黒子

□距離
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WCでテツ達に敗れ、少しずつだけど俺はまたバスケを楽しむようになった。

部活もたまにサボるけど以前より練習するようになった。そのせいかどうか知らねーけど、若松の野郎は相変わらずうるせーけど前よりウザく突っ掛かって来る事はなくなった。と、思う。部長としても頑張っているみてーだしな。

……部長、か…

若松の野郎は頑張っちゃいるが、それでもやっぱり物足りなく思うのはあの人がいないからだろうか…。
腹黒で、胡散臭くて、何を考えているかわからないけれど、いつも何かを企んでいるような、そんなあの人が居ないからなのか…。なんて、考えるだけで無駄だな。

俺はそんな思考を振り払うようにゴールに向かってシュートを放った。

「…」
「相変わらず無茶苦茶なフォームやのに成功率は百発百中やなあ」
「…!」

懐かしい声が聞こえ、振り向くとヤらしい笑みを浮かべたそいつが立っていた。

「すみません!お久しぶりです!」
「桜井、何で謝るねん」
「部長っ!」
「いや部長はお前やろ若松」

噂をすればなんとやら。いや、この場合噂はしてねえから当て嵌まらねえか…。にしても、またなんで……

「なんや青峰、鳩が豆鉄砲でも食らったような顔したかと思っとったら訝しげな顔しよって」
「…何しに来たんだよ」
「ちょっと久々に恋人に逢いたなってもぉて、ついで練習見に来ただけや」
相変わらずの笑顔でそう言う今吉さん。この人が何を考えているかなんて俺が考えたところでわかる訳もないので俺はシューティングを再開した。

「青峰ゴラア!ちゃんと部長に挨拶しろ!」
「やから部長はお前やろ」

若松の野郎の怒鳴り声と今吉さんの呆れ声を無視して俺はボールを放った。ボールはゴールの網に擦れ、スパッと音を鳴らして綺麗に入った。







シューティングを終えるとゲームをすることになり、今吉さんも参加しないかと誘ったみたいだが、今吉さんはさつきの隣に座り見物するらしい。

目の前に居るのに同じコートに立っていない事に違和感を感じつつも、ゲームが始まればそっちに集中する。
2点、4点、6点…
少しずつ、だが確実に点差を広げる。


「青峰君…凄い集中力」
「ホンマやなあ、ワイが部長ん時もあのくらい集中して欲しかったもんや」


ブザーが鳴り、それと同時にシュートが決まった。得点板を見れば40対2。ダブルスコアなんてものじゃない点差だった。
ゲームでこんなにも集中したのは久々かもしれない。俺は飲物を手に取ると体育館の外に出た。

俺は高校生であの人は大学生。
2つの差。たった2年、たった2歳の差がこんなにも大きく…

「…遠いな」
「何がや?」
「ッ!」

いつの間にか居たらしい今吉さんに独り言を聞かれた。
「なんでもねーよ」

分が悪くなり俺は振り向かずに答える。

「何でもなくあらへんやろ?ん?どないしたん?青峰の大好きな今吉さんが聞いたるで?」
「あ?別に好きじゃ…ッ!」

反論しようとしたら後ろから抱きしめられ鰻重にキスをされ思わず言葉を詰まらせた。

「可愛えなあ、ホンマに」
「見られたらどうするんだよ」
「その時は見せ付けたらええ」
「若松がうるせーだろ」
「せやなあ、、ま、なんとでもなるやろ」
「さつきに…んぅ…」

これ以上は野暮だとでも言うようにキスで言葉を遮られる。

「…ッ、はぁ…」
「それで、どないしたん?」
「……」

後ろから抱きしめ、ニコニコ笑みを浮かべる今吉さん。これはもう正直にぶちあけなければ解放されねーな。

「……アンタが…」
「ん?」
「…遠くに行っちまったような気がした」

どうやら小声で呟いた言葉は今吉さんに聞こえたらしい。一瞬固まったかと思えば抱きしめる腕に力が込められた。
「ピュアやなあ、ホンマ眩しくて敵わへんわ」
「…るせーよ、」

クスクスと笑う今吉さん。余裕なその態度が俺だけが寂しく思っているみたいに思えて、少しムカついたから回された腕を振り払ってやる。

「ピュアで悪かったな」
「そう拗ねんなや」
「拗ねてねーよ」
「ホンマに?」
「…チッ、……そろそろ休憩も終わりだろ。俺は戻るからな」

この人に言葉で勝てる訳もないけれど少し悔しい。



「……遠く、か………そりゃこっちの台詞やっちゅーの…」
「何か言ったか?」
「何も言うてへんよ」


体育館に戻る時、後ろで今吉さんが何か呟いたような気がして聞き返したけれど、今吉さんは相変わらずの笑みを浮かべるだけでそれ以上は何もなかった…。




fin.
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