神代桜の奇跡
□惨惨
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目を冷ますと何かに背を預けて寝ていた。後ろを見ると木の幹だった。痛む頬をさすりながらたちあがるとそれは神代桜だった。どうやってここに来たのかはわからないがどうやら長い長い夢を見ていたようだった。それにしてはやけに現実的な夢。
否、あれは私の記憶だ。私とあの人の大切な大切な記憶。この二年間忘れていたものだった。私は指輪を外して上に掲げる。
『貴方のお陰でようやく会うことができるわ』
指輪の向かうに見えた桜の木はあらかたは蕾で所々小さく花が咲いていた。あと何日かすれば満開になるだろう。久しぶりに見たそれは相変わらず美しかった。
私は髪を結っていた紐を解いて指輪に通しそれを和にして首にかけた。艶のある漆黒の髪が肩に落ちた。
私の願いは届いたのだ。マダラはあの人の……
今の詳しい時間はわからないがだんだんと明るくなっているので明け方ではあるだろう。しかしまだ所々に星が見えていた。いっそこの現実も全て夢だったらなんて考えるが今はやらなくてはいけないことがある。私はただ走って走って走りまくった。着物できてしまったことに後悔するが今となってはもう遅い。こんなとき便利な口寄せでも用意しておけばよかったと思った。太陽が半分ほどみえはじめた。それと同時に胸の鼓動が早くなる。上がる息に反して走るスピードはあがっていった。早く早く早く。その思いだけが私の足を動かした。ただひたすらがむしゃらに走ると遠くで千手の頭領である、名を柱間という男とマダラが戦っている姿が見える。あの時と全く同じ構図に冷や汗がでる。
近づくにつれ二人の戦いがどれ程激しいのかがわかった。近づくことだけでも命懸けだった。太陽が顔を見せる。東から照りつける太陽に頭がくらくらとした。すっと目を細めるとマダラの須佐能呼が消えるのが見える。それと同時にマダラに迫る木遁。私は迷いなくそこへ飛び込んだ。
『うっ……』
ぐさっと刺さった木遁をみて顔をしかめる。どうやら右の肺を貫通しているらしく急所ははずせたようだ。それでも予想以上に流れる血をみて力が抜けていく。それを見て目を見開いているマダラが見えた。
「どうして…」
その勢いのまま私は地面に背をつけた。
『 』
願わくば貴方だけは助かってほしい
首にかけられた指輪は光らなかった。