進撃の巨人

□迷い
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「なる程………巨人が出現したのは百年程前か……それから壁を……ふーん」

あの後賢者の石の中の人物達に語りかけてみた。誰でも良い、聞いてくれる人が欲しかった。気まぐれでやってみたが本当に返答が返ってくることもあって驚いたがだいぶ楽にはなった

気持ちも落ち着いたところで調べものをしている。何がって?やだなぁ皆さんお忘れ?私の目的はお父様からの命令ですよ!だいぶ寄り道してるけどね!

分厚い本が何冊もあるから手が止まらない。歴史に関するものがほぼを占めている、が、どうもこれ!といったピンとくるものがない。やはり古城は古いからか…

「本部に行けばあるかなぁ……」

読みかけの本を床に置き寝転がる。寝心地は、良いとは言えないが……

「でも本部だとアイツがいるんだよな………エルヴィン・スミス」

会いたくない。出来れば会わないでいたいが如何せんあの男がダントツで上の地位にいる。腹立だしい。

「うーん…でも今兵長!って感じもなぁ……気まずいし」

そう、あれから一度もこの部屋を出ていないのでどうとも言えないが気まずい。ものすごく。あれだ、お母さんと昨晩喧嘩して明日も学校なのに!朝ご飯のときとか絶対会うじゃん!ってなって朝すっごい気まずいやつ。あれみたいな。

「仕方ない……一人で行くか」

監視は今団長殿のはずだから大丈夫だろう。名無しさんは窓を開けると鳥に変化し、羽ばたいた。

“あー飛ぶのダルいなー…ん?あれか?”

しばらく飛んでいて見つけたもの。訓練所だ。この間は兵長に引きずられ意識朦朧だったので記憶が曖昧だが、あれには見覚えがある。茂みに隠れ人間へと戻る。

「よし、行く「名無しさん〜〜」どわはぁ?!」

急に後ろから抱き締められた。首に手が回っているので動作が止まってしまった。しかしこの声は……

「エンヴィー!何でここに?!」

「あれ?ひっどいなー久しぶりに会ったのにその反応?」

やはりエンヴィーだった。でも何でここにいるんだ?ぐるぐると脳内を回転させる。エンヴィーが耳元で囁く。

「帰りが遅いからさぁ、様子見にきたんだよ。どう?進んでる?」

「あ、ああ、うん。いまから本部で調べものしようと思って、歴史部分は大体学んだよ」

「そう?じゃあもうちょっとだね。」

「え……」

振り返れない。冷や汗が身体を伝う

「そんなに調べる事もないだろ?大体一週間くらいで終わるものを延期してるんだ。」

分かっている。遅過ぎるんだ。どう言い訳をしても認めてもらえなそうな空気が漂う

「え、エンヴィー……もうちょっと、後少しで終わるから……」

「……………………」

怖い。子供並みの言い訳だ。どんな表情をしているのか分からないが良いものではないだろう。

「後、少しだけ…………」

「………俺じゃなかったら強制連行だったよ…良かったね、名無しさん」

パッと手を離され向かい合う。いつも通り、いつも通りだ。ヤバいな……また気持ちが揺らぐ。

「それで?どこまで進ん「オネがぁイ…」…名無しさん?」

どうしよう。口元を押さえるが出てきそうだ。身体が言うことを効かない。出てくる。

「身体チョウだイ!待ってまだ駄目だ!落ち着いテ!イヤだァ!」

こんなにも私は乗っ取られやすいのか?そう思いつつ意識を手放そうとしたとき、腹部に激痛が走る。あ、一回死んだ。エンヴィーの手によって刺されたのだ。喋っていた、賢者の石の中にいる人物が消滅した。傷口を抑え座り込む

「ぁ……リーゼ………消え……」

「リーゼ…?石の中の奴か?名無しさん……分かり合おうなんて無駄だよ。奴らは身体を欲しがる事しかしない。気を許すと取られるだけだ」

違う。それだけじゃない。彼等はまだ自分が死んだことに気付いていない人もいる。暗闇の中でさまよい、実体を求める。意志の疎通が出来る者も
いるのだ。

「でも…………生きてるよ…?私の中で、確実に……!」

「名無しさん…まだ自分を人間だと思える?」

「は……?」

「もう人間じゃないんだろ?俺達と同じ…ホムンクルスだ。現にその身体は?!回復力!変化の力!自分の中で会話をしてること!全て化け物がする事だ!」

『お前は人間だ……名無しさん』

兵長…助けてください兵長。あなたは私を人間だと言ってくれた。なら、人間であれますか?エンヴィーのいう化け物ですか?兵長のいう人間ですか?

「私は………………………………」

「……………もう帰るよ名無しさん。さっさと終わらせて帰ってこいよ。惑わされすぎだ。」

「エンヴィー…」

「俺はお前の壊し忘れた扉から来たんだから、壊しちゃ駄目だよ?」

いいね?と言い去っていく。昔の私ならここでどんな行動をとっただろう。迷わず、追いかけることが出来た気がするが、今は無理だ。動けない。

不意に、エンヴィーが立ち止まる。言い忘れた事があると言って

「マース・ヒューズが死んだよ」

ヒューズが死んだ?

「どうして」

「あいつは知りすぎた……頭の回転が早過ぎたね」

「殺したのは……?誰……?」

聞きたくないけれど、聞かなければいけない気がした。エンヴィーは口角をニィっと釣り上げ笑った

「このエンヴィーだよ」

エンヴィー、あなたのやる事は全て正しいと私は信じてきた。勿論、今も信じている。私の世界ではあなたが一番だったから。でも、何でだろう。今は……いいや。

「エンヴィー、あなたがそうしたならば、私はそれを受け入れる」

「名無しさんはいい子だね。俺が育てただけある」

あなたの罪は私の罪だ

「エンヴィーは、家族だもの」

たとえどんな事があろうともそれだけは、その事だけは変わらない。

「愛してるよ名無しさん。この嫉妬のエンヴィーの子。戻って来るの待ってるよ」

愛してる。その言葉は嬉しい。愛してるさエンヴィー。大好きだ。

去って見えなくなったエンヴィー。エンヴィーの判断は、ホムンクルスとして最も正しく、最適なものだ。軍に所属しているのなら、死を覚悟するものだ。

「部下が一人…………居なくなったなぁ………上官より先に死ぬなんて…」

死に急ぎ過ぎた、と呟いて名無しさんは本部へ向かった。
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