IS 〜天使の翼〜2

□第40話
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「パリは夜景も綺麗だね」

「昼間とは違う景色を見してくれるからいいよね」

日が沈むとパリの街はライトアップされ、その美しさは秀逸だった。

「もう、車が着いちゃっているから近道するね」

迎えの車を呼び、待ち合わせ場所へ行くために近道をする。
人が賑わう大通りとは一変して、暗く寂れたお店が並ぶ路地裏を二人は歩く。

「シャルちゃん、ここいやだよ……大通りに戻ろよ」

ソラはシャルロットの腕を強く握り、不安そうな様子で話かける。
すると、普段とは明らかに違うソラの様子にシャルロットは驚き、来た道を戻ろうとするが――

「どうしたの君達?観光客?なら良い所があるんだけど一緒に遊ばない?」

二人に声をかけたのは数人の若い男達で見るからに遊び人だ。

「二人は姉妹かな?妹さんもどうだい?大人の仲間入りだよ」

シャルロットの後ろに隠れてたソラに一人の男が話かける。

「結構です!私達、急いでいるのでいいです!」

シャルロットは男達のリーダーにそう言うと歩き出すが、男達は大通りに通じる道を塞ぐ。

「まあまあ、そうつれないこと言うなよ。遊ぼうぜ?きっと楽しくなるからさ」

リーダーが気味悪い笑みを溢すと仲間の男達もニヤニヤと笑う。

リーダーは二人に近づき、手を伸ばしてきた。
すると――

「いっ、痛ででで!」

シャルロットは伸ばしてきた腕を掴み、骨が軋むまで思いっきり締め上げた。

「聞こえなかったですか?私達急いでいるんですよ。あと、馴れ馴れしく声かけないで下さい」

「わっ、分かりました。だから、腕を離して……」

男は地面に膝を付き、参ったと地面を叩く。

「それと、次邪魔してきたら遠慮しませんからね。――私達のデート代は高いですよ」

締め上げてた腕を離してバックから拳銃を取り出し、他の男達にも見せつける様にリーダーへ銃口を向けた。

「すっ、すみませんでした!もう、しません!」

そう言うと、男達は慌てて路地の奥へと姿を消していった。

「……ごめんね、ソラ。もう、大丈夫だよ」

「……うん。もう、行こう」

シャルロットとソラは手を繋いで、何も無かったかのように大通りへと戻って行った。






待ち合わせの場所へ辿り着いた二人は迎えの車に乗り込むとエリックの家へ向かった。

「立派な家がたくさんあるね」

「パリで一番の一等地だからね。僕もここに来たときは驚いたよ。――あ!あの家だよ」

家に着いて車を降りるとそこには豪邸程では無いが立派な家があった。

「シャルちゃんはここに来たことは?」

「二、三回位かな学園に来る前は会社の寮に居たし、その前は田舎の別邸だったからね」

玄関のインターホンを鳴らすと、扉が開きストロベリー・ブロンドの女性が現れた。

「ただいま、お母さん。ソラ、僕の新しいお母さんのミレーユさんだよ」

「はじめまして、ソラちゃん。父や娘から貴方のことは聞いているわ。ありがとう」

ミレーユはソラに頭を下げ、感謝の意を示した。

「頭を上げてください、ミレーユさん。私がやりたくて、やった事なので気にしないで下さい」

「そう言って貰うと助かるわ。さあ二人共、お腹空いたでしょ?お父さんも帰ってきているから夕食にしましょう」

綺麗な家具が並び、ゆったりとした空間のダイニングへ移動し、席に着く。

「二人ともおかえり。観光は楽しめたかい?」

「はい、とっても楽しかったです」

「それは、良かった。明日はお昼くらいから始めるからそれまで自由にしてて構わないからね」

エリックから明日の予定を聞くと、二人共頷く。

「はいはい、お仕事のお話は終わり。ソラちゃん、たくさん食べていってね」

ミレーユはそう言うと、料理をテーブルの上に運ぶ。

前菜のテリーヌ、スープのヴィシソワーズ、メインの魚料理のテルミドールなど、腕を振るって作った料理を食べる。

「お口に合うといいのだけれど、どうかしら?」

「とっても美味しいです!今度作り方を教えてくれませんか?」

「良いわよ、後でレシピを教えてあげるわ」

「あ、僕にも教えて!ソラに食べさせたいから……」

シャルロットはソラに聞こえない様に耳打ちする。

「あらあら、うふふ。シャルロットは積極的なのね」

「そ、そんな事は無いよ///」

シャルロットは恥ずかしそうに頬を赤く染め、ミレーユは嬉しそうに微笑む。

そんな新しい母娘の関係をソラは暖かく見守っていた。

(よかったね、シャルちゃん……)




