あぁ、懐かしの友よ
□9 懐かしの「夢」4
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目が覚めると、13時でした…………
「っておい!!時間やべーじゃん!急がないと!」
オレは、慌てて着替える。
上は、パーカー、下は、ジーンズ。
無難な格好だ。
着替え終わると、今度は洗面所へと走る。
歯ブラシに歯磨き粉をつけ、猛スピードで歯を磨く。
歯を磨き終えると、洗顔。
その次は、髪だ。
とは言っても、ブラシでとかすだけだが……
こういう時、男で良かったと心底思う。
時計を見ると、所要時間5分。
なかなかの記録だ。
リビングに行くと、父さんは、もう用意万端で、ソファに座っていた。
その父さんの横には、某有名店のお茶菓子が置いてある。
たぶん、一柳先生へのお土産だろう。
昨日まで、あんな物は、家に無かったので、今日の午前中にでも、買いに行ったのだろう。
「おぉ、大河、おはよう。」
「………おはよ。」
父さんは、やっとオレが起きて来たことに気がついたようだ。
だが、オレがまだ寝ていることに気がついてんなら、起こしてくれても良かったのに……
「起こさなかったんじゃなくて、起きなかったんだからな。全く、こんなに大事な日に寝坊なんて………これ以上寝ているようだったら、叩き起こすつもりだったよ。」
どうやら、オレは不満の表情を浮かべてたようだ。
しかし、そんなに熟睡してたのか、オレ?
昨日は、まぁまぁ早く寝たんだがな………
「ごめんって!そんで、何時に家を出んの?」
「15分には出るぞ。それぐらいの時間で丁度良いだろう。人の家に上がらせてもらう時は、遅過ぎず、早過ぎずを心がけなきゃならんからな。」
うぉー………
久しぶりに父さんのまともな発言を聞いたよ……
昨日なんて、もろミーハー発言ばったかりだったしね。
「了解。そんじゃ、軽くパンでも食べよっかな……」
「あぁ、それなら、母さんが、美味しそうなパンを買って来てたぞ。戸棚の中にあると思うよ。」
オレは、父さんが言っていたパンを戸棚から取り出す。
確かに、けっこう美味しそうだ。
オレが好きなチーズ系のパンだし。
オレは、冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップに注ぐ。
これで、オレの軽食の出来上がり。
「いただきまーす!」
「おう。だが、あと5分だからな。」
父さんの言葉で時計を見ると、確かにあと5分だ。
…………急がないとな………
オレは、急いで軽食を完食した。
15分になり、オレと父さんは、家を出る。
父さんの手には、やはりあのお茶菓子がある。
近くで見ると、家では絶対に食べない、高級和菓子ということが分かった。
…………そうだよな…………
弟子入りすんのに、お茶菓子1つ持って行かないって常識はずれだな。
買って来てくれた父さんに感謝だ。
車に乗り、約10分。
前方になかなか大きい、日本邸が見えて来た。
さっすが、タイトルホルダー………
時計を見ると、28分。
素晴らしいくらいピッタリだ。
車から降り、インターホンを鳴らす。
すると、すぐに
『はい、一柳です。』
という声が聞こえた。
「加賀です!こんにちは!」
『お!大河君か!!いらっしゃい。すぐに開けるよ。
』
コンコンッッ
音がした方を見ると、
父さんが、車の中から、口パクでおそらく
「駐車場どこ?」
って言って来た。
おぉっと危ない………
車の存在を完璧忘れてた………
「あっ、先生!車って何処に止めておけば良いですか?」
『ん?あぁそうか。今日は車で来たのだね?車だったら、この家の駐車場に、お客様用の駐車場があるからそこに止めておいてくれ。この家の塀沿いに右側に行ったら、分かるはずだよ。』
オレは、父さんにそっくりそのまま伝えた。
その後、数分後、車を置いて来た父さんが戻ってきた。
オレは再度インターホンを鳴らす。
すると、待っていたかのように、玄関から一柳先生が出て来た。
「おぉ、よく来たね!さぁ、上がってくれ!」
一柳先生がオレと父さんを手引きする。
オレと父さんは、恐る恐る屋敷へと上がらせてもらった。
一柳先生の家は、純和風な感じで、落ち着いた空間だった。
なんだか、とても居心地が良い場所である。
オレと父さんは、数ある部屋の中で、客室として使われていそうな部屋に通された。
部屋にあるもの一つ一つが上品で美しい。
「ささ、こちらに座ってくれ、大河、とお父さん!」
オレと父さんは、言われた通りに座る。
横目でチラリと父さんを見ると、ガチガチに緊張している。
やっぱり、囲碁ファンにとっては、大物だからな、一柳先生は。
そういうオレは、昨日あんだけ電話で緊張していたのに、今はそうでもない。
横にガチガチに固まっている父さんがいるせいだろうか……?
