KO−RI
□金色スケッチDAYS
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「おっほー、今日もいるいるぅ」
オペラグラスを覗き込んでいるわたしの傍らで、アキちゃんがイーゼルを組み立てながら冷たい声を漏らす。
「海水浴場で水着ギャルを堪能するがごときオッサンのセリフだわね」
「その発想こそオッサンくさいよ。とても乙女とは思えない」
言い返すと、切れ長の目がぐわっと見開いた。
「そんなバカな!」
「そんなばなな」
「……」
わたしの化石ギャグに憐れみの表情を浮かべるアキちゃんは、
170の長身に浅黒い肌、長い髪の毛にはちりちりのスパイラルパーマをあてていて、どことなくアフリカ原産な雰囲気を漂わせているけれど、れっきとした大和撫子だ。
可愛いものが大好きな彼女は、可愛いことで有名なこの学校のセーラー服をいたく気に入っているけれど、これがまた異文化交流ですかと思うくらい似合わない。
たとえるなら、フランス人のオタク女子が日本アニメのコスプレをしているような感じだ。
それが逆にクレイジーでわたしは大好きだけれども。
「しっかし、そんなに毎日窓の外見ててよく飽きないわね志摩(しま)。何が見えるっていうの?」
「鳥、かな。今日は」
窓枠に両肘をついてレンズを覗きながら答えると、
「トリ? そんなの見てて面白いわけ?」
「面白いよ」
窓から注ぐ太陽の光を反射し、金色のオペラグラスはきらりと輝く。
わたしはお父さんのお下がりのこれを首から提げて、いつでもどこでも気になるものがあれば即のぞきこむのがクセだった。
そう、いつでもどこでも即座に。
「おおっと隊長! 赤富士が見えるであります!」
「なんですって? 晩夏から秋にかけての早朝にしか見れないはずの赤富士がこんなところから――って、人のニキビを拡大してんじゃないわよぉぉぉ」
バカ志摩、とアキちゃんが投げつけてきた消しゴムをひらりとかわす。
「へっへーん冗談だっぴーん。双眼鏡ほど拡大しては見えな――」
言いながらオペラグラスを顔から離した瞬間、背筋がぞくりと震える。
「志摩ぁぁぁ!」
野太い咆哮が背後に迫り、咄嗟に身を屈めると、すぐ頭上を筋肉質な腕が通り抜けた。