輪廻の中から抜け出してU
□49 寂しいくないと言ったら嘘になります
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『火影?なにそれ美味しいの?』
「簡単にいえば里の長だ。」
『へぇ、なるほどね。』
「柱間は俺に火影になってほしいと言ってきやがった」
『いいじゃない。マダラならきっと出来るよ』
「本当に俺がやっていいのだろうか」
『ちょっと寂しいけど。やるならちゃんとやらなきゃ』
「そうか……。因みに里の名前は木葉隠れの里だ。」
『ふふっ、なにそのネーミングセンス』
「俺がつけたんだが…」
『マダラのことだからどうせ……そう、穴の空いた葉っぱでも持ちながら考えたんでしょう?』
「超能力か」
『愛の力よ』
「あっ、火影のことで柱間に話があったのを思い出した。すまない、暫く空ける。」
マダラは慌てたように家を飛び出していった。残された私は一人ぽつんと突っ立った。まさか、あれをスルーだとは。恐るべし私の夫。
というより、最近マダラが冷たい。そりゃあ、夜に関しては熱い夜を毎晩過ごしているが、そうじゃない時だ。最近じゃ、昼間はだいたい柱間さんと過ごしている。そのため私は仕事のないときは家で一人なのだ。鈍らないよう修行もしているがそれもそれで寂しいことこの上ない。そろそろ本気で柱間さんに妬きそうだ。もしかしたらミトも同じ気持ちなのかな、なんて考えたら少しは気持ちが楽になった気がした。
そもそも柱間さんは男だ。男に嫉妬するなんて、私はどこまで執着心が強いのだろう。自分が怖い。
私は頭を降った。よし、気持ちを切り替えて修行しよう。修行。今度から子どもたちに教える身となるのだ。予習ぐらいしておこう。それでも一人は寂しいので、取り敢えずサンを呼ぼう。よし、寂しくなんかないもん。
『口寄せの術』
白いけむり共にサンが現れる。こうやって改めて見るとサンって凄い強そうだ。
「強そうってなんだ。そうって」
『ごめんごめん。冗談。』
そういって頭を撫でてやれば顔をすりすりと寄せてくる。なにこれ、可愛いすぎるんだけど。
『可愛いサンがいるから、寂しくなんかないやい。』
「??」
『サン!修行よ!』
「おっ、おう。」
そして私はサンと共に修行をはじめる。晶遁の術、なんちゃって。それは別の方です。
「よそ見してると怪我するぞ」
『はいはい』
それから何時間かサンと修行をして家路につく。時刻は夕方の5時過ぎ。夕飯をつくりはじめなくては。家にあるものを想像しながら軽く買い物を済ます。通りすぎる人に声をかけられ少しお話をしながら家に戻った。どうやら私がアカデミーの教師をすることが既に出回っているらしく、どうかうちの子を宜しくお願いしますということが多数だった。自分が教師など実感がわかないがやるからにはちゃんとやろう。よし頑張るぞ。
勢いに任せて家のドアを開ける。
『ただいま』
……。
んっ?まだ帰ってないのか。家の電気はついておらず、勿論返事も帰って来なかった。てっきり用を済ませて帰ってきているかと思ったのに。まぁ、いいか。先に夕食を準備しよう。今日のご飯はマダラの好きないなり寿司だ。火影就任記念にいなり寿司。ちょっと変だがきっと喜んでくれるだろう。
そうと決まれば早速準備だ。ささっとエプロンをつけてご飯を鍋にいれ火に掛ける。長年一緒に暮らしているからマダラがどんな味が好きなのかは把握ずみだ。喜んでくれるかななんて考える自分はなんて幸せな人間なんだろう。
つくり終わったいなり寿司をお皿に並べて、いくらなんでもそれだけでは寂しいので他の付け合わせもいくつかつくり机に並べてはや一時間。すっかり冷めてしまったご飯に少し怒りが芽生える。
遅い、遅すぎる。外を見るともう真っ暗だった。いつもなら完全に帰ってくる時間なのに。遅れる時は連絡がくる。
