*Long2*

□となりの彼氏 36
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春奈ちゃんだったらすんごく笑顔で「どーぞど−ぞ!」なんて言いそうだったけど
いたのは秋ちゃんたちだったから、普通に笑って「えぇ」とか「仕方ないですね」と言われて私は私が返事をするよりも早く貸し出された。


え、あ、なんだろう?



「悪いな」



不思議そうな顔をした私に気付いたのか、風丸君が謝る。

ちょっとした笑顔なのに、私の心臓は大きく音を立てて
暑さとは違った汗が噴き出すのがわかった。


「ううんっ、そうじゃなくて…どうしたのかなって」


秋ちゃんたちの前だと話せないことなのだろうか。
ていうかそんな話題ってなんだろう?

…こ、から始まるものではない、多分。というかそれはありえない。
あったら私はその場で爆発できる自信がある。
奇跡が起きた、と叫びたい。というよりも今すぐこの状況に叫びたい。



「…柏木サン?」

「はいっ!?」


びくっとして返事をすれば、ちょっと声が裏返る。
それに笑った風丸君は「ここらでいいか」と言って、
ベンチからも秋ちゃんたちからも少し離れた土手の斜面に腰を下ろした。
私もそれにならって座る。


「あ、悪いっ、下大丈夫か?」

「大丈夫だよ」


座ってから慌てたように服の汚れを気にするところが風丸君らしいなぁ、と思った。

夏の暑さに負けずに伸びる芝生からは緑の香ばしい匂いがする。

ちくちくと、でも幼い頃にも慣れ親しんだであろう地面の感触を懐かしく思いながらも
そっと風丸君を伺えば、なぜだか神妙な顔をしていた。

言おうとして迷って、でもまた言おうとしてやめる、そんな様子で言葉を探しているようにも見えた。


…一体何だろう

え、実は私の歯に青海苔ついてますよ、とか?
いや、青海苔が入った食べ物は今日食べていない。

じゃあ一体―



「あのさ」



いつだか修也のことを聞かれた時と同じ言葉で始まった会話だったけれど
雰囲気が険悪というわけではない。
ただ風丸君がとても不安そうというかなんというか、どこか申し訳なさそうな感じ。


「うん」


どうしたの?と目で促せば
一旦足元の緑に視線を落とした風丸君はようやくその口を開いた。



「…こないだの飲み会で、俺、何か柏木サンに言ってなかったか」

「へ」



あ、なんかすっごく間抜けな返事をしてしまった
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