あぁ、懐かしの友よ

□7 懐かしの「夢」2
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今日、朝起きるともう家には誰もいなかった。
まぁ、もう昼だから当たり前といえば当たり前だ。
父と母は、ザ 仕事人!!
というような人達で、家でゆっくりしていることなんて全くと言っていいほどなく、今日も朝から仕事に行った。
兄貴は、部活で学校だ。
一応、親には一柳先生に弟子入りするかもしれないということを伝えようと思っていたが、昨日もなんだかんだで、親が帰って来る前に寝てしまったので、まだ伝えていない。
まぁ、喜びはしても、止めはしないだろうから、正式に決まったら伝えよう。
父なんて、昔兄貴に無理やり碁をやらせようとするぐらい、碁が好きだしな。
反対するはずがない。

オレはそう考えをまとめると、いそいそとパソコンを立ち上げる。
オンボロパソコンなので、立ち上がるのに時間がかかるので、その間に朝食兼昼食の準備をする。
ちょうど、ご飯の準備が整った頃、パソコンがようやく立ち上がった。

「よーし!今日も元気に連勝記録を伸ばすぞ!!」

昨日と同じハンドネームでログインした。
すると、すぐに対局申し込みが来た。
昨日はずっと自分から申し込んでいたので、なんだか少し嬉しい。

オレはもちろんOKした。

画面が対局画面に変わる。

よしっっ!がんばるぞ!!















「ふー……疲れたな………あれから何局もぶっ通しでやったからな。しかも、全部申し込まれた対局だ………」

なんで、こんなに申し込まれたのかを考えてみると、たぶん、昨日一柳先生に勝ったことがネット上に広まったからだと仮定した。

なぜかというと、申し込んで来た奴らは皆ある程度以上の棋力を持っていたからだ。
たぶん、ネット上での噂を聞いて申し込んできたのだろう。

まぁ、そのおかげでオレは、苦労せずにまぁまぁ強い人達と対局できる。
とても嬉しい話だ。

だが、ネットとは凄いな………
たった一日でこれだけ広まるとは………
…………気をつけよう…………

ふと外を見ると、もう真っ暗になっていた。
時計を見ると、時刻は午後6時45分を示している。

…………予定では、あと少しで一柳先生から電話がくる…………

オレはそう考え、申し込まれた対局を全て断りログアウトした。

今回の成績も全勝。
まだ、ネット碁では負けなしだ。

オレはパソコンの電源を切り、電話の前で待ち構える。

まだ15分近く先だというのに………

それだけ、楽しみにしていたということだ。

じーっとオレは電話をみつめる。
時刻は午後6時50分。
まだまだだ。

部屋中の空気がシーンとする。
もともとオレ一人しかいない空間。
オレが電話の前でじーっとしていれば、必然的にそうなるに決まっている。

チクッタクッチクッタクッ………

時計の秒針の音だけが部屋に響く………

「んで、お前何やってんだ?」

「うわぁっっ!!」

オレはバッと後ろを向く。
そこには、何時の間にか帰って来た兄貴がいた。

「急に人の後ろから声かけんなよ!!心臓が止まるかと思ったじゃん!!」

「かっかっかっ!!そんな分けねーだろ!………いやさ、なんか異常に部屋が静まりかえってたからさ、ノリでつい。」

はぁーー………
全く、オレがどんなに緊張していたんだと思ってんだよ、この糞兄貴は………

「んで、今日の晩飯は何だ?もう食ったか?」

「いや、まだ。母さんが、冷蔵庫に作ったのいれてんじゃね?」

「そーだな。お前も一緒に食うか?」

兄貴は冷蔵庫があるキッチンへと進みながらオレに問う。

「いや、この後用事あるし、後ででいい。」

「りょーかい!」

時計を見ると、もう6時58分だ。
兄貴と話しているうちに時間が過ぎていたらしい。

緊張していたオレだが、さっき兄貴に脅かされたことにより、リラックスをすることができた。
心臓に悪い出来事だったが、その点だけは、感謝する。
ガチガチのままじゃぁ、何言っちまうか分かんねーしな。

「そんで、お前は誰からの電話を待ってんだ?あっお前の彼女だろ!!そんなにガチガチになって電話の前に張り付いてるってことわよ!全く………小学生のくせに生意気な!!」

兄貴がキッチンからオレに話しかける。
オレの家はキッチンとリビングが繋がっており、キッチンからでもリビングにいる人と話せる形になっている。

「馬鹿兄貴!!そんなんじゃねーよ!」

「そーかぁ?怪しーな?」

兄貴はニヤニヤしながらオレに言う。
はっきり言って、不愉快だ!!

「違げーつってんだろ!!一柳先生だよ!一柳先生!!」

オレは兄貴に投げやりに言い返す。
すると、兄貴は気持ち悪いニヤニヤ顏を辞め、元の顔に戻った。

「一柳って確か、碁のプロだよな?なんでそんな奴がお前に電話してくんだ?」

「あーそだよ。実は昨日、ネットで知り合ってさ。門下に入らないかって誘われたんだ!!」

オレがそう言うと、兄貴の手が止まった。
そして、

「お前、門下に誘われるくらい碁が強かったのか?………お前は俺と違って、親父に無理矢理習わされていなかっただろ?お前がなかなか打てるってことは知ってたが、そこまで強えーとは知らなかったぜ。」

と心底驚きました!
というような表情を浮かべて言う。

あー……そういえば、兄貴と打つとき若干指導碁打ってたわ………
しかも、指導碁ってことがバレないように細心の注意をはらった………
兄貴ってまぁまぁ強かったし、兄貴より碁をやっていなかったオレが勝ちすぎるのも怪しいかな……って思って………。
もちろん、手を抜いたりはしていない。
全力で、兄貴に指導碁をした!!
まぁ、バレたら縁切られそうで怖いけど………
オレの一生の秘密だ。

「へん!兄貴が碁を打たなくなってからも、オレはひっそりと続けてたからな!実力をつけて当たり前さ!!」

ということに、しておこう。

「ふーん……まぁ、いいけどな。俺は、将棋一本だしな。……だけどお前、親父達に言ったのか?反対はされねーと思けど。」

「いや、まだ。だって昨日から顔合わせてねーもん。ま、今日言うよ。」

チンッッ

という音が部屋に響く。
兄貴が晩飯を温めたレンジの音だ。
兄貴は晩飯をレンジから取り出し、リビングのテーブルへと持ってきた。

「そんで、電話は何時にくる予定なんだ?」

そう言われてはっとした。
時計を見ると、午後7時10分だ。
時間はもう過ぎている………

「7時の予定なんだが………まぁ、7時ぐらいって言ってたしな。」

「ふーん、そっか。あっ、大河、そこのリモコン取って。7時から見てえ番組があったんだよ。」

俺は自分の目の前に置かれていたリモコンを兄貴に渡す。
兄貴は、リモコンを受け取ってすぐに電源を入れ、見たい番組に切り替えた。

「ぎゃははははっっ!あー面白えーー!!」

兄貴の笑い声が家中に響く。
オレも電話から気を反らすために一緒に見ることにした。







15分ぐらい経つと、コマーシャルが入った。
すると、オレはすぐに来ない電話が気になり始めた。

…………なんで来ないんだよ!!
あっ……もしかして、教えた電話番号を間違えたとか?
あーー!こんなことになんなら、オレも一応、一柳先生の電話番号を聞いておくんだった!!

オレは大人しく待てなくなり、電話の前を右往左往する。

すると、

プルルルルッッ

という電話の音がオレの耳に聞こえてきた………

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