「ライラ、マダラからの伝言だ。」
いきなり目の前に現れた扉間に私は驚いた。どうして何時も避雷針で登場するんだ。扉を使ってくれ。扉を。扉間なんだから
「お前につけたマーキングから飛んだほうが早い。」
『いつの間につけたんですか。私知らなかったんですけど。』
「気付かれないことに意味があるのだ」
『確かに……。どうやって消えるんですか?』
「一度つけたら一生消えん。」
なにそれ、こわっ。私は心の中で叫んだ。それって、扉間さんからは一生逃げられないってことだよね。まぁ、逃げる予定はないのだけれど。
扉間さんから差し出された手紙を受け取り中を開く。見慣れた文字で書かれたそれはマダラからだった。
火影を決めることで少し拗れた。暫く帰れない。
ざっとこんなことがもっとマダラらしい言葉で詳しく書かれていた。帰れないって……えっ、なんてこった。
『暫くってどれくらいですか?』
「どうだろうな。早く決まる気などせんが。」
『そうですか……』
「なんだ、寂しいか?」
『ちょっとだけ』
「俺も忙しいが、マダラより時間をつくれる自信はあるぞ」
そう言って迫ってくる扉間さんに、私も一歩ずつ後退していく。そこで思ったのはどうしてマダラからの手紙を扉間さんがもって来たのだろう。マダラが素直に扉間さんに渡すとは思えないし、第一家に上げることを許す気がしない。
『どうしてマダラからの手紙を?』
壁に追いやられた私は扉間の胸を少し押して言った。頼むからこれ以上近寄らないでいただきたい。
「最初は姉上がもっていたのだが、偶然俺がすれ違ってな。事情を聞いて俺が引き受けた。」
『なるほどミトさんから。納得しました。』
「それより、お前の方はどうなんだ?」
『どうって』
「マダラが帰って来なくてもいいのか?」
『まぁ、寂しくないと言ったら嘘になりますけど。マダラがしたいようにして欲しいのも本当なので文句はありません。』
「お前ら夫婦は警戒心が薄すぎるな。こんなこと他のやつに知られたら、ただではすまないぞ」
『??』
「はぁ……。いいか、お前を狙っている男は沢山いるんだ。いつもマダラが側にいるから寄っては来ないが、今は別だ。」
『私はそんじゃそこいらの忍びには負けませんよ。だてに戦場へ出ていたわけじゃありません。』
そうだ。私は自慢じゃないが弱くはない。いざというときには色々な手段がある。大丈夫だ。そう、大丈夫。
そんな私を扉間さんは何も言わずに見つめてくる。その目をそらすことが出来ず冷や汗を流した。
瞬きをした瞬間扉間さんが動いたのが見えた。私は身の危険を感じて印を結ぼうと身構える。しかし、気づいた時には両手を捕まれ床へ倒れていた。
「俺は早さには自信がある。」
『冗談はやめて』
「印を結べなければいくらお前と言えどなにも出来ないだろう」
腕に力をいれるがびくともしない。真っ直ぐと此方を見る扉間さんがとても怖かった。足をばたつかせてみても、扉間さんに体重をかけられ意味がなかった。
「女は男の力には勝てない」
徐々に近づいてくる顔にぎゅと目を閉じる。自分の頬に涙が流れるのが分かった。自分がどんなに足掻いてもどうにもならない状況がとても怖いとおもった。
握られていた手首の感覚が急に消えた。体にかっていた重さもなくなり、私は恐る恐る目を開ける。目の前に扉間さんはいなく、体を起こすと胡座をくんで目の前に座る扉間さんが見えた。
「本当に警戒心が無さすぎる。あの状態になってから気づくようじゃ手遅れにもほどがある。」
私はその場で膝に顔を埋めて泣いた。ちょっと幼稚かもしれないが、今はこうするしかなかった。だって、泣き顔をみられたくないから。恥ずかしい。この涙は、恐怖からなのか、敵わないという悔しさなのか、はたまた、自分の愚かさからなのかは自分でも分からなかった。
「別に泣かすつもりはなかったんだが……。ただ、もしあれが俺じゃなかったら」
