長文部屋

□for whom 1
3ページ/5ページ

順平とは違い、大我は国を治めるというよりも騎士になって体を呈して守ることに誇りを持っていた。
戦があればいつでも先陣を切って挑めるように日々鍛錬も欠かさないし、自分の生まれ持っての能力を生かせばこの国は負けなしなのも知っている。
その分、命を狙われる心配もあるがそれをものともしないくらいの実力はある。
頭脳的に国を治めるのが順平、外側から守る大我。これでこの国は安定する…そう大我は考えているのだが、順平は違っているようだった。
どうしても大我を次期王にしたいようでしつこいくらい説教が続くのだ。
昔は「俺が王になって大我は楽すりゃいーんだよ!」と守ってくれていた兄が物心ついたころには掌返して「時期王はお前だ大我!」とねちっこく言ってくるようになった。
何が兄を変えたのか…頭を抱えたくもなるが、嫌なものは嫌だ。
大我は毎日逃げる日々を送っている。

「…ここ何処だ?」

今日は逃げるためにかなり奥のほうまで来てしまっていた。
城の中は半端なく広い。
幼少時、兄と探検に出かけて二日間迷子になった事もある。故に大我の頭の中では自分が必要な場所以外は覚えなくてもいいと決めていたので完全に迷ってしまっていた。

辺りを見回してもシンと静まった廊下に訳も分からない肖像画がやさしく微笑んでいるくらいで…

「っ…」

日も当たらないその場所は何かが出そうで悪寒が走った。
戻ろう、そう思って引き返そうとした時に背後から羽交い絞めにされた。

「たーいーがー!!」

「げっ!アニキっ!」

首を締め上げんばかりに力を込める腕を顔を真っ赤にしてはがそうと試みるがそれも無意味である。
彼はここまで来ると気絶するまで止めてはくれない。
いつもは意識を手放した大我を引きずって連れて帰る順平であったが、二人とは離れた場所から大きな鈍い音に動作が止まった。

「…なんだ?」

「げほっ…てめっ、いい加減手加減しろ「しっ!」

順平に止められる言葉に詰まるとそれと同時にまた音が響く。

ゴトッ

ガタガタッ…

「…なぁ。アニキ」

「なんだよ。」

「あの音、なんだよ…」

「俺に聞くな。」

二人してささやきながら音の主を探す。
突き当りの大きな扉の奥…そこに音の元凶がある。
二人は目配せをして近づいていく。怖いもの見たさ…というのもあるのかもしれないが、単純に感覚的に行けと言われているような錯覚もあった。
大我がそっとその扉を開けた。
すると、扉の隙間から陽の光が差し込んで二人の視界を錯乱させた。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