女狐

□六章
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火影室を後にして、外に出てみると想像以上に天気がよく晴れ渡っていた。マダラは、柱間と作り上げた里の街並みを鑑賞しながらうちは地区へ足を運んでいた。マダラのことをみて怯える住民もいたが中には話しかける住民もいた。顔立ちのせいか専ら子供には好かれなかったが、元来思慮深いマダラは人を惹き付けるものを持っているのは確かであった。
南賀の川の沿岸を歩いていくと湖が見えた。他の川も合流してつくられるこの湖はそこそこの大きさである。そしてまた、一つの川になったつくりだ。そこに、うちは一族であろう子供たちが挙って湖に向かって整列をしていた。何かあるのかと気になったマダラは子供たちに近寄った。

「何をしているんだ?」

子供たちはマダラをみて驚いた。なかにはそのまま湖に落下している子もいた。マダラはそんなに自分の顔は怖いのかと悩んだが子供たちの目が羨望の眼差しに変わったのを見て、どうやらそうでも無いのかもしれないと思った。

「マダラ様だ!」

「本物っ本物だ!!」

きゃっきゃ、きゃっきゃとはしゃぐ子供に精一杯の笑顔を向けたが、どうだろう。うまく笑えているだろうか。大分前、柱間と歩いているときに遭遇した少女に今と同じ笑顔をつくって見せたことがあった。その時はおお泣きされて大変だった。こういうことは柱間の方が得意だとマダラ自身も分かっていた。

「火遁の練習をしているです!」

「ほう、火遁か」

だから湖に 向かって立っているのか。そういえば自分も幼い頃はよくこの川で火遁を練習をしたものだ。
子供たちはきらきらした目でマダラを見た。

「手本を見せてやろう」

マダラがそういうと子供たちは待ってましたとばかりに喜んだ。やはり最初に教えるべき技と言えば。

「火遁・業火球の術」

マダラの口からは大きな火の玉が吐き出された。それは通常の業火球より数倍も大きいものだった。パチパチと燃え上がる炎は湖をも呑み込む勢いであった。

「まぁ、こんな感じだな」

マダラが言い終わるよりも早く、子供たちからは拍手が行われた。

「すげぇ!こんな凄い業火球初めてみた!」

「どうやってやるの!?」

「こつはな……」






−−−−−−−−−−−


「遅いですね……」

「時間はちゃんと伝えたのですか?」

「ええ、今朝伝えてます」

時は昼すぎ。南賀の神社本堂には数人のうちはの忍びが挙って頭領を待っていた。最初は、普段マダラは遅刻などしないので皆何かあったのかと心配もしたが、なにせあの男のことだ。何かされるというよりは寧ろ何かする側だとヒカクは冷や汗をかいた。

「すまない。遅れた」

「マダラ様、遅れたのは知っております。何故遅れたのですか?」

「子供らの修行に付き合っていた」

「子供たちの?」

「マダラ様、そのような理由で遅刻されては困ります」

「うちはの子供たちにはもっと強くなってもらわなければな。戦もなくなったことだ。戦場にでなければ延びるものも延びないだろう」

「ですが……」

マダラは相手の話を最後まで聞くことなくヒカクが出したお茶を飲んだ。皆溜め息をつき、この人は何を言っても 聴かなかったことを思い出した。

「で、話とは?」

「具体的には今後の里についてです」

「ほぅ、それならば柱間とも話しているが」

「運営もそうなのですが、兵力についてです」

マダラはそれを聞き眉間に皺を寄せた。別に本人は怒っているつもりはないのだが、その顔は回りに緊張感を与えるには十分であった。

「九尾についてなのですが…」

「九尾?あの尾獣とかいう」

「はい。それがどうやらここから大分離れている山奥で目撃情報があったとか」

「ほぅ……」

マダラはにたりと口角を上げた。

「その九尾を捕まえて木の葉の物にしてしまってはいかがでしょうか?」

「なかなかよい案だな。柱間には?」

「柱間殿にはまだ……。信憑性に欠く話でしたので」

「なるほどな。試す価値はあるだろう。明日にでも話しておく。」

「助かります。」

ヒカクは丁寧にお辞儀をした。マダラは再びお茶に手を着けた。マダラは辺りを見渡した。隅の方には大分埃が溜まっている。普段ここには誰もいないが、こう言った特別な時にだけ使われる。だから仕方無いと言えば仕方無いのだが。今日は一段と埃が気になった。普通一族の氏神を奉っている神社が無法地帯であるなどあり得るのだろうかと疑問に思った。

