IS 〜天使の翼〜2

□第42話
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「ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐。ドイツの代表候補生でIS配備特殊部隊 シュヴァルツェ・ハーゼの隊長」

薄暗く、空気が淀んでいる部屋。
不快な湿度と結露した天井から落ちてくる水滴は、ここが地下であることを物語っている。

(――そうだ、ここは……)

『尋問に対する耐性訓練』の部屋であり、数十年前まで実際に尋問……いや、拷問に使用されていた場所である。
その証拠に床や壁には所々黒いシミが残ってる。

「気分はいかがかな?三日間の不眠と断食で顔色が良くないよ、ラウラ君」

椅子に縛られているラウラは目の前に居る女の言葉に耳を傾けたが、問いには答えずに無視した。

「ふむ、かけさせてもらうよ?」

女はラウラの正面にある椅子にかけると腕組みをして脚を組んだ。

(――スカートにヒール……?誰だ、こいつは……)

訓練官では無い。いや、それどころか軍人であるかさえも怪しい。

何時もとは違う様子に違和感を覚えたラウラは停止していた思考を蘇らせ、ずっと下を見ていた頭を上げて目の前に居る女の顔を見ようとする。

(――ちっ……部屋の逆光で見えんか……)

照明の光と疲弊した状態では女の顔を見る事はできなかったが、ラウラを見下ろす女の口元は確かに笑っていた。

「さて、それじゃあ尋問を始めようか。ラウラ君、愛国心はあるかな?」

女は手帳とペンを取り出すと尋問を始めた。

「ああ、当然だ」

「ふふ、簡単に嘘をつくんだね、君は。――愛国心なんて、これっぽっちも持ち合わせてはいないだろう?」

「そんな事は無い」

ふぅーんっと女はどうでもいいと興味無い様子で相槌をした。

「さてと、仲間はどこにいる?規模は?装備のレベル、作戦内容、後方支援、知っている事は全て話せ」

「言うはずが無いだろう」

「そうだね。では、こういうのはどうかな?」

部屋に備え付けられてたモニターの電源を入れると女の口元が笑みに歪んだ。
モニターの画面が砂嵐から回復して、そこに映ったのは――

「――ソラッ!?」

ラウラはモニター越しに映る姿に絶句する。

美しい金色の髪は乱れ、着ていた服はボロボロに破られ、身体のあちこちには切り傷、火傷、殴られた跡など暴行を受けた跡がしっかりと残っている。
冷たい床に倒れて涙を流すソラの姿を見て、ラウラはこれまでに無いほどの怒りを覚えた。

