あぁ、懐かしの友よ

□6 懐かしの「夢」1
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兄貴がパソコンを使い始めてから、一時間くらいが経った。
オレは、1人部屋で黙々と棋譜並べをしている。
今並べているのは、佐為と打った碁だ。
佐為と打った碁は何度並べても勉強になる。
佐為は、打ち手としても最高だが、指導者としても最高だ。
自分でも、佐為と打つ度、どんどん棋力が上がっていくのを実感する。
しかし、佐為と打つ度に思うのだ。

「あー……早く佐為と互角に打てるようになりてぇ………」

と。
全く、いつになったら、オレは佐為に追いつけるのだろう……
ちょっと追いついたかな?
って思うと、また差が開く。
あんなに強いのに、まだまだ成長する佐為には驚きだ。

「あっ!そういえば、オレ、この碁佐為と検討してねぇし!!」

はぁー……
検討してぇな………
明日にでも………って明日土曜日じゃん。
最悪だぜ……

とオレが落ち込んでいると、居間の方から

「おーい、大河!パソコン使っていいぞ!!」

という兄貴の声が聞こえてきた。
そうだ!!
今は、できることからしよう!
せっかくネット碁ができるんだ。
楽しまなくちゃな!!

「サンキュー、兄貴!今行くぜ!!」

オレは急いで居間へと走った。















「お前が早く使えるように、お前のにログインしといたぜ。」

「お!まじで!?ありがとー!!」

オレはパソコンの前に座り、“ネット碁”と入力して検索してみた。

「お〜これこれ!んー……名前は大河だし、riverで!!」

r・i・v・e・rっと!
入力完了!!
んじゃ、早速対局申し込みをするか!
んー……誰にしよう………
よしっ!この人にしよう!!

「目標は百人斬り!行くぜ!!」















「3局目終局っと!んー……面白いんだけどなぁ……もっと強い奴と打ちてぇな……」

オレはちらりと時計を見る。
時間はもう9時だ。

晩飯も食べなきゃなんねーし、風呂も入んなきゃなんねーから、もう今日はやめるか……

オレの家は親が帰ってくるのが遅い。
だから、晩飯とかは自分で好きな時間に食べることができる。
だから、今回みたいに、何かに夢中になって遅くなってしまうことも度々ある。

「最後に軽くリストを見てからやめるか。」

画面を対局者リストに切り替える。
すると…………

「あれ?たしかichiryuって名前のプロ棋士がいたよな?こいつってもしかしてそいつか?」

もし本当にそうだったらラッキーだ。
時間は結構ヤバいが、本人だったらこの機会を逃すことなんてできねぇ!!

「よし!このichiryuって奴に申し込んでみるか!」

オレは早速対局を申し込んだ。
画面が切り替わる。
どうやら、返事はOKのようだ。
オレは申し込んだ側なので、白番。
オレは、ワクワクとしながらichiryuの第一手を待った。

カチッ

カチッ

オレはすぐに打ち返す。

カチッ

カチッ……………




こいつは間違えなく、プロの一柳だ。
しかし、まだ全く本気を出していない。
まぁ、そうだろう。
プロがネット碁なんてお遊びのつもりの可能性が高いのだから………

だが、このままにはさせねぇ!!

カチッ

……………………………………

オレの牙を向いた一手に、今までテンポ良く打ってきた一柳の手が止まる。

「さぁ、どう来る!一柳棋聖!!」

カチッ

うーん……ここに打ってきたか………
確かに、並の打ち手には効果的な返しだ。
しかし、オレには無意味だ!!

カチッ

カチッ

「ここが、甘いぜ!」

カチッ

………………………………

カチッ カチッ カチッ カチッ……

………一柳が本気になった…………
だが、少し遅かったな………
もう、終局が見えてきた…………
それはやっぱり、一柳にも見えていたようで

【Black has resigned. White won.】

と画面上に文字が浮かんだ。

オレはせっかくの機会なので、一柳にチャットを申し込んだ。

【タノシカッタデス。デモ、モウスコシハヤク、ホンキニナッテホシカッタデス、イチリュウセンセイ。】

【マケタイイワケデハナイガ、ワタシモキミトサイショカラゼンリョクデ、タタカッテミタカッタ。ソシテ、キミハダレダ?コレホドノチカラヲモチナガラ、マサカアマデハナイダロウ?】

【プロジャナイデスヨ。タダノアマデス。】

【!?モッタイナイ!!キミハプロニナルベキダ!イマ、キミハナンサイダ?】

【12デス。】

【12!?………キミ、ダレカ二シジシテイルノカ?モシシテイナイナラ、ワタシノモンカニハイラナイカ?モシキミガ、トウキョウニスンデイナイナラ、ワタシノイエニゲシュクシテモイイ!キミハサイノウガアル。ソノサイノウヲノバスベキダ。】

…………………

本気で言っているのか?
冗談で言っているようには、全く見えないが………
だが、確かに、プロに師事するのは凄く勉強になるだろう。

そして…………

「プロ棋士かぁ…………懐かしい夢だ…………」

プロ棋士………
それは、前世でのオレの夢…………
色々あって諦めた、懐かしい夢だ…………

だが、佐為と互角に打てるようになるには、トッププロ並の力を付けなければならない。
これはまたとない素晴らしい機会なのではないか?
そう考えた瞬間、オレはすぐさま文字を入力した。

【モンカニハイリタイデス!】

【ワカッタ。クワシクハデンワニシヨウ。キミノイエノバンゴウヲオシエテクレルカ?】

【×××-×××-××××デス。】

【トリアエズ、キョウハモウオソイ。アシタノヨル7ジニデンワスルヨ。】

【ワカリマシタ。デハ、アリガトウゴザイマシタ!】

【コチラコソ。】

オレはすぐにパソコンの電源をシャットダウンした。
時間はもう凄く遅い。
今から晩飯食って、風呂入って…………
うわー……やべーな……
流石に親が帰ってくるかも…………

だが、それ以上の………いか、比べるのもおこがましいぐらいの収穫があった。
本当に一柳先生の門下に入れるならば、オレはさらに強くなれるだろう。

「よーし!打倒佐為への第一歩だ!!」

オレは決意を固めた。

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