IS 〜天使の翼〜2

□第45話
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「それじゃあ、片付けお願いな」

「うん、任しておいて」

お茶に使ったカップや皿をキッチンのシンクに運ぶとソラは髪が邪魔にならないように頭の後ろで一纏めに縛り、食器を洗い始める。

「ソラ、テーブル拭き終わったよ」

「ありがとう、シャルちゃん。ごめんね、お客さんなのに」

「いいよいいよ。他にも何か手伝える事ある?」

「ううん、大丈夫。すぐ終わるからちょっと待ってて」

テーブルを拭いた布巾をキッチンに戻したシャルロットはぼーっと、洗い物をしているソラの後ろ姿をソファーから眺めていた。

(ああ、いいねぇ……こういう二人きりの生活もしてみたいなぁ〜)

カチャカチャと食器が触れ合う音と水が流れる音を聞きながら妄想にふける。

(もしも、二人きりで生活出来れば食事も「はい、あーん」って、毎日食べさせ合う事も……一緒にお風呂に入り触れ合う事も……そして、そのまま朝になるまでベッドであんな事やこんな事だって出来ちゃうんだよね……///)

――ピンポーン

「ふぇ!なっ、何っ!?」

にへらっと、恥ずかしながらも愉しそうに自分の妄想を繰り広げていたシャルロットだったがそれはインターホンの音により中断された。

「ごめん、シャルちゃん。ちょっと出て」

「うん、分かった」

まだ、洗い物が途中なソラは動けないので代わりにシャルロットが出る。

ピンポーンピンポーン

「はいはい、今開けますよ――――えっ!?」

玄関の扉を開いたシャルロットは思わず固まった。




「俺の部屋なんて別に面白いものなんてないぞ?」

「そ、そんなことありませんわ!」

一夏とセシリアはリビングを出ては一夏の後を追って階段を上がる。

(せっかく二人きりになれるのですから何が何でも関係を進展させてみせますわ!)

セシリアはそう意気込むと同時に階段を上りきり二階についた。

「そう言えばセシリアの家って貴族だからやっぱり豪邸なのか?」

「ええ、そうですわね。土地も建物も大きく、使用人達を雇わないと維持管理が大変ですわ。その分、わたくしとしてはこういう庶民的な家は初めてなので面白いですけど」

一夏の何気無い質問に答え、二人は1つのドアの前のついた。

「へぇ、そうなのか。――さて、ここが俺の部屋だ。ちなみに階段側の部屋がソラの部屋で、その隣が千冬姉の部屋。ソラは出入り自由なんだが俺含め他の人が勝手に入ると殺されるから気を付けてくれ」

「は、はぁ。そう言えば織斑先生もここで暮らしているんですよね……」

あははは、と愛想笑いを返すと一夏はドアを開けた。

「まあそんなに広い部屋じゃないが、どうぞ」

「お、お気遣いなく……」

初めて入る異性の、想い人の部屋に踏み入れる。
ドキドキと高まる鼓動を胸に手を当てて抑えるが部屋一杯に広がる一夏の匂いに思わず、ぼーっとする。

「とりあえず、イスにでも座ってくれ。今、冷房つけるから」

「あ、ありがとうございますわ……」

(あれが一夏さんのベッド……あそこで何時も寝ていますのね……)

