神代桜の奇跡

□惨肆
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「ちっ、」

首から手を離して手に落ちた涙をふるい落とした。その場に崩れ落ちるライラを目だけでおいそのまま見下ろすと視界が揺れて、ライラの頬に滴が落ちた。最後まで抵抗しないライラに腹がたった。少しでも抵抗してほしくて、拒絶して欲しかった。いっそ手に入らないならこのままあの男を思い出さずに殺してしまおうと思った。若しくは拒絶して、そのまま遠くにでも逃げて一生会わないでいたかった。俺は今本気でライラを殺そうとした。女1人殺すなんて赤子の手を捻る程簡単なことだ。しかし俺はライラを殺せなかった。ライラが息を吸おうと必死に口を開けるが、俺はそうさせまいと更に強く締めた。たが、どうしてもそれ以上力を入れられなかった。早く拒絶をしてほしくて爪を立てた。ライラの白く陶器を思わせる滑らかな肌から赤い血が流れる。ライラはつらそうに顔を歪めたが何一つ抵抗しなかった。

「愛してる」
どうして今この言葉を言ったのかは自分でもわからなかった。 そのうちライラの両手足はぶらりと重力に従って落ちた。

俺はこのまま去ろうかと思ったが最後に、最後に一度だけライラと神代桜を見たくなった。ライラを横に抱き、瞬身で神代桜の元へいった。桜を背もたれにライラを寝かせ俺は少し離れてその光景を見る。月光に照らされた神代桜はとても神秘的で綺麗だ。だがそんな壮大な桜でさえもライラの前ではその引き立て役にしか見えなかった。遠くからでもわかるほど美しく綺麗なそれに感嘆の音をあげる。それと同時に胸に熱いものが込み上げた。トクトクと心臓の音が聞こえた。目が霞みライラが立ち上がったように見えた。見えただけで実際には立っていない。俺は目を両手で強く押してもう一度その光景を見る。やはりライラは背を預けて気を失っていた。俺は目を再び閉じてライラに背を向けた。


そのあとすぐに柱間の元へ向かった。柱間は俺が来るのを予想していたらしく、こんな時間にも関わらず俺を待ち受けていた。


「マダラ…もうこんな無意味な争いは辞めようぞ」

ライラと似たことを言う柱間に苛々する。どうして、どいつもこいつも……

「この前の傷が元で弟は死んだ。うちはを守るために俺に力を残して」

「休戦協定の書状は送ったはずだ!うちはを守るならもうこんな戦いは止めようぞ」

「柱間ァ!いつまでもガキのようなことをいっている!腑を見せ合うことなんてできやしねーのさ」

そう、言葉でいくら言っても本当の心の奥までは見えない。どんなに好きだと言っていても心のなかでは誰を想っているのかなんて自分にしかわからないのだ。


愛が、憎しみが、孤独が俺をいっそうと強くした。沸き上がる力に身を任せて須佐能呼をだす。何時もより何倍も大きい須佐能呼をみて柱間が冷や汗を流す。これが所謂完全体というやつだった。これなら、と思うが流石柱間、この須佐能呼と同じ大きさの木遁で対応してきた。やはりやつの術は便利すぎる。あの印一つで色々なことが出来る。この完全体ですら身動きをとれなくさせられてしまった。それからは両者一歩も譲らない戦いが続いた。そして先にチャクラが尽きたのは俺の方だった。須佐能呼がとけ空中から放り出される。重力に従って落ちる体に柱間の木遁が迫る。背中に激しい衝撃が来てどうやら地面についたのだとわかる。迫り来る木遁にこれまでかと思った。その瞬間視界に飛び込む影。それと同時に貫かれる胸から大量の血が出て顔に着いた。頭がずきりと痛くなり、それと同時に頭に映像が流れ込む。


「どうして……」

『約束したでしょう?』

そう言ったライラの顔はとても美しかった。胸を貫かれているためかなりの
痛さのはずなのに眉ひとつ動かさずに、いつものように笑う姿は、俺の好きなあの笑顔だった。ライラが俺の横に倒れる。涙が耳の中に入るのがわかった。涙と共に流れる俺とライラの記憶。何故今まで、こんな大切なことに気づかなかったんだろう。だから俺はあの時……。



