IS 〜天使の翼〜2

□第55話
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多くの人々が訪れる学園祭には、大半が一般人なのだが中には変わった業種の人も多数紛れ込んでいた。
ラウラ・ボーデヴィッヒ率いるドイツ軍最強の (シュヴァルツェ・ハーゼ)の副隊長、クラリッサ・ハルフォーフ大尉もその一人である。 

「なかなかの警備だが入場に必要なのがチケットと身分証明書だけとは……かなり緩いな」 

いざとなったら偽造チケットを作成して侵入しようとも考えていたがラウラから正規のチケットを送ってもらった為、他の客同様に正面から学園に入った。 

「IS関連のエリアは流石に厳重か。だが、それ以外は通常の学園のそれとはあまり変わらないか……目新しいものも無いな」

監視カメラや警備員こそ多いが、現役特殊部隊員のクラリッサにしてみれば温い警備である。

「さあ、警備体制の偵察も終えたことだ……ぐふふ。さあ隊長、あなたの頼れるお姉様、クラリッサ・ハルフォーフが参りますよ!」

傍から見たら不審者が居ると通報されかねない笑みを浮かべながら目的の場所へ足を運ぶ。

「ここなら視界も広く教室が見渡せる、逆に室内からは生い茂る木々が私の姿を隠してくれる。偵察に適したいい場所だ」

そこは校舎から少し離れたジョギングコースに併設された休憩スペースだった。
簡素ながらも海風に耐える屋根に木組みのテーブルとベンチ、そこを囲うように花壇があった。

「この木がちょうどいいな」

花壇の更に奥に踏み入り、駆け上がるように木に登る。
目的の1年1組の教室から身を隠すように陣取った。

「隊長は何処へ……」

肩から下げたカバンから取り出したものは『軍用狙撃銃 MSG90』――のスコープだった。

「……おっ、おお!!た、隊長……なんと愛らしい!!!」

スコープを使い、ラウラを発見したクラリッサは歓喜の声を上げた。
休みの日ですら軍の訓練着で過ごし、オシャレの『オ』の字すら知らなかったはずの隊長がフリルの入った、いかにも女の子らしい格好でご奉仕しているのだ。

「これは……記録せねばっ!!!」

すかさずカバンから違法改造を施したカメラを取り出し、機関銃の如き速度でシャッターを切る。

「いや〜、眼福眼福ですよ。隊長」

『うぇへへへ…』と、不気味な笑みを浮かべていた。

「うむむ、あれは……」

カメラからスコープに切り替えて再び教室内を覗くと忙しそうに走り回る執事服の生徒が一人いた。

「あれが教官の弟……世界でただ一人の男性操縦者か……」

スコープのレンズに映る彼はごく普通の少年にしか見られない。
客に呼ばれてせわしなく動き続け、時には過度なスキンシップを求められても驕らず、しっかりと断る姿は好青年と評価できる。

しかし、これはあくまでも外見だけを見たに過ぎない。
彼しか持ちえない力――すなわちIS操縦者としての腕前を是非とも見てみたい。

「だが、今回はお預けだな」

偵察する価値のある情報なのだがそれを確認する事はできない。

「――さて、私としてはこちらの方が……お、見つけたぞ!」

隊長と同じくらいの身長で腰まで伸ばした金髪にオッドアイ、車椅子か杖を使っているロリ巨乳……と、ラウラとの通信記録や独自に集めた情報を頼りにクラリッサは見つけた。

「あれが星神ソラ……」

隊長に変化をもたらした少女。そして、好意を寄せている相手。
教室の出入口で一人だけデザインの違うメイド姿の彼女は自然で柔らかい笑顔で接客をしていた。

「ほぉー……素晴らしい!」

これほどの逸材だったとは思わなかった。
彼女の振りまく笑顔は見ている者も思わず頬を緩ませるもので、クラリッサも例外ではなかった。

「お、こっちを見た!」

ここぞとばかりにカメラのシャッターを切る。
容姿もスタイルも文句なし。性格も心優しいく、いつでも笑顔。
これは隊長が嫁にしたい理由がわかる。
ただ問題があるとしたらISの技術者・操縦者として彼女の才能が高い過ぎることだ。

