IS 〜天使の翼〜
□第8話
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「もう、無理だ……」
一限目が終わり今は休み時間だが視線がさっきよりも増えている。廊下には他のクラスの人達に、二、三年の先輩らが詰めかけている。しかも、「あなた話しかけなさいよ」という空気と「ちょっとまさか抜け駆けする気じゃないでしょうね」的な緊張感が満ちている。
(誰かこの状況を助けてくれ……)
「一夏君、大丈夫?」
「ソラか……これが大丈夫だと思うか?」
「いいや、全然」
正直助かった……あのままだと視線だけで気がおかしくなるところだった。
「……ちょっといいか」
「……箒?」
「……箒ちゃん?」
目の前には、六年ぶりの再会になる幼なじみがいた。
「廊下でいいか?」
「うん、そうだね。行こう一夏君」
「ああ」
廊下で出ても、少し離れたところで聞き耳を立てている生徒が何人もいたが気にしなかった。
「そういえば、去年、剣道の全国大会優勝おめでとう」
「へー、相変わらず強いね箒ちゃん。おめでとう」
「何でそんなこと知っているんだ」
「何でって、新聞で見たから」
「な、何で新聞なんか見ているんだ!」
「箒ちゃんそれは、無茶苦茶だよ」
「うっ……」
「あー、あと」
「なっ、何だ!?」
「久しぶり。六年ぶりだけど、箒ってすぐに分かったぞ」
「え……」
「ほら、髪型一緒だし」
「よ、よく覚えているものだな」
「いや、忘れないだろ。幼なじみのことくらい」
ギロッ「……」
(えっ、何で睨まれているの?)
「相変わらずだね二人とも」
「そういえば……ソラ、足はどう――」
キーンコーンカーンコーン
「授業が始まるね、戻ろう二人とも」
箒がソラの足について聞いたがちょうどよく鐘が鳴り、ソラは先に教室へ戻った。隠れて聞き耳を立てていた生徒も居なくなり、廊下には俺と箒しか居ない。
「箒、ソラの足は……俺のせいだ」
「えっ……?」
「詳しくはまた今度話す……今は戻ろう」
「ああ……分かった」
俺達は教室に戻ったが……
パァン!×2「さっさと席に着け!」
「「……ご指導ありがとうございます、織斑先生」」
俺の脳細胞が午前中だけで二万五千個死んだ。
「――であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用した場合は、刑法によって罰せられ――」
教室に戻り今は二限目の授業だけど、私は暇だった。
(整備関係は余裕で分かるし、規則や法律も一通り知っているしなぁ……。うん、暇……)
「ここまでで、分からない人いますか?あ、織斑君、分からないところありますか?」
(いや、流石に一夏君でも分かるでしょう)
「先生!」
「はい、織斑君!」
「ほとんど全部わかりません」
「え……。ぜっ、全部ですか……?」
(まさか全部とは……流石一夏君。期待を裏切らない)
「え、えっと……織斑君以外で、今の段階で分からないっていう人はどれくらいいますか?」
シーン……
「……織斑、入学前の参考書は読んだか?」
「古い電話帳と間違えて捨てました」
パァン!「必読と書いてあっただろうが馬鹿者。後で再発行してやるから一週間以内に覚えろ。いいな」
「い、いや、一週間であの分厚さはちょっと……」
「やれと言っている」
「……はい。やります」
「え、えっと、織斑君。分からないところは授業が終わってから放課後教えてあげますから、かんばって?ね?ねっ?」
「はい。それじゃあ、放課後によろしくお願いします」
「ほ、放課後……放課後に二人きりの教師と生徒……。 あっ!だ、ダメですよ、織斑君。先生、強引にされると弱いんですから……それに私、男の人は初めてで……。 で、でも、織斑先生の弟さんだったら……」
「あー、んんっ!山田先生、授業の続きを」
「は、はいっ!」
キーンコーンカーンコーン
やっと二限目が終わったー。本音ちゃんは……寝ているね。じゃあ、一夏君のところに行こうかな。
「一夏君、流石だね。まさか、参考書を電話帳と間違える人は中々いないよ」
