□あの日
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女の部屋は屋根裏にある。
屋根裏に向かう階段は傾斜がきつく、つい気をぬくと盆にのせられた味噌汁がこぼれてしまう。今日のように味噌汁を溢れんばかりに入れてしまった日には骨が折れる。こぼさないよう慎重に一段一段神経をすり減らして上っていく。毎回の如く苦労するのだがマダラは階段を作り替えようとは全く思わないのである。昔この屋根裏に便所をつくろうとしたときのことを考えると今でも背筋に戦慄が走る。
便所を作らせるため専門の業者を呼び女を屋根裏からだし違う部屋に監禁した。そのときマダラは女に決して声は出すな、出したら……わかってるな、ちゃんといいつけは守るんだ、と脅迫めいたことを言った。何度も言い聞かせたのにも関わらず女は声を出そうとした。マダラは慌ててその口をふさぐ。きっと今屋根裏に業者の男がいると知ったらきっと、あの甘ったるい声で誘惑するにちがいない。誘惑して行き寄せてこう訴えるだろう。ここから出して、と。しかしマダラはそれを阻止する。お前は一生ここで生きてくんだと。女は可愛い声でそうね、と呟くがそれが嘘だということもマダラは知っていた。女はいつだってここから出たいと思っているのだ。

お前は醜い。こんな醜く汚い女など愛するものなど自分意外誰も現れるはずがない、と。酷いことばかりおっしゃって、と女がいう。そんなに私が醜いですか。私は誰からも愛されない女ですか。

マダラはまるで鈴の音がなるような甘く美しい声に聞き惚れながらそうだという。酷い酷いと女は泣くがその声もまたマダラには美しく聞こえた。この女がほしくてたまらない。欲しい、何としてでも自分のものにしたい。マダラは一族も友も全てを捨てでもこの女が欲しいと欲情した。そして女に手を伸ばして女の背中に触れた。

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