せめて、彼女が何処かの国に属しているのであれば積極的にアプローチできる。
例えば、新型武器の共同開発の為に数カ月滞在とか。
そこから最終的には我が国の永住権を獲得するのも一つの手なんだが……。

「個人がISを所有する事ですら問題なのに技術も持ってるとなると……」

下手すれば国際社会から孤立し、他国から非難殺到なんて事もありえる。
隊長には申し訳ないが今は学園内だけのアプローチにしてもらうしか無い。

「それにしても……何でこちらをずっと見ているのだ?」

単純に接客が疲れたから外を見ているのだろうが、いくらなんでも長過ぎないか?
特に珍しいものがある訳でも無いのに何故――

「――まさか!」

気付いたと言うのか?
約1000mも離れているのに?
木々や茂みを挟んでいるというのに?

「ククク、ハハハハ……」

私は彼女に非礼しなければならない。
操縦者としての才能はその愛機のお陰な訳がない。
いかに兵器が優れてようと扱うのは人だ。
身体にハンデがあるからと言って気にも止めなかったが、それは大きな間違いだ。

「アハハハッ――!」

彼女もしっかりと化け物じゃないか。 

「――おい、そこの不審者」

――ヒッ!!

突然、聞き覚えのある声を掛けられて木の枝から足を滑らせた。

「痛てて……ゲェッ!」

受け身を取れず、お尻から落ちたクラリッサは声を掛けてきた人物を見て顔をこわばらせた。

――よりにもよって一番見つかってはならない人に、見つかった。

「お、おおお、織斑教官ッ!!!」 

「む?私の事を知っているとはな。貴様、一体何者だ?」

「クラリッサです!ドイツ軍の特殊部隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)所属クラリッサ・ハルフォーフです!」

「――知らんな。お前の顔も見覚えがない。うむ、記憶に無いな」

「そ、そんなああああぁぁぁ……!?」

クラリッサの悲痛な叫びを無視しつつ、手に取ったのはカメラ。

「――ほう、生徒の盗撮か。しかも私のクラスを狙うとはいい度胸しているな。……没収」

「待って下さい。せめて、隊長の写真だけでも!」

「――却下。他にも変なもの持ち込んでいるかもしれんな。さあ、職員室へ行くぞ!」

「きょ、教官!お見逃しくださあああいいいい!!!」


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「はぁっ!?2時間待ちだとぉ!!」

「ああ、もう!お兄の方向音痴のせいだからね!」

「仕方ないだろ、初めてきたんだから!――てか、蘭も間違えていただろ!!」

「えー、せっかく一夏さんとソラさんに会えるのに……」

迷子になりつつも1年1組にたどり着いた弾と蘭だが、どこかの夢の国みたく長々と続く列には動揺が隠せられない。

「――あの、一般の方ですよね?それでしたら優先列があるのでそちらへ」

『最後尾』と書かれたプラカードを持った見知らぬ生徒の助言を聞いた二人は、顔を合わせると頷いてからすぐさま足を動かした。


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「ふぅ……」

教室内に設けられた簡易キッチンの隅に一夏は居た。
2時間近くずっと接客をしていてようやく取れた休憩時間は1分1秒たりとも無駄にはできないものだった。

午後からどうしようかな……。
ソラと一緒にあちこち回りたいのだが、絶対にいつものメンバーが誰かしら居る。

まあ、仕方が無いか……。

「「はぁ……」」

ため息が重なり、誰か居たかと周り見るとキッチンの出入り口側に一人隠れていた。

「あれ、のほほんさんも休憩か?」

「うん、そんなかんじ〜」

珍しくきちんとした格好……では無いが、皆と同じタイプのメイド姿はいつものダボダボ制服では気付けなかった身体のラインがハッキリと現れていた。

意外とのほほんさんってデカイもの持ってるな。
ソラといい勝負じゃないか?

「――おりむー。今、やらしい事思ってたでしょ?」

「なっ!そ、そんな事、無いぞっ!」

のほほんさんはやや怒り気味な様子で腰に手を当てながら俺の方を見てるが……。

胸を張ってる為かさっきよりも強調されてる。
これは眼福眼福……じゃねぇ、青筋立ててるわ! 