「ソラに何をした!?」

「ふふ、ちょっと私の部下が可愛がっただけだよ。君にも聞かせたかったなぁ……彼女、いい声で泣き叫んでいたよ」

「――貴様ぁ!」

ラウラは疲労も脱力も怒りで吹き飛ばして目の前の女に飛びかかろうとするが椅子に縛られている為、反動で床に倒れ込むがしっかりと睨みつけていた。

「こっ、殺す!殺してやるっ!――」








「あ、あのー……ラウラさん?」

「う……?」

場所はIS学園1年生寮 ラウラとシャルロットの部屋。
ラウラがシャルロットのことをベッドへ押し倒し、その首筋にはナイフが当てられていた。

「え、えーと……あのね?ラウラが夢でうなされていたから声をかけようとしたんだ」

「そ、そう……だったのか」

シャルロットに言われた通り、寝汗をかいていて肌に纏わりついてくる髪が鬱陶しかった。

「……で、いつまでこのままなのかな?」

「――そ、そうだったな。……すまない」

頸動脈に当てていたナイフを離すと、そのままシャルロットの上からも離れる。

「ん、別にいいよ。気にして無いから」

「そうか。助かる」

夢の内容は覚えていないが決して楽しいものでは無かったであろうと思いつつ、気分を変えるためにシャワーを浴びにいった。

「う〜ん、やっぱり裸で寝ているから悪い夢を見ちゃうのかなぁ……?」

ベッドに座り天気の良い、外の景色を見ながらシャルロットは一人呟いていた。








「――で、買い物に行くから私も誘ったって事?」

場所はIS学園では無く、駅前のデパートにラウラ、シャルロット、ソラの三人は来ていた。

「休日はデートをするものだと聞いたのだか間違っていたか?」

「いや、間違いでは無いと思うけど……何で腕を組んでいるの?」

「嫁をエスコートするのは当然だ」

ラウラはソラの右腕に自分の腕を絡ませて歩き出す。

左腕は杖がある為、必然的に腕を組むことができない。
シャルロットが羨ましそうに見ていたのは言わずもがな。

「で、最初は服を見るの?」

「うん。ラウラが学園と軍の制服しか持ってないからね」

シャルロットの言う通り今のラウラの服装は学園の制服だった。

デパートに入り、向かう先は人気の洋服店。

「人が結構いるな……」

「ラウラちゃんは人混みの多いところが苦手だもんね」

ラウラは店内の様子を見るとすぐさまの来た道へ戻ろうとした。

「やはり私には服など間に合っている。他のところへ行こう」

「はいはい。人が居るってことはそれだけ人気があるって事だよ。さあ、行こう」

ラウラの意見はシャルロットに却下され、三人は店内へ入って行った。

「すみません、この子のコーディネートをお願いできますか?」

「まあ、可愛らしい子!お任せ下さい、さらに可愛らしく仕立ててみせます!」

ラウラという容姿が良い素材を手に入れた店員はやや興奮気味の様子で店の奥へ行った。

「終わるまでしばらく店内でも見てようか?」

「そうだね。シャルちゃんは何が見たい?」

「う〜ん……あ!あれが見たいな!」

シャルロットが指をさした先にあるコーナは――

「ランジェリー……?」

「うん!」




さてと、何かいいのあるかなぁ?
僕の胸はソラほど大きくないがまだまだ成長期だからね、サイズに合ったのを選ばないと。

触り心地だってしっかりとハリと弾力があって揉みごたえには少なからず自信がある。
と言っても、以前揉んだソラの胸はマシュマロの用に柔らかく、肌に吸い付くほどきめ細やかでずっと揉んでいたかったくらいだ。

――おっと、話が脱線しちゃた。今は下着を選ばなきゃいけないのに……。
ソラはどんなのが好みなのかな?
シンプルな物、オシャレや可愛い系?それともセクシー……?

手に取ったのはオープンショーツ。
局部に穴や切れ目が付いていて、ショーツを穿いたまま局部を見せたり触ったりできるようになっていて、いわゆる勝負下着と言うやつだ。

さ、さすがにこれは無いよね……?

隠す、保護、吸水というショーツ本来の実用的機能が無く、勝負下着の中でも超過激な分類の物だ。

で、でも……!?もし、もしものソラがその……も、求めてきた時にはこういうのいるよね……?

