短編
□2分41秒の記録
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甘い余韻を残した身体をシーツに埋めて、心地好い眠りに漂っていたユウナは、異変に気付いて目を覚ました。
闇の中、無意識に伸ばした手に触れるはずの温もりー
つまり、自分を抱えて眠っていたはずの彼を捉えなかったのだ。
少し窪んだシーツをそっとなぞると、ひんやりと冷たい。
彼がベットを抜け出してから、随分と時間が経っているようだった。
起き上がったユウナはべットサイドのランプに火を灯すと、着衣を整えて寝室を出る。
が、家中の何処を探しても彼はいない。
不安を募らせて、もう一度辺りを見回すと、目に止まったのはリビングの角にある籐の籠。
いつもそこに収まってるはずの彼のブリッツボールがない。
……こんな夜中に?
訝しげに首を傾げながらも、彼の行方がわからないまま眠れるわけもなく、ユウナは白いワンピースに上着を羽織ると夜の闇に飛び出した。
1年を通して常夏のビサイドとはいえ、真夜中は少し涼しい風が村を吹き抜けていた。
空高く上った丸い月の光が道案内をするように暗い夜道を照らしている。
潮の香りにさそわれるまま、ユウナは足早に海岸へ向かった。
辿り着いた砂浜に足を捉えられながら、目前に広がる暗い海に懸命に目を凝らす。
けれど、昼間より少し高い波間に彼の姿は見えない。
途端にさっきまで押さえつけていた不安がユウナの胸をギュっと締め付けた。
心臓の音が忙しくなり、激しい焦燥感が彼女を襲う。
深夜の村に響かせることに少し躊躇いはあったが、ユウナは指を口許に運ぶと、海に向かって呼び掛けた。
ピイー…
いつもより高く鳴り響いたその音は
波に飲み込まれ消えていく。
しかし、ユウナの呼び掛けに答えて、波間に鮮やかな髪が浮かぶ気配がない。
『ある日、海にトレーニングに行って、それっきり行方不明さ…』
彼女の脳裏に在りし日の彼の言葉が過った。
まさか…
かぶりを振って、再び口許に指を添える。
それはユウナの悲痛な叫びのように、長く強く鳴り響いて、波のざわめきを消した。
バシュッ!!
指笛が消え去ると同時に勢いよく
海面から飛び出したのはブリッツボール。
ゆっくりと弧を描き、波打ち際を越えて砂浜に舞い落ちる。
はっ、としたユウナはボールが飛び出した波間に目を凝らすと
「ぶはぁっ!」
水しぶきをあげた水面から、金色の魚のように愛しい人が大きく息を吐き出した。
ティーダ…!
半泣き状態で声にならない彼の名を叫んだユウナはティーダを見つけて安堵したのも束の間、駆け寄ろうとした矢先で息を飲む。
彼の姿が虹色に透けるように見えたから。
いくつもの幻光虫が放つ光のように。
それはほんの一瞬で。
すぐに月の光が海に反射して、彼に映っただけだとわかったのに。
石化したように足が梳くんで動けない。
彼が消えてしまった悪夢の夜明けが
ユウナの中でフラッシュバックする。
ティーダは海中に浮かんだまま、砂浜で茫然と立ち尽くす人影に目を見開いた。
「ユウナ!?」
自分を呼ぶ彼の声にユウナの体が弾かれたように跳ねる。
硬直が解かれた彼女は砂を蹴り、波打ち際に向かって泳ぐ彼に駆け寄った。
セルシウスから飛び出したあの再会の日のように、一刻も早く彼の温もりを確かめたい。
あと一メートルほどの距離ももどかしくて、ティーダが彼女を受け止めようと手を広げるより早く、ユウナはその胸に飛び込んだ。
「ちょっ、ユウナ!うわぁっ!」
あまりの勢いにバランスを崩したティーダはユウナを支えきれず、二人はそのまま海の中へ倒れ込んだ。
ユウナを抱えたまま水中に沈んだティーダは、慌てて体勢を整えようとする。
だが、ユウナは彼の存在を確かめるように、その体にしがみついたまま離そうとしない。
脅えた子供のようなユウナの様子を目の当たりにしたティーダは罪悪感で一杯になった。
彼女の体を思ってこその行動が裏目となり、結果としてユウナを極度の不安に晒してしまったことを悔やんだ。
それと同時に、これほどまでに自分を求めてくれる想いに、不謹慎ながらも沸き上がる幸せを感じずにはいられない。
ティーダは自分の胸に顔を埋める彼女の頬に手を添える。
ようやく顔をあげた愛しい人は今にも泣き出しそうな微笑みを浮かべる。
前にも、こんなことがあったねー。
海の中でもキラキラと輝く二色の宝石がそう問いかけたように見えた。
それに答えるかのようにティーダは満面の笑みを浮かべる。
暫く見つめあった二人は、引き寄せられるように唇を重ねた。
彼女の潜水記録は2分41秒ー
優しい波と甘い思い出に揺られながら、ティーダはゆっくりと塞いだ唇から酸素を送り込んだ。
END
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いかがでしたでしょうか。
ちょっとクドイ感じになった上に、分かりにくいですかね?
早い話、ティーダがいなくなったので、また消えちゃったのかと不安になったユウナが書きたかったんですが、伝わっているかどうか……ユウナより管理人が不安です。
PCでの閲覧が多いので、今回は1ページで仕上げました。
このお話には続きを考えており、裏に突入します。
UPの際は宜しくお願いします。