神代桜の奇跡

□惨弐
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肩までの髪をした男が私の手を掴んだ。それにつられて私はたちあがる。

「今夜は満月だ。見に行こう」

男につれられて歩く道は、今とあまり変わらないよく知った道だった。今よりはまだ整備されていなく道というよりは人が歩いた跡といったほうが正確かもしれない。手入れはされていなく雑草が至るところに生えている。片方の手で着物の裾をあげ汚れないようにする。足袋をはいているためとても走りづらい。

「ごめん。少し慌てすぎた。ゆっくり歩いていこう。」

そう言うと男は隣を歩いた。繋がれた手は離さず、そのままだった。

「明日は千手との戦だからな…。最後に一緒に見たかったんだ。」

「え?最後なんて言うなって?ハハッ。俺も勿論最後になんてしたくないさ。でもいつなにが起こるかわからないだろう。あっ、ほらあったあった」

大きな満月を背景に、それに負けないくらい壮大で美しい神代桜があった。今ではうちはの地区にあるが当時はまだうちはの領地には入っていなかった。ただ、管理していたのがうちはだというだけであった。月明かりに照らされ淡い桃色が見える。それに相反した漆黒の夜空が更に桜の美しさを増す。

「ライラ、ちょっとそこに立って。」

男は木の根本辺りを指差す。

「あぁ、やっぱりライラにはこの桜が似合うよ。まるで生まれ変わりみたいだ」

「なっ、笑うな。俺は本気でそう思っているんだから。犬は主人ににるとかよく言うけど主人が似ることだってあるんだよ。はははっ、そう怒るなよ。誉めてるんだからさ。少し早いけどそろそろ行こうか。明日は早いんだ。ちゃんと寝なきゃね」

そういい、男が私の前までやって来た。そしておもむろに髪をひとすくいして己の目の前まで持ち上げた。

「相変わらず綺麗な髪だな。」

私は男の頬に手をあててすっと目を細めて笑った。これは私と、男の癖である。今まで何回このやり取りをしたかわからないが、まぁとにかく、これは癖なのだ。
男は再び手を握った。骨ばった自分より大きい手はひんやりとして気持ちがいい。男が私の速度に合わせ来た道を戻った。


−−−−−−−−−−−−


次の日、早朝から戦にでた。日がまだ上りきらない間に家をでる。外の風は冷たく身につけた鎧がやけに重く感じる。カチャカチャと音をたてながら歩く集団はとても厳つく見える。空には雲一つない晴天が広がっており、鳩が空をとぶ。鳩は平和の象徴とはよくいったものだ。こんなに天気のいい日に戦だなんて気が滅入ってしまう。

「ライラ様、お待ちください!」

遠くから、綺麗な黒髪を揺らし漆黒の大きな瞳を持った五歳ばかりの子どもが走ってきた。五歳にしてはしっかりと言葉を話し、受け答えもできる、その子は天才という言葉がよく似合う子だった。私のもとまでくるとよほど走ったのか手を膝についてぜえぜえと息をした。呼吸が整うのを待ちながら頭を撫でてやる。

「ライラ様、今日も戦へむかわれるんですね。御武運をお祈りします」

そんな難しい言葉一体どこで教わったのかはわからないがそこは天才いう言葉で片付けておこう。私はチカゲの頭から手を離し急いで先程の集団に追い付く。カチャカチャと鎧の音が揃って鳴る。この音をきくと気が引き締まる。じっと耳を済ませば鎧の音に混じり虫の音が聞こえた。本当に今日はよい日なのだ。



青くすみわたった空に反し、地面には赤が散りばめられている。人を刺すと予想以上に血が出るのだ。出ると言うより吹き出すといえ表現の方が伝わりやすいだろう。首を切った時なんかはまぁ返り血を浴びないなんてことは無理だ。自分の体に付着した血が乾いてぱりぱりになっていた。元々きれい好きな方の私にとっては信じられない状況だったがここは我慢だ。そんなことを考えた一瞬の隙は戦では命取りになる。それでも長く戦えば集中力が切れてしまう。顔についた血を拭い、まるで舞を舞うかのように一撃で急所をついていく。ここはうちはの集落の外だが何時もより近い場所ではあった。昨日二人で見に行った神代桜が遠くに見えた。こんな戦に巻き込まれてはひとたまりもない。私は目の前の敵を切りながら神代桜の方へいった。写輪眼で相手の動きを見切りながら巧みに進んでいくとあっという間に到着できた。それからはどちらも一歩も譲らない攻防が続きチャクラも底がつきそうだった。目の前に昨日の男と千手の長が戦っているのが見える。男はうちはの長であった。それ故、それぞれの長同士である者の戦いは他の者よりずば抜けて激しい。千手の長が木遁を使う。すると地面のいたるところから木がでてきて、それが鋭い刃へと変わり男を襲った。男はそれを交わすがその他の何本がこちらへ向かってきた。あまりのスピードのため術が間に合わない。このままでは神代桜にあたってしまう


私は神代桜に当たりそうな者を何本がクナイで弾き、それでも弾ききれなかったものから神代桜を守るため両手を広げて盾になる準備をした。私は神代桜を守ることこそが仕事だ。代々、私の家系はこうやってこの神代桜を守ってきたのだ。私の代で駄目にしてはいけないのだ。私はぎゅっと目を瞑った。麗桜の指輪が熱をもつのを感じた。その瞬間は一瞬の出来事で、目を瞑った今はまるで時間が止まっているようにかんじた。静かな場所に水が一滴だけ落ちるそんな静かで、ゆっくりとしている感覚。体中が研ぎ澄まされてあらゆる感覚がいつも以上に敏感になる。人間は脳のは一割しか使われていないというが、死ぬ寸前は百になるのだろうか、なんて悠長なことをこの短時間で考えた。一つだけ悔いがあるとするならばあの人のことだけだった。

目の前まで来ているであろう木遁を確認するため目を開く。すると目の前は黒で埋め尽くされそのなかに見慣れた家紋が見えた。それが誰かの背中だと気づいたのはその背中から貫通して相手の木遁が見えてからだった。顔に血がつく。ぼたぼたと垂れる血の量は尋常じゃない。

「怪我はないか…。」

どうしてと言いたいが声がでない。声が出せない。そして体を動かすことも出来ない。ただ意識のみそこにあるだけ。その人物がゆっくりとこちらに振り向く。私の手は勝手に頬へ動いた。
あの人だった。私を優しい眼差しでみるその目は昨日と変わらない。変わるとすれば貴方の胸から流れ落ちる大量の血だけだろう。

「お前は…生きろ。」

頬に涙が伝う。そして首を横に振っていた。男が私の髪を救い上げ口元へ持っていった。

「愛してる。これから先も永遠に」

その言葉に目を開く。同時に私は指輪を強く握った。そして火傷をしてしまうくらい熱くなった指輪はがたがたと震えた。

「俺はお前とずっと一緒だ……これから先も」

『 』

「約束だ」

私の口角が上がるのがわかった。そしてそのまま意思を手放した。

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