セシリアは一夏のベッドをじーっと見詰めながら一向に動かない。

「……リア……セシリア!」

「――ひゃっ、ひゃあい!な、何でしょう?」

突然、声をかけられたセシリアは滑舌のままならない返事をして反応する。

「セシリア、1階に来てくれ。みんなが来た」

「えっ?」

時間にして十分にも満たなかった二人きりの時間だったが出てきたのは不満よりも疑問の声だった。




「それで、誰にも言わずに二人して抜け駆けしようとしたのね?」

「「はい……」」

リビングのソファーには鈴、箒、ラウラ、簪、本音の四人が座り、フローリングの床にはセシリアとシャルロットが正座をしながら質問もとい取り調べが行なわれていた。

「なぁ、ソラ。何でセシリア達は床に正座しているんだ?臨海学校の時辛そうだった筈なんだが?」

「あはは……まあ、いろいろと複雑なんだよ譲れないものが関わるからね。――はい、全員分のお茶淹れたよ」

「おう、ありがとう」

お茶を載せたおぼんをリビングへ運び、テーブルに配るとちょうどソラもキッチンから出てくる。

「それしてもみんなして来るなら誰か一人くらい事前に知らせてくれよ」

「し、仕方ないだろ。急に暇になったのだから」

「そ、そうよ。来てあげたんだから喜びなさいよ」

一夏がごもっともな意見を言うが返ってくるのは理不尽な答えで自然とため息が出る。

「わ、わたくしは買い物をしていて忙しかったので……」

「ぼ、僕もうっかりしてて……」

「ソラ……ごめんね……」

「連絡するのすっかり忘れちゃったんだ〜」

みんな口ではそう言うが実際ところは全員が全員、ちゃんと予定を空けて遊びに来たのだ。

「ちなみに私は突然遊びに来て、驚かせてやろうと思ったのだ。どうだ嫁よ、嬉しいだろ?」

「あはは……ありがとう、ラウラちゃん」

一人ラウラだけがしれっとソラに告げ、それを見ていた他の女子達は「その自信が時に羨ましい……」と心の中で思っていた。

「ところでみんなこれからどうする?室内で遊べればいいよな?」

一夏の問いにこくん、と一糸乱れぬ動きで全員が頷く。
真夏の一番暑くなる時間になる為、誰も外に出たく無いのだ。

「そうなるとやっぱりゲームだよなぁ……みんなが出来そうなのあるかなぁ?」

一夏はテレビ台にしまってあるゲーム機を準備しながら探す。

「――あっ、一夏。これとかいいんじゃないの?」

テレビに一番近い席に座っていた鈴が横目で見つけたのは某大手ゲーム会社で数作品も開発・販売され、毎回シリーズ化しているアクションレースゲーム ま○おかーと9。

「オフラインだと四人が限界か……コントローラーは?」

「四つあるわ。やった事ある人は?」

「私は無いな……引っ越しばかりだったからな……」

「わたくしもですわ……ボードゲーム等は得意なんですがこういう物は……」

「う〜ん……見たことはあるけどやった事は……」

「分からん、軍では見たこと無いぞ」

鈴の質問に対して予想通り海外勢(+箒)は全滅し、残ったのは簪と本音だけだった。

「とりあえず、分からない人は説明書読んだりやっているのを見てればいいんじゃない?」

「それもそうだな。最初は誰がやる?」

プレイできるのは四人のため一人が余るのだ。

「私はやらなぁ〜い。みんなが最初でいいよ〜」

本音は普段通りのほほんとした様子で深くソファーに座り観戦する。

「え、いいの?私が一回休むよ」

「いいのいいの、その代わりに〜。――よいしょ、と!」

ソラの誘いを断った本音は隣に座っているソラを自分の膝の上へと座らせた。
全員の中でも断トツに小さいソラが乗っても本音の頭はソラよりも高く、画面を見るのに支障なかった。

「ほ、本音ちゃん!?降ろし――「はいはい、気にしない気にしない〜。早くゲームしたら〜?」……はぁ、分かったよ」

ソラは仕方ないと割り切るとコントローラを持って画面を見た。

「本音ばっかり……ズルい……」

「そうだな。では、私達も……」

簪とラウラは本音に先を越されたと思い、急いで隣に座るとソラへ身体を寄せる。

「ね、ねぇ、三人共。ぼ、僕も入れて――」

「だめ〜」「駄目……」「ダメだ」

床に正座していて乗り遅れたシャルロットが後から来るが三人共即答で断った。

「えっ、どうして……?」

「シャルルンは一人で遊びに来たからね〜」

「抜け駆け……」

「同室の私にさえ何も言わなかったからな」

「そ、そんなぁ……」

シャルロットら今にも泣きそうな声を出すが三人は目を合わせる事すらしなかった。

「それじゃあ、シャルルンにチャンスをあげるね〜。ゲームで12レースつまり3カップ全て連続総合1位になれたら私の場所と交代してもいいよ〜」

「えっ……ほ、本当……?」

床に手を付いて落ち込んでいたシャルロットは本音の言葉を聞くと一気にやる気を出した。

「ねぇ、本音……」

「それは当然、私達にも適用されるのだろうな?」

簪とラウラも確認の為に本音に聞き直し、「もちろん」と、答えを聞くと本人達も俄然闘志を燃やした。

「てぃひひひ……だから、私も本気でやるからね?(ボソッ)」

本音は両腕を膝に乗っているソラへ回し、後ろから抱き着くような格好をとる。
そして、誰にもに聞こえない程小さな声で囁いた。


ちなみに本音達のやり取りを横目で見ていた鈴が一夏の事をじっと見るが……

「ん、どうしたんだ?ゲーム始めるぞ」

「――わ、分かっているわよ!この馬鹿ぁ!」

本人の淡い願いは叶うこと以前に伝わりもしなかった。




「――それでな。スタート前のシグナル点灯時に特定のタイミングでアクセルボタンを押すと、スタートと同時にダッシュする。ただし、タイミングが早すぎるとエンジンストールやスリップを起こすから注意な」

