*Long1*

□恋猫10
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置かれていたタオルをかぶって、まったくもってサイズのあっていない
だぶつく服、きっと名無しさんの父さんの、を適当に着て、湯気を出しながら脱衣所を出る。
すると出てすぐに、わざわざ待っていたのか名無しさんとすぐに目が合った。

「…ちゃんと入れた?」

「ん」

そんなに心配だったのかよ
だったら一緒に入ってくれればいいのに

ちょっと呆れて見ていた俺だったけど、名無しさんはというと
ぽたぽたと雫が落ちる俺の髪を見て顔をしかめた。


「もう、ちゃんとふかなきゃ」

「うわっ」


そうしてわしゃわしゃといつも俺を風呂に入れたように
頭をふきはじめる。

タオル越しに感じられる柔らかな掌。
どこか優しい、でもいつもよりもちょっと強めな力加減からは
しっかりと名無しさんを感じた。


「これでよし」と満足げにうなずいた名無しさんは
すっかり下を向いてされるがままになっていた俺を見てはっとした。


「…あ、ごめん…でも頭はちゃんとふかなきゃだよ」

そしてなぜかばつの悪そうな顔で言う。

…そんな顔しなくても、っていうかいつもしてるじゃん


「はいはい」


適当な返事をして名無しさんの部屋に行こうとすれば
今度は慌てた様子で呼び止められる。


「ちょっと、どこ行くのっ?」

「どこって…、名無しさんの部屋。寝る」


そう言ったらとんでもない!って顔された。
もうっ、と怒ったように小さく叫ぶとどっかに消えて、
あのうぉんうぉんうるさい熱風がでるやつを持って再びやってきた。



げっ



「乾かしてから寝る!これ絶対っ」


あれうるさいから嫌いだっ


「拭いたからいいよ」

「よくないっ」


逃げ出そうとした俺の手首をがっしとつかんだ名無しさんは
リビングまで俺を引っ張ってくると無理やりソファに座らせて髪を乾かし始めた。


ううん、まだ全身じゃないだけいいのか
…でも耳元うるさい


髪に触れる名無しさんの手はいつもよりぎこちなかったけど、
時間が立つにつれてどんどんそれは自然となっていった。

時折指通りを確かめるようにすーっと上から下に向けて髪をひく。
猫だった時、背中をなでるようにすーってさ。


「…なんか、楽しんでる?」

「えっ」


ぎょっとしたような声があがった。
見つめていると視線が泳ぎだす。

ぶぉおーと風がなる中、カチリ、音がして静かになれば
ちょっと気まずそうに名無しさんは言った。


「…兄弟がいたらこんなだったのかなって」


名無しさんは一人っ子だ。
ていうかそうじゃなかったら夜中さみしいって言って、泣いたりしない

ばつの悪い顔をしている名無しさんの手は握りしめられていて、赤かった。


…兄弟ね



「…ま、別にそれでもいいけど」


俺が目指してるのはそれじゃない一番なんだ


びっくりしたように目を丸くした名無しさんだったけど
最後に小さくうふふと笑った。



…喜んだの?



前を向かされたからもう名無しさんの顔は見えないけど
にこにこしながら俺の髪を乾かしているのを想像したら
なんかくすぐったくて、でもどこかもぞもぞした。




途中「自分でやる?」と思い出したように名無しさんが言ったけど


誰がやるもんか


それに首を横に振って
結局うぉんうぉんうるさい音をすぐ近くで聞き続けた。



(いつも通りだけど少し違う、風呂上がり)

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