IS 〜天使の翼〜2

□第41話
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八月。
IS学園の寮内に居る生徒の数は全体の半分程度まで減り、主に祖国や地元へ帰省している。

そんな中、国家代表候補生の一人である凰鈴音は既に学園へ戻っていた。

(うふふ!やった〜♪)

冷房の効いていない通路を一人、鼻歌を歌いながら歩いている。
その手にはチケットの様な紙切れが握られていた。

(ダメ元で出した前売り券に当たるなんてついてるわね!それに一夏も誘えたし、これって……デ、デートよね!?)

馴れない単語を意識してしまい自然と手に力が入る。

(おっと!いけない、いけない……。大事なチケットなんだから大切にしないと!)

軽くついたシワを伸ばしながら封筒の中に片付ける。

(あ……これ、どうしよう……)

チケットは一夏に渡した分と鈴自身の分、それと封筒の中にはもう一枚チケットがあった。

(前売り券に当たったのは良かったけど人数を書き忘れたから一枚多くきたのよね……)

一人が頼めるチケットの上限が三枚までで鈴は人数を記入し忘れたまま出したから、チケットは三枚届いたのだ。

(せっかくのデートなのに邪魔されても困るし……)

取り敢えず、一夏を狙っている箒とセシリアは誘わないと決める。

(かと言ってこのまま捨てるのも勿体無いわよね……)

誰かいい人居ないかな?と考えてながら歩いていたら、見覚えのある生徒が寮へ帰ってきた。

「ソラ、お帰り!一夏から聞いたわよ、シャルロットとフランスに行ったらしいじゃない」

「うん、ただいま。鈴ちゃんも帰ってきてたんだ。これ、お土産ね」

「あ、ありがとう――って、これ!?どうしたの?」

鈴はお土産を受け取り、中身を覗くとそこにはブランド物の化粧品が入っていた。

「鈴ちゃんが前に欲しいって言ってたからね。ついでに買ってきたんだ」

ソラの言葉を聞くと鈴は勢いよく抱き着き、頭を撫でる。

「ソラ、大好き!アンタってほんとっ良い子ね!持つべき者は大親友だわ!――そうだ!」

鈴は封筒からチケットを一枚取り出すとソラに渡す。

「ウォーターワールド?」

「そうよ。明日オープンする新しいプールなんだけど、行かない?」

「うん、行く。誘ってくれてありがとう、鈴ちゃん」

「それじゃあ、また詳しく知らせるわ。遅刻しちゃ駄目よ!」

そう言うと鈴は貰った化粧品を抱えながら、嬉しそうに自室に帰って行った。




「ふぅ……やっと一段落つきました」

机にペンを置き、山田先生は職員室の自分の席で熱いお茶をすすっていた。
真夏に冷房の効いた部屋で飲む緑茶は冷えた身体を温める。
IS学園の運用資金は一部税金が使われているので、一教育公務員としては胸が痛いです。

「(でも、今だけは許して下さい。やっと……やっと溜まりに溜まった仕事が終わるんです……)」

と言うのも今年はイレギュラーが多すぎる。

ISを扱える男子に何年も詳細が掴めなかった伝説のISとそのパイロット、各国から続々と集まってきた専用機持ち、頻発する謎の事件、更には国際IS委員会からの説明要求と身柄引き渡し命令……etc。

「(考えるだけでも頭が痛いのに困りましたね……)」

真耶は三枚の書類を机の上に順に並べると、自然にため息が出てくる。

書類には生徒の個人票が書かれている、織斑一夏、篠ノ之箒、星神ソラ。
この三人は代表候補生でも無いのに専用機を保有している。

「(織斑君はともかく、あとの二人が問題になっているんですよね……)」

三人の正式な帰属する国家は決まってないが一夏は倉持技研のテストパイロット扱いに一応はなっている。
しかし、箒とソラのISはどの国家の物でも無いのだ。
篠ノ之束が直々に開発した第四世代IS 紅椿とそれを超えるIS 聖天使はどの国家も喉から手が出るほど欲しがっている。

「(はぁ……なんで、私のクラスに色々と集中しちゃうんでしょうか……)」

考えれば考える程、胃が痛くなり真耶は思考を止めた。

「(……今はあまり考えずにおきましょう。それよりも、書類をFAXにかけて仕事を終わらせましょうか)」

お茶を一気に飲み干すと書類の束を抱えて席を立ち上がる。
すると、書類の一番下にあった紙が床に落ちた。

「あっ、いけないいけない。大切な書類――」

持っていた書類を一度机に上げて、床に落ちた書類を拾い中身を確認すると思考が凍り付いた。

「こ、こ、これって……」

こんな事が無いように書類は一通り目を通した筈なのだが、どうやら一番下にあった為見逃してしまったようだ。

「で、でもっ、すぐに書いてしまえば問題無いはずです!提出期限は――」

書類の文書を指で追いながら期限を見つける。

「あっ……まずいです……」

冷房がよく効いている職員室で真耶は冷や汗を流しながら狼狽していた。




「ふぅ、やっと戻ってこれましたわ」

IS学園の正面ゲート前に白のロールスロイスが止まり、メイドがドアを開けた。
車から降りてきたセシリアは真夏の熱気にうんざりしながらも気分は高揚していた。

溜まりに溜まった実家の職務、国家代表候補生としての報告、専用機の再調整、それ以外にもバイオリンのコンサート、旧友との親交、両親の墓参りなどを終えて、やっと日本へと戻ってこれたのだ。

