あぁ、懐かしの友よ

□4 懐かしの「碁」4
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素晴らしい程の沈黙が部屋に広がる。
というか、ヒカルは完璧冷や汗をかいている。
これはもう、自分で「何かあります!」って言っているのと同じだとオレは思う。

「……進藤………もうここまでバレちまってんだ。さっさと話した方が楽になるぜ?」

オレは進藤に笑顔で話しかける。
もちろん、逃がさねぇぜ!!
という意味を含めた笑顔だ。

『佐為!!どーすんだよ!?これは誤魔化しきれねぇぜ!!』

………また独り言だ。
これは本当に幽霊と話してんのかもな。

『………正直に話しましょう。』

『!?何言ってんだよ!!オレが頭おかしい奴って思われるじゃんっっ』

………何か焦っているような進藤。
一人で斜め後ろを見ながらだ。

「………もしかして、そこに誰かいんのか?」

「『!?』」

………いや、そんなに驚かれても…………
これまでの行動を総合して見ると、一番妥当な線だし…………
しかも、その驚き具合じゃ、肯定だな。

「あぁ、そこにいるのが、“サイ”って奴なんだな?」

オレがそう言うと、進藤は目に見えておろおろとし始めた。
ホント、おもしれぇな………

「そんなに、おろおろしなくても、別に誰にも話さねぇよ。ただ、一つ聞きてぇことがあんだ。」

進藤はおろおろしていたのをピタッとやめて、戸惑いがちにオレを見る。

「…………聞きたいことって?」

「あー……進藤にじゃねぇよ。その取り憑いている幽霊にだ。」

『えっっ………私にですか!?』

進藤はまた斜め後ろを見る。
たぶん、どーするかを聞いているんだ。

『どーする、佐為?答えるか?』

『取り敢えずは、質問を聞いてみたしょう。出来る限り答えます。』

「………それで、何なんだ?」

進藤がオレを見ながら言う。
あぁ、ようやく、長年の謎が解き明かされるかもしれない…………

「そのサイって奴………江戸時代に虎次郎に取り憑いていなかったか…………?」

「『!?』」

『なっ………なぜそのことをこの者は知っているのか………?そして、この前の打ち筋……………まさかっっ!?』

『どーしたんだよ、佐為!?何か心当たりがあったのか?』

…………反応あり…………
やっぱりこいつが虎次郎に関わってんだな………

『そんな………まさか………この時代になぜ、松原 大河が!?』

「松原 大河………?」

「!?」

ビンゴだっっ!
前世での名を知っているなんて進藤じゃありえない。
つまり、前世のオレと関わっていて、あの棋風………
やっと………たどり着けた…………

「頼む!真実を教えてくれ!虎次郎のことから全て!!」

あの日、もうオレとは打てないと言った虎次郎………
オレはあの時、キレちまって、あの場を飛び出してしまった。
そしてそれから、虎次郎と打つことはなくなった………
オレは後悔してるのか?
いや、分からない………
でも、あんなにずっと一緒に碁を打ってきた虎次郎がいきなり、オレにあんなことを言った真実が本当はずっと知りたかったんだ…………

『話ましょう、ヒカル………この者には聞く資格がある………』

『……………分かった、話すよ。』

「これから話すことは本当のことだからな!疑ったりすんなよ!!」

そう言って、進藤はオレが知りたかった全てを話してくれた。














「…………そうだったのか……………でも、何で虎次郎は、オレに本当のことを話してくれなかったんだ?もし話してくれたら、オレはあの後も虎次郎と打てたのに…………」

『それはたぶん、碁打ちを真剣に目指していた貴方に、私の力で碁打ちになることに対して罪悪感を感じていたんだと思います………そして、本当の好敵手だからこそ、私の力で打ちたくなかったのでしょう………本当にすまないことをした………大河殿の好敵手を奪ってしまったのだから………全ては私のせいです…………』

進藤は佐為の言葉をオレに伝えてくれた。
そして、納得した。
あぁ、あいつって真面目な奴だったからなぁ………
………でも、それでも、オレはすごく悲しいんだ………

オレは静かに涙を流し始めた。
進藤は大慌てだ。
何しろ、小学校ではガキ大将のようなオレ………
こんな風にオレが泣くなんて想像したこともなかったんだろう。
というか、泣いたのなんて、何年……いや、何十年ぶりか?まぁ、赤ん坊の時は泣いてたんだろーけどな。

それから数分後、オレはやっと落ち着きだした。
進藤を見ると、あからさまにホッとしている。

「なぁ、佐為………オレはもう気にしねぇよ。それが、虎次郎の選んだ道だったんだからな。だけど、オレの好敵手を奪ったんだ。責任とって、これからお前がオレと碁を打てよ!」

『!?………えぇ、もちろんです!!』

「佐為がもちろんだってさ!………というか、大河って、何で江戸時代にいたんだ?」

進藤が不思議そうに問う。
ああそういえば、オレは質問ばっかして、オレのことなんにも話してなかったな。

「あー…それなんだけどな、なんかオレ前世の記憶を持ってるみたいなんだ。ちっちぇ頃には無かったんだけどな、だんだんと思い出してきたんだよ。」

「へぇー………不思議なこともあるんだなぁー………」

「いや、お前に取り憑いている佐為もなかなか不思議だと思うがな。」

「そりゃーそうだ!」

オレ達は向かい合って笑い合う。
秘密を共有することで、ずっと昔からの友達のように感じる。

「よーっし!佐為、今から打つぞ!!」

「あー……オレん家、碁盤ねぇよ……」

「んじゃ、オレん家行くぞ!!」

オレは進藤の返事を聞かずに部屋を飛び出す。
その時のオレは
なんだか清々しい気分だった。

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