IS 〜天使の翼〜

□第16話
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6月初旬 日曜日

私と一夏君はIS学園の外――五反田食堂前にいた。

「相変わらず変わって無いね」

「まあな。でも、ソラが居なくなって一番ショック受けてたのは蘭だったんだぞ」

「弾君と蘭ちゃんね……会うのは3年ぶりかな?」

「そうだな。とりあえず、中に入ろう」

「あっ……」

一夏君はすぐに食堂の中に入って行った。
私は入るのに躊躇して入口で中の様子を伺う。




「あら、一夏君じゃない!いらっしゃい。今、弾と蘭を呼んで来るわね」

店の中に居るのは看板娘で弾君と蘭ちゃんのお母さんの五反田蓮さんだ。

「何だよ、母さん。あと少しで勝てそうだったのに……」

「何言ってるのよ、お兄!あそこから逆転する予定だったのよ!」

店の奥にある階段から降りてきたのは元気そうな弾君と蘭ちゃんだった。

「あんた達ねぇ、一夏君が来たわよ」

「ん?よう、一夏!久しぶり」

「いっ、一夏さん!おっ、お久しぶりです」

「久しぶり。二人とも元気そうだな」

「確か一夏さんは全寮制の学園に通っているって聞いてましたけど……」

「ああ、今日はちょっと外出。家に行くついでに寄ったんだ」

「そ、そうですか……」

「一夏、せっかく来たんだから何か食べてけ」

「は、はい」

店の厨房から現れたのは五反田厳さん。
確か八十を過ぎてるはずなのだが五反田食堂の大将をやっている。

「ほら、弾も蘭も一緒に食べなさい」

「「はーい」」

「あ、ちょっと待って」

「「「「ん?」」」」

厳さん、蓮さん、弾君、蘭ちゃんが一夏君の言葉に反応する。

「ほら、そろそろ出て来たらどうだ?」

うっ、一夏君が私を呼んできた……

「こ、こんにちは……」

私はそっと扉を開けて店の中に入る。

「「「「えっ……?」」」」

厳さん、蓮さん、弾君、蘭ちゃんがハモった。

「あら、ソラちゃんじゃない。綺麗になったわね」

蓮さんは私のことを優しく抱きしめてくれて歓迎してくれた。

「お久しぶりです。蓮さん」

「本当にソラなのか?」

弾君は目を見開いて聞いてくる。

「うん、ただいま。弾君」

「うそ……ソラさん?」

蘭ちゃんも信じられないらしく聞いてきた。

「久しぶりだね、蘭ちゃん」

「元気にして居たか?ソラ」

厳さんは優しく頭を撫でて心配してくれた。

「はい。厳さんもお元気そうですね」

と、みんなに声をかけたが弾君と蘭ちゃんは今だに信じられない様子で私の方を見る。

「一夏。俺、夢見てるのか……?」

「私もです……ソラさんが目の前に居るんですよ……」

「大丈夫だ。二人とも夢じゃないぞ」

「3年ぶりだね。……ただいま」




私もみんなと一緒にお昼ご飯を食べることになり席に座り雑談もとい質問攻めにあっている。

「一体、3年も何処に行ってたんだよ」

「ん〜、ごめんね。言えない」

「それじゃ、聖天使のパイロットって本当ですか?」

「うん、それは本当だよ。ほら、この指輪が聖天使の待機状態だよ」

「あっ、かわいい指輪!いいなぁ」

「ほい、お待ち。ソラ、一杯食べてけよ」

「は、はい」

料理が完成し、厳さんが運んできた。

「「「「いただきます」」」」

うん、懐かしくてとても美味しい。

「そういえば、一夏。幼なじみと再会したんだっけ?」

「ああ。鈴はこの前転校してきたし箒は入学当初に再会した」

「ソラさん、箒って誰ですか?」

蘭ちゃんは聞き慣れない名前に反応してきた。

「そうだね、小学校の途中で転校した幼なじみだよ」

「そうそう、最近まで同じ部屋だったんだよ。まあ今は――」

一夏君、要らないことをまた言って……

「お、同じ部屋!?」

蘭ちゃんは取り乱して立ち上がった。

「一夏さん。同じ部屋っていうのは、つまり……その、同居していたんですか……?」

「まあ、そうなるかな。でも、それは先月までの話で、今はちゃんと別々の部屋になってる」

「……先月と言うことは、一ヶ月半以上も一緒に……」

蘭ちゃんは床に手を付いて絶望している。

「だっ、大丈夫か?蘭。体調が悪かったら休んだ方がいいぞ」

一夏君が蘭ちゃんを心配して声をかけるが今の蘭ちゃんには聞こえなかった。

「……決めました」

少し経って蘭ちゃんが復活した。

「私、来年IS学園に受験します」

「はあっ!?お前っ、何言って――」

ガン!