一夏、ソラ、鈴、簪の四人は実際にプレイをしながら他の人へ説明する。

「ん?今、箱のような物に当たったが何だ?」

「あれはアイテムボックス。敵を妨害するのや自分を加速させたり色々とあるわよ。説明書にアイテム一覧があるから目通しなさい」

「ちなみに……出るアイテムはその時の順位によって変わる……。順位が上位だと強いのは中々出ない……けど、下位だと出やすい……」

「まだ、他にも操作方法があるからよく見ていてね」

そうして、一同は画面や説明書に目を配りながらレースを見届けた。




「あ〜、また負けた」

「あたしも久しぶりだから腕が落ちたわね〜」

「ソラ……強い……」

説明しながらのながら運転だったがレースの結果は4レース中、全てソラが1位を取って終わった。

「それじゃあ、次の人に交代しようか?」

一応一通りの説明もしたし、説明書も見たから初心者でも平気だろう。

「ソラ、次は僕にやらせて?絶対に1位を取るよ!」

シャルロットはやる気満々にソラからコントローラを受け取る。

(ふむ、予想通りシャルロットが名乗りを上げたか……)

(次はシャルロット……本音の席を狙っているんだろうけどそうはさせない!)

しかし、コントローラは次の人ヘ渡さないといけない。
先程のレースで1位を逃してしまった為、簪はやや焦る気持ちが先走る。

(シャルロットはISの操縦でもかなり器用な方だ……妨害を出来そうな人は……あの人しか居ない……)

他の人へ1位のチャンスを与えてしまうかもしれない苦し紛れの策だが同レベル同士ならレースも拮抗するだろと思った簪はコントローラを託した。

「ラウラ……頑張って!」

「簪か……まかせろ。奴に1位は渡さん!」

ガシッとお互いライバル関係の筈だがしっかりと握手をする。
二人の心の中では『打倒シャルロット!!(裏切り者・抜け駆け犯)』と利害が一致していた。

「ほら、箒。やってみろよ」

「う、うむ……。上手くできる自信は無いが……やってみよう」

「ほら、セシリア。あんたも頑張りなさいよ〜」

「ええ、もちろんですわ」

箒とセシリアもそれぞれコントローラを受け取り、ゲームを始める。

「本音ちゃんはまた休み?」

「まぁ〜ね。でも、次からは参加するよ〜(このポジションは誰にも譲らないからね)」

そんな会話をしながら白熱するレースを見届ける。




「あぁ〜、もうっ!また負けた〜。このカップなら絶対に1位取れると思ったのに」

はぁ……とため息を吐きながらガクっと頭を下げたのはシャルロット。

「そう落ち込むな、シャルロット。私たちも何度も負けているのだ」

「これからは協力しよう……?私達、友だちでしょ?」

落ち込むシャルロットをなだめるのはラウラと簪。
最初は二人してシャルロットを目の敵にし、妨害をしていたが今は違った。

「シャルルンが6連敗でラウランが8連敗、かんちゃんはまさかの11連敗だね〜。みんな弱い弱い〜」

全員が予想外の人物に負けてそれどころでは無くなったのだ。

「のほほんさん、強えぇ……さっきのレース、俺が前を走っていたらバナナの投擲を当ててきぞ」

「私もボムへいを投げつけられたな」

「わたくしはミドリ甲羅なのにスナイパーの如く当てられましたわ」

「それはあんたがちゃんと避けなかったからでしょう?ま、あたしも3連のミドリ甲羅避けれなかったけどね」

「そんなのまだまだ……私なんてゴール直前でミドリ甲羅の3連とアカ甲羅の3連を当てられてコースアウト……ジュゲムに釣り上げられて復活したら今度はスター状態のCPUに当たり再びコースアウト……順位は1位から最下位になった……」

「「「「うわぁ……」」」」

簪の被害を聞くと前者の人達は思わず苦笑いを浮かべる。
ちなみに、他の者も簪並みの仕打ちを受けた人はあまり居なかったが本音がゲームにとても強いと言うのは全員共通の認識となった。

「さてと、次はソラがやるか?しばらく休憩していたみたいだし――って、聞いているか?」

一夏がコントローラを渡そうと腕を伸ばすがソラは俯いたまま反応しない。

「あれ?ほっしー?」

不思議に思った本音が横から顔を覗き込むと……

「すぅ……すぅ……」

ソラはコクリコクリと頭を揺らしながら本音の身体に身を預けて眠っていた。

「うふふ、遊び疲れちゃったみたいだね〜」

母性本能を焚き付けられた本音は自分の胸の中で眠るソラが起きないように両腕で優しく包み込む。

当然これを見てシャルロット、ラウラ、簪の三人は羨ましそうに見ていたが本音は交代する気もお情けをかける気も無く、一人で堪能していた。

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