「うっ……ソラ、頼む!勉強教えてくれ!一週間であれを覚えないといけないだ!」
一夏君は両手を合わせ頼んできた。
「うん、いいよ。では、今から始めるよ。まずは、シールドエネルギーから説明するね。シールドエネルギーっていうのは――」
少女講義中
「――つまり一言で言うとシールドエネルギーは大切なんだよ。……とりあえず、分かった?」
「ああ、一応分かった」
「それじゃあ、次に――」
「ちょっと、よろしくて?」
私が説明しているところに金髪縱ロールで、如何にもお嬢様みたいな態度をしている人が話しかけてきた。
「へ?」
「……」
「訊いてます?お返事は?」
「あ、ああ。訊いてるけど……どういう用件だ?」
「……」
「まあ!なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」
「「……」」
正直、こういう人は嫌いだ。ISは女性にしか使えない。ISは現行兵器では最強、つまりIS操縦者は偉いという勝手な思い込みをしている人がどこに行ってもいる。
「悪いな。俺、君が誰か知らないし」
「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」
「あ、質問いいか?」
「ふん。下々のものの要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」
「代表候補生って、何?」
ガタタッ。聞き耳を立てていた人達がずっこけた。
「一夏君、代表候補生って言うのは、そのままの意味で各国の代表の候補ってことだよ。簡単に言うとエリートだよ」
「確かにそういわれればそうだ」
「そう!エリートなのですわ!本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」
「そうか。それはラッキーだな」
「(いや、どう考えても世界初、男性でISを動かせる一夏君と同じクラスのオルコットさんの方がラッキーでしょ……)」
「……あなた、私を馬鹿にしていますの?大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。唯一、男でISを操縦できると聞いていましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど、期待外れですわね」
「勝手に人を評価しない方がいいよ。オルコットさん」
「俺に何かを期待されても困るんだが」
「ふん。まあでも?わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくあげますわよ」
(おお、この態度が優しさなのか。 十五年生きてきてはじめて知ったぜ)
「ISのことで分からないことがあれば、まあ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
「勉強はソラから教えて貰うからいい。入試って、あれか?ISを動かして戦うってやつ?」
「それ以外に入試などありませんわ」
「あれ?俺も倒したぞ、教官」
「は……?」
「へえ、すごいね。一夏君」
「わっ、わたくしだけと聞きましたが?」
「女子ではってオチじゃないのか?」
ピシッ「つ、つまり、わたくしだけではないと……?」
「いや、知らないけど。ソラは教官を倒したのか?」
「いや、私の場合入試自体受けてないよ」
(束お姉ちゃんが入学関係全部やってくれたから)
「「えっ!?」」
「一体どうやったんだ?」
「わたくしも気になります。貴女一体どうやって――」
「――残念、タイムオーバーだよ」
キーンコーンカーンコーン
「っ……! またあとで来ますわ!逃げないことね! よくってよ!?」
((よくない……))
三限目は山田先生じゃなくて千冬お姉ちゃんが教壇に立っている。
「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」
「あ、織斑先生、クラス代表まだ決めてないです」
(クラス代表?何だろうそれは?)