「マダラァ!」


柱間と千手のものが俺達を囲んだ。ライラは俺の頬に触れると、力なく目を閉じた。

「マダラ、…終わりだ」

扉間が刀を向けた。

「…まて扉間、この女は……?」

「この女は確か、うちはのくの一だ。最近噂になっている……。それに、兄者、今がチャンスだろ…二人まとめて」

「手出しは許さん…」

柱間の言葉に扉間は黙る。

「フン…いっそ…一思いにやれ…柱間。お前にやられるなら…本望だ。それに……大切なことも思い出せたんだ。もう」

「かっこたけても無駄ぞ。長であるお前をやればお前を慕う若いうちはの者がまた暴れだす」

「もうそんな芯のあるやつはいねーよ。うちはには」


「いや、必ず居る…。また…昔みてーに水切りできねーか?一緒に…」

「そりゃ無理ってもんだぜ…俺とお前はもう同じじゃねぇ」

「今の俺にはもう…兄弟は一人もいねぇ、それにお前らを信用できねぇ。」


「どうすれば…信用してもらえる?」

「腑を見せ合えるとすりゃ今弟を殺すか…己が自害して見せるか。それで相子だ…そうすりゃお前ら一族を信用してやる。」


「バカバカしい…耳を貸すな兄者!」

「ありがとうマダラ。お前はやっぱり情の深い奴だ。」

「いいか扉間…俺の最後の言葉としてしっかり心に刻め…俺の命に代わる言葉だ、一族のものも同様だ。」

柱間はクナイをとりだし自分の腹に向けた。俺は黙ってその光景をみる。

「俺の死後決してマダラを殺すな。今後うちはと千手は争うことを許さぬら皆の父とまだ見ぬ孫たちにかけて誓え。」


愛してる。これから先も永遠に。


俺はお前とずっと一緒だ……これから先も。

約束だ。



ライラの笑顔が脳裏をよぎる。
 彼女がこの時代のまで来て望んだものは






「…!」

「もういい…お前の腑は見えた」


気づくと俺は柱間の腕を持っていた。カランと音をたてて落ちるクナイ。柱間は涙を流していた。

「マダラ……。その女は……?」

「すまないが手当てしてやってくれないか。急所ではないが肺を貫かれている。」

「すまない……お前の大切な人だったのだろう?俺はまた」

柱間は申し訳なさそうに頭を下げた。俺はライラを見た。回りにいた千手のものたちがライラの止血をした。布を巻ききつく縛る。ライラは声ひとつあげずにぐったりとしていた。どうやら本気で気を失っているようで、これは暫く起きそうにないと思った。
柱間は俺に手をさしのべ、俺はそれを取り立ち上がった。

「さっき言ってた大切なことってのは」

「あぁ……。遠い昔の記憶だ…。きっとあれは柱間だったのかも。いやそうに違いないだろう」

「なんの話しぞ?」

「いつか話す」

「柱間様、止血が終わりました。」

「すまない」

俺はライラを、そっと抱き上げた。止血されたところは、丁寧に布が巻かれているが直ぐ様血が滲んでいた。首には自分が着けた締め付ける手のあとが、くっきりと白い肌に赤く残っていた。頬の怪我も腫れ上がり見るからに痛々しかった。罪悪感とともに、後悔を覚える。俺はなんてことをしてしまったんだなんていくら思ってもライラの怪我は治るわけでもない。一応後には残らないようにしたつもりだが、もし残ってしまったら……

「責任はとる」

「ん?どうした?」

「いや、なんでもねぇ」

柱間は、不思議そうに俺を見たがそうか、といって扉間と色々話していた。

「俺は一先ずうちはに帰る」

「そうか、気をつけてな」

「兄者っ、一人で帰すきか。もしまた……」

「扉間、少しは相手を」

「案ずるな。もう戦うきはない。それでも信じられないのなら今、俺に飛来神のマーキングでもしておけ。そうすれば、お前はいつでも俺を暗殺出来るだろう?」

俺が片手を出すと、扉間は信じられないといった表情をした。そして眉間に皺を寄せて暫く悩んだ末はぁ。と大きく肩でため息を着いた。

「そこまで言うのなら、信じてやらないこともない。」

「あっ、あの扉間が……!」

柱間が両手を右にして若干引きぎみにいうと扉間からの鉄拳がおりた。

「またな」


俺はクスリと笑い、ライラをだいてそのままうちはへ向かった。

登った朝日は、さんさんとしていて、あの月はもう何処にも見えなかった。

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