*Long2*

□となりの彼氏 21
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来た道を引き返しながら
日が傾き始めたキャンパス内を歩く。

楽しかったA大学潜入だったけれど
最後の最後で若干私の心は曇ってしまった。


「本当は駅まで送って行きたいけど・・・悪い、練習があるから途中までで勘弁してくれるか」



ふと風丸君が私を見ながら言う。



「えっ、大丈夫だよ。むしろ途中まででも送ってもらえて、嬉しい」



黒、までは行かずとも藍色の悲しい
やり場のない自分に対する惨めさを感じていた私は

急に話しかけられて表情を繕うことができなかった。



それを別の意味で受け取ったのか
彼はますます申し訳なさそうな顔をすると



「本当はバイクで送りたかったけど・・・」と言いだした。



バ、バイクっ!?


今さらだがアパートから最寄りの駅までは遠くはないが
決して近くはない。駅から大学までも少し歩くけど
忙しいサークルに属しているのに、通学は大変じゃないのかと思っていたけど





「バイク!?」



あぁ、そういえばアパートの片隅に400CCがあったような・・・



「あ、あぁ」



私の表情が相当変わったのか、
今度は風丸君がちょっと驚いたように返事をする。


バイクということは、2ケツ・・・?
そ、卒倒ものだ・・・っ



「いやっ、全然大丈夫ですっ、もう何の問題もないですっ」


想像しただけで耐えきれなくなった私は
ぶんぶんと手をふって断る。

それを見てまた目を丸くした風丸君だったけど
次の瞬間、ふっと表情を和らげた。




「・・・良かった」




心からの声とでもいうような、優しい、ほっとした響き。
一緒になって細くなった目は優しくって仕方ない。



「最後の最後で、つまらない思いをさせたかと思って」


ごめんな、あんなはずじゃなかったんだけど。
少し、不安だったんだ。



その言葉を聞いて、ふいに私の歩くペースが落ちる。



「どうした?」



それに気付いて彼も歩みをゆるめると
穏やかな顔を向けた。

色んな感情がいっぱいで、
ちょっとだけ、声がつまった。




「ううん、・・・楽しかったなぁって」



にっこりと上手く笑えただろうか。



暗く、重い曇天をはねのけて、
どうしても感謝の気持ちを表したかった。

笑った私を見てきょとんとしてから
嬉しそうに彼も笑う。

夕日のせいかわずかに彼の頬にも
朱色を落としたように見えた。



「吹雪もヒロトもいいやつだろ?」

「うん、そうだね」


ちょっとしつこいところあるけどな、と
少し遠い目をした風丸君はきっと
吹雪君とのやりとりを思い出しているのだと思う。



潜入も、これにて終了。



門までの道中、ふと気付く。


感じていた不安も、恥ずかしさも、劣等感も
すべて、きっと1つの感情から来ている。

すとん、と
すべてはそれに集約されるというか
はまってしまうのだ。


隣を歩く彼を見て思う。




この人の隣に恥ずかしくないように立ちたい




「ん?」

「えっ、いや、何でもないっ」



こんなにもちゃんとしたものに、
はっきりと形になるだなんて思わなかったのに
今日、わかってしまった。









風丸君が、好きだ。
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