「――シャルちゃん。良いのあった?」

「ふえっ!?ええっと……///!なっ、なにも無かったよ!」

突然、声をかけられたシャルロットは慌てて手にしていたショーツを元に場所に戻す。

「さっ、さあ!他のところを見ようか!」

「えー、私も見たいのにー」

「あっ!あれなんかどう?きっと似合うよ!」

心臓の鼓動は早くなり、顔はきっと真っ赤に染まっていだろうが関係ない。

ソラを他のところへ連れて行くのでシャルロットは手一杯だった。




それから数十分後。

「そ、その……すまない。待たせた……」

店の奥から出てきたのは店員と制服を入れた紙袋を持っているラウラ。

「店員が薦めてきたものなのだが……ど、どうだろうか……?」

ラウラは恥ずかしそうに二人へ見せる。

「すごい似合ってるし、可愛いよ! 」

「うん、とっても可愛いよ」

白地でフリルの付いたワンピースを身に纏っているラウラは可愛いと言う言葉に反応しては顔を赤くそめた。




「ふぅ、疲れたな」

「いっぱい買い物したからね」

時間は12時を過ぎ、3人はレストラン街に行き、洋食のお店へ入った。

「そういえば、ソラは何も買わなかったの?」

「確かに、何も荷物が無いな」

ボックス席に座るとラウラとシャルロットの足元には買い物袋があるが、向かいに座るソラの方にはそれらが一切無かった。

「私の荷物は全部ここに入っているよ」

ソラは二人へ首から下げているペンダントを見せる。

「あ!そのペンダントは……」

それはフランスへ行った時、シャルロットがソラにプレゼントした銀細工のペンダント。

「このペンダントに少し細工をしてね、ISのコアを一部埋め込んだんだ。それで量子変換とデータ領域機能を付けたんだ。こんな風に、ね」

ペンダントが一瞬光るとソラの手には幾つもの買い物袋があった。

「何と言うか……」

「もう、驚かなくなってきたな……」

「えっ!何だか反応薄くない!?」

二人とも驚きを通り越して呆れた様子でソラを見ていた。




「それで、午後はどうする?」

パスタ、ラザニア、ピザと各々が食べたい物を食べ、食後のドリンクで一息ついているとソラが午後の予定を二人へ聞いた。

「生活雑貨でも見て回ろうよ。僕、腕時計見に行きたいなぁ。ラウラは無いの?日本製で欲しい物?」

「日本製で欲しい物……日本刀だな」

「さ、流石にそれは……女の子的な物は?」

「無い」

ラウラは迷う事なく即答し、困ったソラとシャルロットは苦笑していた。




「はぁ……どうすればいいのよ、全く……」

隣の席からまるで今日がこの世の終わりみたいなほど、大きなため息が聞こえた。
見てみれば一人の女性がテーブルに突っ伏しながらブツブツ呟いていた。

「ねぇ、二人共――」

「ソラ、お節介も程々にな」

「困っている人を見逃せない性格だから仕方ないよ」  

「あはは……分ちゃった?」

ラウラとシャルロットはソラがどうしたいのか、すぐに分かった。

「あの、何かお困りですか?」

三人は席を立ち、隣の席の前に立つとソラが女性に声をかけた。

「うん?――あ、あなた達!」

三人を見るなり、女性は勢い良く立ち上がる。
店内にガタンッ!と椅子の倒れた音が響くが女性は別に気にする事も無く、そのままソラの手を握った。

「お願い!今日だけバイトしてくれない!?」

「「「――え?」」」



場所は変わって喫茶店の更衣室

「ソラちゃんー、着替え終わった?」

「はい、なんとか……でも、他のサイズって無かったんですか?」

「ごめんなさいね。もう、それしか無いのよ」

「はぁ……分かりました。これで頑張ります」

カーテンを開けて、店長さんに見てもらう。

「あら、ピッタリじゃない!十分似合っているわよ!」

「うぅ……スカートが短いからちょっと嫌だなぁ……」

普段穿いているIS学園の制服よりも短いスカートのため、ソラは恥ずかしそうに両手でスカートの端を押さえていた。

「僕達も着替え終わりました――って、ソラ可愛い!」

「うむ、さすが私の嫁だ!」

別のカーテンが開くと出てきたのはラウラとシャルロット。

「二人も着替え終わったんだ――って!シャルちゃん、ズボン穿いている!?私もそっちがいいです!」

店長へ抗議するが首を大きく横に振る。

「それは出来ないわ。いい?彼は執事、貴女はメイド。上がメイド服で下がズボンなんておかしいでしょう?」

「ぐぅ……そ、それは……」

確かに、とソラは店長に正論を言われて渋々諦めた。

「あの、僕は彼じゃなくて彼女なんですけど……」

「あっ、ごめんなさい!あまりにも似合っていたからつい、ね」

「でも、シャルちゃん。とっても格好良いよ」

(あはは……執事服が似合うって何だか微妙だなぁ。僕もソラやラウラみたいにメイド服着たかったのに……)

シャルロットはメイド服姿の二人を見てから、改めて自分の姿を見ると自然とため息が漏れた。

(――あっ。でも、ソラに格好良いって言われたから……うん。これはこれで良いかも……)

「店長ー!早くお店手伝って下さいー!」

「はいはーい。今行くわよ!」

お店の方から他の定員が助けを求めて声をかけてきた。

「さて、みんな準備はいい?」

シャルロットは執事服のネクタイを絞め、ソラとラウラはカチューシャを付けて準備万端。

「あっ……!」

「ん?何か忘れた?」

全員の準備が出来て更衣室のドアに手をかけた時、ソラがそういえば……と、ある事を思い出した。

「このお店、何て言う名前なんですか?」

「あ、そういえばまだ言ってなかったわね」

ソラの質問に対し、店長は優しい笑みを浮かべながら片手でスカートを摘み上げ、もう一つの手はドアの方へ向けてお辞儀をした。

「ようこそ、@クルーズへ」

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