「随分と廃れているな……。誰も掃除してないのか?」

「昔はきちんと神主がいたのですけど」

「なんだ、ここにも神主がいたのか。知らなかったな」

「はい。ですが大分前になくなられました。」

「跡継ぎは?」

マダラの問いに皆閉口してしまった。ヒカクもばつの悪そうな顔をした。自分の知らないことを隠しているのは明らかだとマダラは思った。マダラはここで引くようなやつではなかった。頭領に秘密ごととは。いい度胸だ。

「何を隠してるのか知らんが、この俺に通用するとも?」

マダラの目はいつの間にか写輪眼になっていた。マダラ以外のものが息を飲んだ。写輪眼を持っているマダラにかかれば相手の秘密を吐かせることなんか造作もない。それを言うだけなら未だしも、下手をしたらそのまま命ごと持っていかれそうだ。ヒカクは堪忍した様子で溜め息をついた。

「はぁ、話しますから。とりあえず写輪眼は止めてください。心臓に悪いです。」

マダラは大人しく写輪眼を引っ込めた。そしてにたりと笑い肘をついた。

「知っていること全部話せよ」

「はいはい。何処から話しましょうか……。私もタジマ様から聞いたお話です。先程も申した通り昔この南賀の神社には神主がいました。それは代々同じ家系の者に受け継ぐのですが、ある掟がありました。」

「掟?」

「それは継ぐのは男のみであること。」

別に珍しいことではないとマダラは思った。今は大分緩和されてきてはいるが、やはり力のない女は弱者だ。そこの差別は根強く残ってしまっている。またマダラもこの年になっても未だ独り身なのは力のない女に魅力を感じないからである。遊廓へいったり、女からの誘いで今まで数知れずの女を抱いてきたが全てが一度きりであった。その行為自体に感情などあった試しがない。寧ろ、なんの力もない者が自分にまとわりついてくる嫌悪感の方が倍強かった。そんなこんなで、マダラは女を好きになれなかったのだ。

「そして、この南賀の神社ではもし女が生まれたら、その子を神への生け贄にしなければならないという掟があったのです。そしてどういうわけか、この家系では代々男しか生まれなかったのです。」

マダラは自分から聞いたくせに退屈そうにヒカクの話を聞いた。どうやら彼にはこの系統の話は好ましくないようだった。


「しかし私が12の頃、つまりマダラ様が生まれた年、その家系で初めて女の子が生まれたのです。」

「それで?」

マダラは怖い顔をした。ヒカクは思わず冷や汗を流した。ピリピリと肌を刺激するような空気のなか再びヒカクが口を開いた。

「その子は生まれてすぐ、本堂のすぐ裏の南賀の山に生け贄にされてしまいました。母親は出産時に力尽きて死亡。父親はその子を生け贄にした翌日に自ら命を落としました」

「なるほどな。俺は同族殺しは好かんからな…」

ヒカクの隣に座っていた還暦を迎えたぐらいの男が身を乗り出した。

「同族殺しとは…。我々はただ掟に従ったまで!」

「やめろ、マダラ様になんて口を」

「くくっ。まぁその女が生きていようが力のないやつには用はない。弱いうちはなど恥でしかないからな」

マダラはそのまま立ち上がった。

「マダラ様……」

「用事はそれだけか?俺は帰るぞ」

「この件に関しては以上です。」

マダラは振り返らずその場を後にした。残された者はマダラがいなくなると共に大きく息を吐いた。いつもより何故か機嫌が悪かったマダラを怒らせては大変なことになるのは皆分かっていた。


「全く、あまりマダラ様を怒らせるような発言は控えてください。」

「つい躍起になってな…。でも大丈夫だったじゃないか」

「どこが……。」

「でもマダラ様の女嫌いは如何なものかと。」

「そろそろ身を固めて子を作ってもらわなくては」

ヒカクは二人の言葉に難しい顔をした。マダラが女が嫌いな理由を知っているからであった。自分とほぼ同等の力を持っている女。あわよくばそれ以上。流石戦闘狂だ。妻をなんだと思っているのか。仮にもし、そんな女がいたとしたら……。ヒカクは身震いした。そしてその話はそれ以上進まず、その会はそこで終了となった。

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