「いやー、始めましてと言うべきかな?私は、一柳。棋聖のタイトルを持っているよ。これからよろしくお願いするよ。」
「改めまして、加賀 大河です!これからよろしくお願いします!!」
オレは、深々とお辞儀をする。
父さんも横で同じように、お辞儀をした。
「うちの愚息ですが、こんな愚息で良ければ、ぜひぜひ鍛えてやって下さい!!」
すると、一柳先生は大袈裟に驚いた風にして言った。
「愚息だなんて、とんでもない!いやー、この子の才能には驚かされましたよ!!この年齢でプロに勝つ!?しかも、そのプロが私なのだからね!まぁ、本気ではなかったとしても、凄い才能だよ!!これはうもらせてはならないって思ってね!少し強引かなって思ったんだが、つい門下に誘ってしまったよ!いやー、これからの大河君の成長には、期待大ですよ!!それに……………………
やっぱり、マシンガントーク……
こりゃぁ、一柳先生の得意技だな……
何だか、視線を感じたので、視線の元を見て見ると、父さんが、
え!?お前、一柳先生に勝つぐらいの棋力を持ってたの!?
って言いたそうな顔をしていた。
というか、ちゃんと人の話を聴けよ!
本気ではなかったって言ってるじゃん!!
オレは、父さんのウザい視線を無視することにした。
………と言うように、大河君には、凄い才能があるので、安心してうちに預けてくれ。」
って、まだオレの才能うんぬんの話が続いていたんかい!?
どう聞いたって、過大評価だろ!!
「もちろん、願ってもないことです!!………大河頑張るんだぞ!」
「おう!!」
オレは、元気良く返事をした。
すると、父さんがごそごそと何かを取り出した。
「遅くなりましたが、つまらないものですが、どうぞ。この後の研究会の時にでも召し上がって下さい。」
取り出した物は、例のお茶菓子だった。
「有難く頂くよ。……おぉ、これは私もよく食べるよ。後で研究会にだしますね。」
よく食べるって…………
さすが、タイトルホルダー………
いや、こんぐらいじゃ、タイトルホルダーは
関係ないか?
「じゃぁ、そろそろ、研究会の準備をしなくてはならないな。お父さんは、研究会の間どうされます?」
一柳先生が時計を見た後に言う。
たしかに、もうそろそろ研究会の時間だ。
「父さん、帰ってていーよ。オレ、道覚えたし、1人で帰れるよ。」
「それなら、そうするか……」
そう言って父さんは、帰り支度をし始めた。
すると、
「あ!!!」
といきなり声を上げて、鞄の中から、ごそごそと、白いものを取り出した。
「これに、今日来るプロの方々と一柳先生にサインもらっといて!よろしく!!」
と言って、取り出した物をオレに渡して、一柳先生に挨拶をし、父さんは部屋から退出した。
渡された物を見ると、色紙だった………
最後の最後でミーハー精神かよ………
オレは何だか、脱力してしまった。
いよいよ、研究会だ。
研究会の場所は、さっきいた部屋とは違う、和室でとても広く、碁盤と碁石のセットがいくつも用意されている場所だった。
見渡してみると、プロの人ばかり………
しかも、けっこう有名な人も多い。
……………もしかして、プロじゃないのってオレだけ?
なんて思っていると、一柳先生の挨拶が始まった。
「ごぼんっっ。今から研究会を始めるぞ。最初に、昨日言っていた新しい門下の 加賀 大河君だ!この中では唯一プロではないが、プロと遜色がないぐらいに、打てる!!今日の研究会から参加することになった。」
………………やっぱり、オレだけか………
チラリと一柳先生をみると、目で(挨拶しろ!)って言っていることに気がついた。
「あっ。紹介にあった、加賀 大河です!よろしくお願いします!!」
少しどもりつつも、挨拶をした。
すると、他の皆さん全員、暖かな視線をくれながら、
「「「「「「よろしく、大河君!」」」」」」
と言ってくれた。
「よし!じゃぁ、最初にきちんと、棋力を測るために、対局から始めるか!」
棋力を測るってことは、オレが対局するってことだよな?
でも、誰と対局すりゃー良いんだ?
オレが周りをキョロキョロしていると、いかにも人が良さそうな人が声をかけて来てくれた。
「もしよかったら、僕とやらないかい?」
「おっお願いします!!」
こうして、オレの研究会デビューが始まった。