□無くした
1ページ/1ページ


その晩遅くから雪が降りだし、朝になっても止む気配がなかった。空気は凍えるのうにはりつめていて、その清々しい静けさだけがマダラを、敢然と、儀式目いた気持ちに駆り立てた。
女に朝食をもでて行く前に早いところ済ませてしまおう、とマダラは思った。思えば簡単なことであった。そもそも自分は弟の目がなければ失明していた運命だったのである。もう何もかもどうでもいい。里も一族も考えたくもない。マダラは女の声だけを我が物にしながら、女を抱き続け、果てることのない快楽に溺れていればもう他に、なにも要らないのである。
マダラは思い至って亡き弟の墓場に行った。外へ出れば気持ちがいっそうきりりと冷えわたったように感じられた。俺はこれから新しい道を歩く。だからこの目はお前に返すことにしよう。そう言い自分の目に手を伸ばした瞬間ふと嫌な予感がした。慌てて来た道を引き返すと、空き家に何人かの木葉の額宛をした忍びが群がっていた。マダラは無我夢中でその忍びたちを殺していった。弟が残した力を惜しみなく使ってやった。部屋にはいり、屋根裏へ向かう。相変わらず急な階段を上ろうとしたとき、部屋の中からひぃっと短い悲鳴が聞こえた。この声は間違いない。女の声だった。階段をのぼると扉が壊されていた。部屋に入ろうとしたとたん、前からくないが飛んできた。それをかん一髪でかわしたが、そのくないには起爆札がつけられていた。しまったと思った時にはもう敵はいなかった。どうやら影分身であったようだ。マダラは女と一緒に爆発に巻き込まれた。


爆風のため、二人して外に飛ばされた。むくりと体をお越し額に手を当てると自分の手が真っ赤に染まった。どうやら頭に怪我をしたらしい。至近距離で爆撃されま割には軽傷だとマダラはおもった。ふと辺りを見回すと隣に女が立っていた。女は泣きながら助けを求めている。白い太ももあたりに怪我をしている。赤い血が一筋、生命の証であるかのようにその陶器を思わせる滑らかな肌を染めている。マダラ同様にそこまで大ケガをしているわけではなさそうだった。
女は顔に傷をおっていない。もう、三年ぶりにみる女の顔は相変わらず醜かった。醜さを隠すための血にもまみれていない。
その女の顔が呆然と見上げている男の目の前にある。女が口をパクパクと開けている。何かをいっている。あの美しい声で、あの艶かしい声で、何かを言っている。


だが、マダラにはなにも聞こえない。

爆撃で視力ではない、聴力を失ってしまったマダラの目に、泣き叫び欲望を刺激する声を張り上げているであろう女が、白々とした朝の雪明かりの中、無惨な顔をさらけ出しているのが見える。
マダラは雪の上にがっくりと膝をつき、顔を歪めた。とろとろと流れてくる生暖かい自分自身の血がよく見えるその赤いヴェールの向こうに潜む、醜い女の顔もよく見える。

そして女の声は、本当に二度と永遠に、マダラの耳には届かない。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