「おい、弾!飯食う時くらい静かにしやがれ!!」

厨房からおたまが飛んできて弾君の顔面に直撃して倒れる。

「えっ?でも、確か蘭の学校ってエスカレーター式で大学までいけたよな?」

「学校って途中で抜けれるの?」

「大丈夫です。私の成績なら余裕です」

「IS学園は推薦なんてないぞ……」

床から起きる顔を抑えながら復活する弾君。

「推薦が無くても一般で余裕です。私はお兄と違って筆記でも優秀です」

「それは、そうだけど……な、なあ、一夏、ソラ!確かあそこって実技あったよな!?」

「ああ、あったぞ。最初はIS起動試験って言うのがあって、適性が全くないとそこで落とされるらしいぞ」

「ちなみに入試は試験官と戦うんだよ」

「ちょっと待ってて下さい」

蘭ちゃんは店の奥に行き、棚から封筒を持ってきた。
弾君が封筒を受け取り、中に入っいる紙を開く。

「なっ……。IS簡易適性試験……判定Aだと!!」

「問題は解決済みです。ですので、一夏さん、ソラさん入学したらご指導をよろしくお願いします」

「ああ、いいぜ」「私もいいよ」

「お、おい蘭!何勝手に学校変えるの決めてんだよ!なあ、母さん!」

「あら、いいじゃない別に。一夏君、ソラちゃん、蘭のことよろしくね」

「「あ、はい」」

「ああもう、母さんは一夏とソラに頼んでるし、親父はいねえし!いいのかよ、じーちゃん!」

「蘭が自分で決めた事だ。どうこう周りが言っても意味ないだろ」

「いやでも――」

「何だ弾、お前は蘭が決めた事に文句があるのか?」

「……いえ、無いです」

相変わらず、弾君は弱いなぁ。

「そういうことで、一夏さん、ソラさん、入学したらよろしくお願いします」

「うん、入試頑張ってね」

その後、少し雑談をして食堂を出た。








「3年ぶりだね。この家も」

五反田食堂を出て、3年ぶりに織斑家に帰って来た。

「ただいま……」

玄関のドアを開けて中に入るとちょっと懐かしかった。

「お帰り、ソラ」

家の中はあんまり変わったところは無かった。

「あっ……」

2階に上がろうと思ったが足の事もあるし別にいいかな、と思い断念する。

そういえば、誘拐事件後から一度も部屋に行ってないな……

「ソラ、はい」

一夏君は私の前にきてしゃがむ。

「えっ?」

「2階に行きたいんだろ?」

「う、うん。じゃあ、よろしくね」

私は一夏君に背負われて2階に行き自分の部屋に入る。

私の部屋はベッドとテーブルと中身が空の箪笥くらいしか無く女の子らしい要素は全く無い殺風景な部屋だ。

「入学する前は毎週掃除していたんだが最近は帰って来て無かったから家中埃があるな……」

「一夏君は他の所をしてきなよ。私の部屋なんてすぐに終わるから大丈夫だよ」

「ああ、分かった。あと、階段降りる時は呼んでくれ」

一夏君は掃除のために下に降りて行った。

「よし、私も掃除しようかな」

掃除機を持ってきて貰い掃除を始めるが10分もしない内に終わってしまった。

「そういえば、最近聖天使の容量も厳しくなってきたな……」

コアを二つ使い、普通のISより容量が大きい聖天使だが実際は武装やシステム関係で大部分を使っている。
さらに、ISスーツや衣服類、送られてきた調理道具など、その他にも整備用の多目的アームや道具一式などがデータ領域に入っている。
このため、容量が厳しくなってきている。

「今度、収納専用の端末でも作らないと駄目だね」

よし、今度作ってみよう。

「おーい、ソラ。掃除機使い終わったならこっちに貸してくれ」

「うん、いいよ」

一夏君はリビングを掃除している。私の部屋の掃除は終わり、暇になったので千冬お姉ちゃんの部屋を掃除しようと思い部屋に入るが――

「千冬お姉ちゃんの部屋、汚すぎ……」

床には脱ぎ捨てられたスーツにシャツ、おまけに下着。
テーブルにはつまみの袋とお酒の入ったコップ。
すぐ隣には缶ビールのタワーが出来てる。
ごみ箱はビン、缶、ペットボトル、燃えるゴミが分別もされず袋一杯まで入っている。

「はあ、仕方ない……」




掃除開始から一時間
床に脱ぎ捨てられたスーツはアイロンをかけてクローゼットに片付ける。シャツ・下着は全て洗濯機に入れて洗濯する。ごみ箱の中身のゴミも分別して捨てる。最後に掃除機で床を綺麗にする。

「ふう、疲れた……」

千冬お姉ちゃんもたまには掃除すればいいのに……

そういえば、最近寮長室に行ってないけど大丈夫かな?

正直、掃除はもうやだなぁ……

「おーい、ソラ。そろそろ学園に帰るぞ」

ふと、時計を見ると5時過ぎだった。

学園の門限は8時までなのでそれまでに戻ればいいが、ここから学園までは少し離れている。おまけに私はあまり早く歩けないので時間が掛かるため、早めに家を出る。

3年ぶり町並みはあまり変わってはいなく、商店街ではお店の人に声を掛けられてとても懐かしかった。

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