神代桜の奇跡

□惨壱
1ページ/1ページ



『ハァハァ……。あと少し。』

私は肩で息をしながらただひたすら走っていた。着物のまま来てしまったためとても走りずらく、はしたないとはわかっているが裾を少し持ち上げて走っていた。肌けた足元からスウスウと冷たい風が入ってくる。
千鶴と別れてからどれぐらいたったのだろう。太陽は真上を少し過ぎたころだった。暗くなっては厄介だ。早くしないと。

手紙の内容はイズナが致命傷をおったということだった。手紙が来るのに半日はかかるため、イズナが怪我をしてから1日ほど過ぎているだろう。きっとあの胸騒ぎはこれだったのだ。あぁ、あの時からここに向かっていればと嘆いてみるもそれも後の祭りだ。今はただイズナの無事を祈るしかない。暫く進めば戦場が見えてきた。それは今までのものとは比べ物にならないほど酷いものだった。死体が腐った独特の匂いが鼻をしげきする。いたるところに血の後があり、この間まで人間だったものが落ちていた。きっとここら辺一体は起爆札で戦死したものの遺体だろう。胸の辺りにごろごろとしたものが込み上げた。いくら死体を見慣れているとはいえ、これには耐えられなかった。死体を踏まないように跨ぎながら奥に進むとこちらに引き返してくる集団がみえた。よく目を凝らせば見慣れた家紋が見えた。私は急いで駆けつけると皆驚いた顔をした。そして口々に自分の家族は無事か、やらこちらの状況などを聞かれた。特別に変わりはないと答えればほっとした表情になった。そしてマダラはどこかと尋ねればどうやら少し遅れて来るそうで、私はそこでまつことにした。日は沈みかけて空には星が輝き風もさらに冷たくなった。もう、大方のものが戻ったようで、辺りには誰もいなかった。そんななか、遠くに人影が見えた。ゆっくりとこちらに近づいてくるその影は3ヶ月間会いたくてしょうがなかった人だった。

『マダラ!』

私は走り出した。徐々に近づく距離。その距離がゼロになるとマダラの顔が見えた。

「ライラか」

『マダラ……?』

どうやら感動の再開とはならなかったようだ。会えたことに喜んでいるのは私だけのようでマダラは無表情であった。私はマダラの急変ぶりに驚いた。マダラはとても冷たく、凍りついた目をしていた。私を見た瞬間少し和らいだ気もするが、それでもその一瞬だけだった。直ぐに元に戻り発せられた声も、とても冷たい声だった。一体マダラになにがあったのだろうか。

「ついてこい」

その有無を言わせない声に、黙って従うしかなかった。喉元まででかかった言葉を飲みあとに続いた。今まで一度だってこんな命令形で言われたことはなかったので、私はどうすればよいのかわからなかった。
暫く歩けば陣に到着した。仮家よりも質素で簡単な作りのそれは本当に一時的なものにすぎなかった。その何個かある建物の一つのなかに、入ると中に布団が引かれていてその中には誰かいるようだった。マダラはそれ以上中に入ろうとしなかった。まるで、私一人で行ってこいというばかりに。
私は恐る恐る布団に近づく。布団から見えた顔はイズナだった。目に包帯をまかれ、口元は穏やかに笑っている。

『イズナ?』

イズナから返事がなかった。寝ているのかと思って頬に触れると、私はそこで初めてイズナが死んでいることに気がついた。冷たい頬はこの笑顔に間反対だった。この目に巻かれた包帯は…。

『イズナ……』

私の目から涙が溢れた。この年齢にもなると子供のようにわんわんと泣くことは出来ないが今だけ、今だけはそうしたいと思った。それをこらえて、なんとか声を出す。

『いつ?』

「今日の朝だ」

そういいマダラは外に出た。私も後を追うように外に出た。外に出るとマダラは近くの気に背中を預け腕を組んでいた。天空には巨大な月がのぼっている。舞台の書き割りを思わせるどこか偽物くさい月である。月明かりに照らされたマダラはとても艶かしい。月が、似合う男だと思った。そしてまたマダラが月が好きだということも知っていた。