もともと目付きが悪いせいだからだろうか、見られているだけなのに睨まれている気がしてならない。今はそんな些細なことにも涙がでそうだった。一回泣いてしまうともう駄目だ。何かが音をたてて崩れて、涙がどんどんでてくる。
「わかった、わかったからもう泣くな。」
頭をよしよしと撫でられそっと顔を上げる。今の顔は相当不細工だろう。
『扉間さんなんて嫌い』
「それはないだろう」
『大嫌いです。』
「はぁ、もう嫌いでもなんでもいいから泣き止め。じゃないと本当にマダラに殺される。」
『家に上がった次点で危ういですよ』
「それも一理ある。それより、これは夕飯か?」
目の前の机に並べられたご飯をみて扉間さんが聞いた。本当はマダラと食べるつもりだったため二人分ある。
『そうです。でも、マダラが帰って来ないなら半分残っちゃいますけどね…』
「なら俺が食べてもいいか?まだ食べてなくてな」
『えっ、まぁ……。どのみち捨てちゃうので構わないですけど……。』
「ならいただこう。」
机の前にどかっと座った扉間さんをみて私は急いで箸やらなんやらを用意する。急だったので頷いてしまったが、先日マダラと約束した手前不味いんじゃなかろうか。
でも、追い返すのもなんか悪いし。なんせ、捨てちゃうのも勿体ない。ここは早々に切り上げてもらおう。
私も席につき二人でいただきますという。まさかマダラ以外の人と二人で夕食を食べることになるとは思わなかったが。
「旨い。マダラのやつはいつもこれを食べてるのか。つくづく気に食わんやつだ。」
『そんな誉めたってなにも出ないですよ。』
「それは残念だな」
しんと静寂がはしる。外の風の音も聞こえないこの家は相当広い。家というよりは屋敷だ。ここに一人は確かに寂しすぎるかもしれない。はぁ、どうしたものか。
「明日、俺の生徒達と顔合わせをしてもらう」
『あれ、もう始まってるんですか?』
「俺だけ特別に各一族の子供を見ることになった。お前は此方も兼任でやってもらうつもりだ。」
『なるほど。各一族ということはわりと人数多いですよね』
「まぁ、各一族というより一部だな。ちなみにうちは一族もいるぞ」
『えぇっ?そうなんですか?』
「うちはカガミだ。」
『カガミが扉間さんの弟子に……。』
私はカガミとは何回か会っているが、まだ幼いのにも関わらずしっかりしているというのが印象的である。そして何より瞳術に関しては同じ年代の子達より群を抜いて凄かった。
「まぁ、俺もまだ顔を合わせた程度でどんなやつなのかまでは知らん。取り敢えず明日、10時にアカデミーの前だ」
『分かりました。なにか準備しておくことありますか?』
「まぁ、特にはないが……忍び装束でこい。あと忍具もきちんと持ってこい。」
『なるほど、了解しました。』
「旨かった。」
『それはよかったです。』
「また食べに来てもいいか?」
私は言葉を詰まらせた。ここは冗談でも首を縦にふらないといけないのかもしれない。しかし先程からマダラの顔がちらついてしようがない。マダラがいない間に勝手に家にあげてあげくの果てに食事まで振る舞うだなんて……。これがミトさんや桃華さんなら問題は無かったのかもしれない。だが相手は扉間さんだ。少なくともマダラはいい顔をしないことはわかる。私がもたついていると扉間さんがふっと笑うのが聞こえた。この人が笑うなんて…。なかなかレアなものをみた。
「まぁ、よい。今日はもう遅いからそろそろ帰る」
『あっ……。そうですね。ではまた明日。』
「きちんと戸締まりをしておけ。」
私は扉間さんを玄関まで見送り、扉間さんが帰っていってすぐに鍵をかけた。よし、取り敢えずこれでよし。今日はもう色々と疲れたのでさっさとお風呂に入って寝て忘れてしまおう。明日は教師として初仕事だ。気合いを入れなくては。私は素早く風呂を済ませて寝床についた。