夕食を食べ終え、リビングで談話していたら時間はあっという間に過ぎた。

「二人共、今日は疲れたでしょ?そろそろ寝なさい。シャルロット、ソラちゃんを部屋に案内してあげて」

「うん。ソラ、付いてきて」

欠伸をして睡魔と戦っているソラの手を引きながら寝室へと移動する。

「あれ……?シャルちゃん、ベッドが一つしかないよ?」

眠る用意をして二人はパジャマに着替えるが肝心のベッドは一つしか無い。

「大丈夫だよ。大きいサイズのベッドだから一緒に寝れるよ」

シャルロットが先にベッドに入り、ソラのスペースもある事を教える。

ソラもベッドに入るとシャルロットは向かい合わせになるよう寝転んだ。

「ソラ、来てくれてありがとうね。お父さんとお母さん、ソラに会えてよかったって言っていたよ」

「それは、よかった。私もシャルちゃんと観光する事が出来て楽しかったよ。それと、ちょっと……家族って言うのが羨ましかったなぁ……」

「ソラ……」

シャルロットは手を繋ぎ、そっと距離を詰める。

「実は知ってたんだ……ソラの両親の事。臨海学校の時に織斑先生が教えてくれてね。その……顔も覚えてないの?」

恐る恐るシャルロットが聞くと、ソラは首を縦に振った。

「名前も容姿も知らない……でも、『星神ソラ』この名前だけは覚えていたんだ。だから、一夏君と千冬お姉ちゃんの家族に入れてもらっても名前だけは変えなかったんだ。いつか、お母さんとお父さんに会う日のためにね……」

俯きながら肩を震わせている姿を見て、シャルロットは空いている腕をソラの背中へと回した。
すると、ソラはシャルロットの胸へ顔をうずめた。

「……ごめんね。今だけでいいから、こうさせて……」

「うん。落ち着くまでずっと良いよ」

ソラの頬には一筋の涙が流れ落ちていく。
シャルロットはその事に気づくが何も言わず、ただ落ち着くように背中を擦ってあげた。

(そう言えば……どうしてさっきは怯えていたのかな?)

路地裏での出来事をふと思い出したシャルロットは初めて見るソラの怯える様子が気になった。

(何か昔に合ったのかな?)

好奇心がくすぶらされるシャルロットだったが今のソラに聞くのは流石に気が引けた。








翌朝、二人は朝食を済ませると外へ出かけた。

車で移動すること一時間程。
都市部から離れて地方へ向かうと、大きな建物が少なくなり田畑が広がる。

「のどかな所だね」

町の商店街を通るが田舎の為、あまり人で賑わってはいない。
かと言って人数が少ない訳でもなく、親子揃って買い物をする人もいれば、カフェで仲間達と談話を楽しむ人もいる。

「ソラ、着いたよ」

車は公園の様な所に止まり、二人は中に入った。

「ここは?」

「公園墓地だよ。僕のお母さんもここに居るんだ」

「私……邪魔だよね?外で待っていようか?」

ソラは立ち止まり、シャルロットに聞くが首を横に振った。

「そんな事無いよ。お母さんも喜んでくれるから一緒に行こう」

シャルロットはソラの手を引き、歩き出す。

墓地の中程まで歩くとシャルロットは一つのお墓の前に立ち止まった。

「このお墓?」

「うん。本当のお母さんのエミリーだよ。……ただいま、お母さん。久しぶりでごめんね」

シャルロットは謝りながらお墓に花を置き、本当の母に挨拶をした。

「お母さんとお別れしてから色々あってね、機会が見つからなかったんだ。それでね、今日はお母さんに私の大切な人を紹介しに来たんだ」

シャルロットは普段から使っている『僕』では無く、本来の言い方の『私』を使って話をする。

「彼女は星神ソラさん。私の居場所を見つけてくれた人で、私達を救ってくれた人だよ」

ペコリとお辞儀をしてシャルロットの隣に立つ。

「はじめまして、エミリーさん。星神ソラです。シャルロットさんにはいつもお世話になっていて、私の大切なお友達です。えっと……これからもよろしくお願いします」

精一杯の気持ちを告げて、再び頭を下げる。

「彼女のおかげで会社は立て直すことが出来て、お父さんや本妻の人とも打ち解けることが出来たんだ。最初は疑心暗鬼だったけど、とても優しく接してね。私を家族に迎えてくれたんだ」