「クラス代表者とはそのままの意味だ。再来週に行われるクラス対抗戦にも出てもらう。もちろん対抗戦だけではなく、生徒会が開く会議や委員会のへ出席などある。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点でたいした差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで決めろ」
クラス代表者か……興味ないな。たぶん、一夏君が推薦されるかな。そして、オルコットさんがまた何か言ってくる。
「はいっ、織斑君を推薦します」
「私もそれが良いと思います!」
「では候補生は織斑一夏……他にいないか?自薦他薦は問わないぞ」
「お、俺!?」
「織斑。席に着け、邪魔だ。他にはいないのか?いないなら無投票当選だぞ」
「ちょっ、ちょっと待った!俺はそんなのやらな――」
「自薦他薦は問わないと言った。推薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟しろ」
「い、いやでも――」
(往生際悪いね、一夏君)
バンッ「待ってください!納得できませんわ!」
予想どうり今度はオルコットさんが文句を言ってきた。
「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間も味わえとおっしゃるのですか!?」
オルコットさんは授業中にもかかわらず、言いまくっている。
「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいという理由で極東の猿にされては困ります!クラス代表は実力トップがなるべき……そして、それはわたくしですわ!」
(極東の猿って……日本人がほとんどのクラスでよく言えるね……)
実際に本音ちゃんやクラスの人達はオルコットさんのことを余り良い目で見ていない。それでもオルコットさんはまだ喋る。
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体私にとっては耐え難い苦痛でー」
イラッ(いい加減、五月蝿くなってきたな……)
「イギリスだって大したお国自慢無いだろ!世界一まずい料理で何年覇者だよ!?」
「意味ないよ、一夏君。彼女のように古臭い考え方しか出来ない人には何を言っても、無駄だから」
「なっ……!?」
私と一夏君はオルコットさんに言い返してやった。
「貴方達、わたくしとわたくしの祖国を侮辱しますの!?それに古臭い考え方とは何ですか!?」
「先に侮辱してきたのはそっちだろ」
「そのままの意味だよ。日本が後進的な国だって?ISの開発者と初代ブリュンヒルデは日本人だよ。貴女は人を見下し過ぎだよ」
オルコットさんは私達が言ったことが正論だったから言い返せない。
「くっ、貴方達ねぇ!決闘ですわ!!」
「おう。いいぜ。四の五の言うより分かりやすい」
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い―――いえ、奴隷にしますわよ」
(奴隷って……本当に古臭い考えだね……)
「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」
「頑張ってね、一夏君!」
「えっ、ソラは?」
「いや、私クラス代表って興味ないから」
「それでは、星神には入試をやって貰おう。相手はもちろんオルコットだ」
「うっ……分かりました」(戦うのは想定外だったな……)
「何にせよちょうどいいですわ、イギリス代表候補生のわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」
(オルコットさんがまた元気になっている……。絶対にその傲慢な態度を改めさせてやる)
「それじゃあ、ハンデはどのくらいつける?」
「あら、早速お願いかしら?」
「いや、俺がどのくらいハンデつけたらいいのかなーと」
「お、織斑君、それ本気で言っているの?」
「男が女より強かったのって、昔の話しだよ?」
「一夏君さっき言ったことと矛盾しているよ」
「あ、じゃあ、ハンデはいい」
「ええ、そうでしょう。むしろ、こちらがハンデを付けなくていいのか迷うくらいですわ。男が女より強いだなんて、面白いこと言いますわね」
ISが世界中に発表されてからは男性よりも女性の方が立場が上になり、女性優遇制度なども昔よりも増えて女尊男卑が当たり前になっている。開発者は決してそんなこと望んでもいないのに……
「オルコットさん……男の人は強いよ」
「ふん……」
「……」
私はオルコットさんに冷たい視線で見る。オルコットさんも私を睨み教室は静かになり空気が重かった……
「さて、そろそろ授業の時間が無くなるな。勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。三人はそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める、教科書を開け」
(一夏君の専用機は完成したかな?後で束お姉ちゃんに聞いてみよ)
授業は終わって今は放課後、一夏君が机の上でぐったりしていた。
「一夏君、授業は理解出来た?」
「い、意味が分からん……。何でこんなにややこしいんだ……それに今日は疲れた……」
「あぁ……お昼大変だったね。一夏君のことをまるで動物園のパンダみたいな感じで見てたからね」
「ああ、流石にキツイ……」
「あ、織斑君。まだ教室にいたんですね。よかったです」
放課後にもかかわらず山田先生が話しかけてきた。
「はい?どうかしましたか山田先生」