「女の子はね、そういうの結構敏感なんだよ〜。――だから、止めて」

「ア、ハイ。スミマセンデシタ……」

先程より起こった声色で、何より普段怒らない人が怒ってるのは怖い為すぐに謝った。

「――そ、そう言えば、仕事の方はいいのか?確かソラと同じ受付係だったよな」

「露骨に話題変えてきたね、おりむー。……ほっしーとは今はちょっと、ね……」

言いずらいのか言葉を濁したまま、のほほんさんはキッチンから出ていった。

「あの二人喧嘩でもしたか?」

二人が言い合うことなんて見たことないんだが、珍しい事もあるものだな。

「――て、休憩時間が終わってしまった!全然休んでいないんだよな……」 

しぶしぶ、キッチンから出てくると相変わらず入口には順番待ちの列が見える。
相変わらず、受付係のソラが忙しそうにしていた。


「お帰りなさいませ、ご主人さま、お嬢さま」

「……こ……これはヤバい……!」

「ソラさんお久しぶりです。……お兄、鼻血出てる……」

「あはは…。二人とも久しぶり」

「――おお、弾!それに蘭もよく来たな!」

聞き慣れた声が聞こえ、そちらに目を向けると親友の弾とその妹の蘭だった。

「一夏てめぇ!こんな夢と希望に溢れてるところを独り占めかよ羨ましいぞ!今日は誘ってけれてありがとう親友ッ!!!」

「お、おう。すげぇ喜んでいるなお前」

「げ、元気だね……弾君」

「二人ともすいません。お兄がアホで……」

「取り敢えず席に座ろうか。――ご案内します、ご主人さま」

ソラのメイド姿を見ながら『ご主人さま』と呼ばれた弾は興奮のあまり頭のネジが吹っ飛んだらしく――

「ヒヤッホォォォウ!最高だぜぇぇぇぇ!!」

「「弾/お兄、うるさい!」」


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「それで、メニューは何ある?」

「はい、こちらになります」

ソラから渡されたメニュー表を見ていた弾は、ある項目に目が止まった。

「ソラさん、ソラさん。つ、追加オプションの『ご主人さまへあーん♡』っと言うのは、もしかして……」

「はい、ご主人さまへ『あーん』して食べさせるという意味です」

「――これ、お願いします!」

「弾てめぇ、ソラに何させようとしてるんだ!ソラもさらっと受付から接客に変わってるんだ!?」

「弾君。私じゃ、だめ……?」

「――フ、君しかいないだろ」

おい、親友。お前喜んでやってるだろ……。
ほら、蘭からもなんか言ってくれよ。

「一夏さん、一夏さん。つ、追加オプションの『執事とポッキーゲーム』っと言うのは、もしかして……」

「そ、それに書いてある通りだ……」

お前もか、蘭ッ!
そう言えばこの兄妹は同じ思考回路だったな……。


注文後、軽く雑談を挟んでいたが、いよいよその時がきてしまった。 

「――それではご主人さま、『あーん』です」
 
一口サイズのケーキをフォークに乗せて、弾の口へ運ぶソラ。
 
「あ、ああ、あーーーんッ……」
 
そして、頬を赤くしながら奉仕を受ける親友はとても嬉しそうだ。
――殺意が芽生えそうな程にな。

「い、一夏さん。わ、私にも……」

「おっと、すまないら――んんッ、お嬢さま」

いかんいかん。
知り合いがきてるからと言って普通に呼んでしまうところだった。
それにしても親友の妹とは言えど、女の子が目を瞑りながらポッキーを咥えてる姿は無防備過ぎだろ。

「それではお嬢さま。よろしいですね?」

「ふぁ、ん……」

手を頬に添えながら一口。また、一口と食べ進める。
 
――パキッ。

「……なっ、何で、一気に!?///」

真ん中くらいまで食べたところで一夏は、一気に食べきった。

「お嬢さま、ここから先は恋人になってからですよ」

「は、はい…///」

蘭は顔を手で隠しているが耳まで真っ赤にしていた。

満足してくれたのか、または恥ずかしくなったのか、定かではないが二本目に手を伸ばさなくて一夏はほっと安心していた。


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遅くなりましたがあけましておめでとうございます。タマです。

昨年は全く更新できずにすみませんでした。
今年は日曜だけでも休みを取るのを目標にしているので執筆の時間も確保できるはずです。

まあ、次回の投稿は『IS 〜天使の翼〜』を予定しています。

では、このあたりで失礼します。

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