シャルロットはお墓の中で眠っている母に嬉しそうに話をする。

「お母さん、今まで見守ってくれてありがとう。私、幸せだよ。お母さんと一緒に暮らしてた時と同じ位に。だから、安心してね。もう、大丈夫だから心配しないで……。いつまでも愛してるよ、お母さん」

最後にシャルロットは墓石に彫られた母の名前をなぞると目元を擦り、溜まっていた涙を拭う。

「それじゃあまた来るね、お母さん。今度は家族揃ってね」

最後に二人は一礼をして、来た道を戻っていく。

(……ありがとう……)

「――えっ?」

ソラは突然聞こえた声に反応して後ろを振り向く。
すると、そこには……




――シャルロットの面影がどことなくある女性が墓石の隣に立っていた。

「――あ、貴女は!?」

女性と目が合うとニッコリと微笑む。
そして、突然突風が吹いた。
風になびく髪を抑えてもう一度見るがもうそこには誰も居なかった。

「ソラ、どうしたの?行くよ?」

シャルロットは道に立ち止まっているソラに声をかけた。

「うん……分かったよ」

(気のせい……だったのかな?)

二人は手を繋ぎ、公園墓地を後にした。








「――さて、シャルロット。準備は出来たか?」

地方の観光を終えた二人はデュノア社に戻り、隣接された実験場へ移動した。

「はい、いつでも始められます」

ラファール・ドラグーン(疾風の竜騎士)を身に纏ったシャルロットは機体の最終確認をすると待機して指示を待つ。

「それでは、これから動作訓練を始めます。パイロットは指定されたコースを飛行して下さい」

実験場内にある観測室では数名のスタッフが機器の計測を始め、エリックとソラはモニターでシャルロットを見守る。

「行くよ、ドラグーン」

シャルロットはPICで空中に浮かび上がるとスラスターを一気に吹かし、爆発的な加速を付ける。

ドラグーンは直進のコースを順調に進み、期待以上の速度が出てスタッフは安心する。
しかし――

「あれっ?まっ、曲がり切れない!?」

直進コースが終わるとその先には大きなカーブが待ち受けていた。
ドラグーンは速度超過の為、遠心力が働きどんどん実験場の外壁へと近づいていく。

「ドラグーン、曲がって!」

全体で風を受け止める様に機体を傾け、外壁ギリギリのところで曲がり切る。

「シャルちゃん、危なっかしいなぁ」

「やはり、機体にパイロットが追いついていないか……」

観測室では機体に振り回されているシャルロットを心配そうに見守る。

「社長、訓練は続けますか?」

スタッフが訓練を中断するかエリックに聞く。

「……続行だ。他にも修正箇所が出てくるかもしれない。パイロットにはコースを一周するように指示を」

訓練は続行となり、ドラグーンはコースを進んで行く。

しかし、カーブの度に速度を落としたり、大回り等が連発して起こり、コースを一周したタイムはそこまで良いとは言えなかった。

「動作訓練は終了します。続いて武器訓練を始めます。ターゲットを破壊して下さい」

動作訓練の次には武器訓練、ドラグーンの周りには数枚のターゲットが現れる。

「え〜っと、武器は……」

データ領域から武装のカテゴリーを選択して、一覧を見る。

・ビームライフル
・ビームシールド
・掌部ビーム砲
・ビームブーメラン
・実体複合ビームソード
・高エネルギー長射程ビーム砲

(掌部ビーム砲……?)

「取り敢えず、ビームライフルでいいや」

シャルロットはビームライフルを展開して、次々にターゲットを撃ち抜いていく。

「連射性が高いし、出力も十分で使いやすい!」

片手でも取り扱えるバランスの取れたビームライフルをシャルロットはすぐに気に入った。

「次の武器に切り替えて下さい」

観測室から指示を受け、武器を切り替える。

機体の身長をゆうに越えるサイズの長射程ビーム砲を腰だめで構えると厚いコンクリートの壁に向けてトリガーを引く。

砲口から放たれた大威力のビームはコンクリートの壁をあっという間に破壊する。

その様子を見ていた観測室では制作スタッフ達が満足げに微笑していた。

「凄い威力ですね」

「ドラグーンの武装の中でも一番の火力を誇るからね。大威力と長射程に加え連射性能もそれなりにあるからね」

エリックもドラグーンの武器の完成度に満足していた。

「さてと……エリックさん、少し大人の話をしましょうか」

「分かった……別室に移動しようか。ドラグーンの訓練は引き続き頼むよ」

エリックはスタッフにそう伝えるとソラと共に部屋を後にした。
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