなかった!って。それで思わず、敵だ!とか言っちゃったんじゃないかな?」
…………………流石、幼馴染………
進藤についての心理分析なんて、お手の物のようだ。
「だから、ちゃんと話した方が良いと思うよ。今日の帰りのHRの後、ヒカルのこと引き止めておくから、その時に話してみて!」
全く、進藤には勿体無いぐらいの良い幼馴染である。
まぁ、今後も幼馴染のままなのかは、本人達次第だが…………
オレは、藤崎にお礼を言ってから自分の
席に戻った。
そして、放課後。
約束通り、藤崎が進藤の足止めをしていてくれたようで、進藤と藤崎は校門の前で話していた。
「進藤、話がある。」
藤崎との会話に夢中になっていた進藤は、オレが声を掛けて始めて、オレが近くにいたことに気づいたようだ。
「あ、じゃぁ、私先に帰るね!」
「え!?待てよ、あかり!!」
藤崎は、オレ達に気を使ってくれたようで、一人で走って帰ってしまった。
その後を進藤が追おうとするが、オレがガッチリと腕を掴んでいたので、それはままならなかった。
「たくっ、なんだよ!オレには、話はねーぜ!」
進藤が悪態をつきながら言う。
「全く、何をそんなに怒ってんだよ?」
進藤は、ふん!
とか良いながら、オレから顔を出し反らす。
「もしかして、オレが海王に行くってことをお前に話さなかったからか?」
進藤が、ギクッと肩を揺らす。
どうやら、図星のようだ。
幼馴染の感は正しかった……………
「それは、お前がもう知ってると思ってたからなんだよ!実際、クラスのほとんどの奴が知ってることだったからな!」
進藤は、バッとこちらを見る。
顔には、驚きの表情を浮かべて………
「え!?そーなのか?そんじゃ、クラスで知らなかったのってオレだけ!?」
「たぶん、そーだと思うぜ。というか、知らない奴……しかも、友達の中にいたってことにこっちが驚いてんだよ!」
進藤の視線があっちこっちに動く。
そして、落ち着いたら
「そんじゃ、一人で友達とも思われてなかったのかよって思ったのは、意味ねぇのか?」
とか言い出した。
オレは、その言葉を聞いて呆れ返った……
全く、馬鹿なんじゃねーか、進藤は。
こんだけ、毎日一緒に行動して、遊んでいる上に、進学先なんて比べ物にならないくらいの重大な秘密をお互い打ち明けていると言うのに………………
…………でも、それで怒っていたってことは、オレのことを本当に友達だと思ってくれているからだよな?
そう考えると、少し嬉しくなる。
「どう考えても、意味ねぇよ!と言うわけで、誤解は解けたな!あと、敵だ発言についてだが、オレは海王の囲碁部に入るつもりはねぇから安心しろ!!」
オレがそう言うと、進藤は、キョトンとした表情を浮かべた。
まるで、そんなことを言ったことを忘れてたかのように………
「え、あぁ、そーなんだ…………って、大河、囲碁部入んねーの!?」
進藤は、心底びっくりしました!
というような感じに言う。
囲碁部だけが、囲碁ができるってわけじゃねーのに。
「オレは研究会とか出てるから、アマの大会には、出にくいんだよ。そんな奴が囲碁部に入るわけには、いかねーだろ?」
進藤は、余り理解していなさそうだったが、納得した振りをしていた。
こういうのって、傍から見たら、結構分かる物である。
「ま、仲直りしたことだし、どっかに遊びに行きますか!!」
「あっ、今日は、オレが決めるかんな!碁は打たねーからな!」
そんな会話を繰り広げながら、オレ達は、歩いて行った。