「それでは、お荷物の方は私どもがお部屋まで運んでおきますので」

「ありがとう、チェルシー」

(さあ、わたくしは一夏さんに会いに行きましょうか♪)

頭を下げているメイドの横を通り、セシリアはスキップ混じりの足並みで一夏に会いに行った。








翌日。

「あら?」
「ん?」

ウォーターワールドのゲート前で二人は見知った顔を見つけた。

「これは、鈴さん。ごきげんよう」

「う、うん。こんにちは、セシリア」

二人共どうしてここに?と、疑問を抱くが少し離れた場所で待機していた。

(……遅いわね。まあ、ソラと一緒に来ているんでしょうね)

鈴とセシリアが何回も時計を見ていると、約束していた10時に近づく。

「ふぅ、やっと着いた……」

秒針が丁度0と重なった所に現れたのは日傘をさしたソラだった。

「遅いわよ、ソラ。先にプールに入ろうかと思ってたわよ!」

「ごめんごめん。思ってたより遠くて時間掛っちゃた……」

息を整えながら汗を拭くソラを見て、鈴は「まあ、仕方が無いか……」と呟き怒るのを止めた。

「それで、一夏は?一緒に来たんでしょ?」

「えっ……?知らないよ」

「…………マジ?」

「うん……と言うか一夏君が来るなんて私、聞いてないよ?」

ソラの言葉を聞き、鈴は慌てて一夏へと電話をかけた。

「もしもし!?あんた何してんの?馬鹿なの?今どこ!?」

鈴は携帯のマイクに向けて怒鳴るように話かける。

「悪りぃ……。今、学園だ」

「はぁ!?」

「あー、その、なんか突然山田先生が連絡してきてな。今日、白式のデータ取りをする事になった」

「それで……?」

「えーと、すまん。今日は行けそうに無い。セシリアにチケットをあげたから是非一緒に楽しんできてくれ」

「――このっ馬鹿ぁ!もう、知らないっ!」

携帯へ思いっきり怒鳴ると電話を切る。

(あの馬鹿!人がせっかく誘ったって言うのに〜!)

鈴の怒りの矛先は握っていた携帯になり、ミシミシと嫌な音がする。

「あら、ソラさん。久しぶりですわね――ってどうかなさいましたか?鈴さん」

セシリアはソラに声をかけると隣でわなわなと携帯を握り締めている鈴を見た。

「ふ、ふ、ふ、セシリア……よく聞きなさいよ……。一夏はここに来ないわ」

「…………」

瞬間、セシリアはフリーズした。
突然言われたことなので状況がうまく分からないセシリアだったが、これだけは理解した。
一夏はここに来ないと……。

「えーと……どうしてこうなったのかいまいち状況が掴めませんわね。説明して頂けませんか?」

「奇遇ね。私もよく分かんない状態だから、丁度聞きたいことがあるの」

二人は笑顔に血管を浮かばせて、にこりと微笑んだ。

「あの〜……二人共?取り敢えず、中に入ろっか?」








「だからっ!そのチケットは元々あたしが一夏にあげたの!なんでアンタが来ているのよ!?」

「それは何度も答えているでしょうが!わたくしは一夏さんに『ここに行かないか?』と誘われたのです!」

「チケットは一人一枚よ!アンタが一夏のチケット貰ってどうすんのよ!」

「そんなのわたくしに言わないで下さいよ!わたくしはてっきり一夏さんはご自分の分を持っているかと思っていましたし!」

ウォーターワールド内にあるカフェで二人はいがみ合っていた。

「まあまあ、二人共落ち着いて。周りの人がこっちを見ているから……」

「「ふんっ!」」

機嫌の悪い二人は顔を逸らして、頼んでいた飲み物を飲む。

「はぁ……あの一夏さんがわたくしをお誘いに来るなんておかしいとは思っていましたわ」

「ウソつけ。服とは気合い入ってるくせに」

「なっ!こ、これは、その……礼儀として、そう!淑女たる者の礼儀ですわ!」

「あー、はいはい。……で、これからどうする?」

コップに入っている氷をストローで回しながら、鈴はセシリアに聞いた。

「私とソラはこのままプールで遊んでくるけど、あんたは?」

「ここに一夏さんが居ないのは残念ですがお二人も居ることですし、わたくしもご一緒しますわ」

「よし。それじゃあ、早く行こうよ!」

三人は更衣室へと向かって行った。




「あれ〜?二人共どこに行っちゃたのかな?先に行っているて言ってたのに……」

更衣室から出てきたソラは先に行った二人を探すが利用客の多い施設の為、中々見つからない。

『ご来場、誠に有り難うございます。本日はオープンイベントとして水上ペアタッグ障害物レースを開催いたします。競技への参加希望の方はフロントへお届け下さい!繰り返します……』

「オープンイベントか……二人はそこに居るかな?」

園内放送を聞いたソラは取り敢えず、イベント会場となっている中央の巨大プールへと移動した。
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