『マダラ……今はどうなっているの?』

「どうもこうも、今まで通り戦の最中だ。」

冷たくいい放つマダラに昔の優しいマダラの面影はない。

『今まで通りって…。イズナがいなくなった今、戦力が大きく落ちてしまった。何か手を打たないと…。』

私は先程の涙を拭い最後のほうは震えながら話した。マダラは木から背を離しこちらに歩いてきて私を抱き締めた。抱き締められた瞬間元のマダラに戻ったように感じた。久しぶりに嗅いだマダラの匂いに混じって血のにおいがする。マダラの震える腕を優しくさすりながらことばをまつ。

「千手から休戦状がきた」

ごくりと私は息を飲んだ。皆が待ち望んでいた休戦。それが向こう側からきたのだ。おそらく千手のもの達も疲れてしまっているのだろう。だったら尚更…。

「俺は…」

『私は、休戦した方がいいと思う。』

私と話すタイミングがかぶってしまったため、マダラの話を遮ってしまった。しかし私の言葉は、はっきりとマダラの耳に届いたようでマダラはビクッと肩を震わせた。そして回していた腕を解いて私の瞳をみた。その瞳は万華鏡写輪眼で、マダラとイズナの模様を合わせたような形だった。不謹慎だがとても綺麗な模様だと思った。マダラとイズナの二人が私を見ているように思えた。


「この目はイズナのものだ。昨日イズナが自ら俺に差し出してきた。それを……、イズナの死を無駄にするのか!?」

マダラがぎろりと私をにらんだ。今までマダラは声を荒げることなんて滅多になかった。やはりこの数ヵ月かんで確実にマダラは変わってしまったのだ。いや、今日変わってしまったという方が正しいのかもしれない。どちらにせよ、今のマダラをどうにかしなくてはいけない。力は人を強くするがそれと同時に孤独にもさせやすい。私はマダラの迫力にたじろぎながらも必死で言葉を紡いだ。

『無駄だなんて言ってないわ。ただ……これ以上続けても犠牲が増えるだけよ!』

「お前もそれを言うのか。……。戦に犠牲はつきものだろう。それを今更」

『これ以上多くの人が悲しむことに何の意味があるの?』

「今まで多くの人が嘆き、悲しんだ。それを、それを報いるためにも、この戦の勝利は必要だ。」

『確かにそうかも知れない…。でもマダラは周りが見えていない!』

「なに?」

マダラの目付きが変わった。それと同時に放たれる殺気。初めてマダラを怖いと思った。こんな殺気を向けるということはマダラにとって私はなんともない存在なのかと思うと自然と視界が涙で霞んだ。本当に今日は何回泣くんだろう。自分はそんなに泣く人ではないのに今日は涙腺が緩んでいるようだ。

『私のいた時代でも戦はあった。皆、仲間の死の敵をとるために戦っていた。でも、今は周りの皆は休戦を望んでいるわ。何も、休戦が仲間の死を無駄にするわけじゃない。』

「ならば、イズナの死んだ意味はなんだ?俺に力を与え死んだイズナを犬死にさせる気か」

『イズナの死は無駄じゃないし、マダラの力も決して無駄じゃない。ただ、使うところが違うと言っているの!私は……。私はマダラがわががままを言っているよえにしか見えないわ。』

「黙れっ」

マダラが手を上げた。私は反射的に避けようとしたがからだが上手く動かず、次の瞬間頬に衝撃が走った。

「お前になにが分かる…。今までどれだけ尽くしてもお前は俺を見なかった。いつも俺を通してあの、男を見ているんだ。そんなお前にこの俺の気持ちが分かるか」

マダラは肩を激しく上下させ切れ切れに話した。 口のなかから血の味がした。どうやら、口のなかが切れてしまったようだった。バランスを崩して倒れた私を荒々しく腕を引いて起こした。自分から叩いておいてマダラは一体何を考えているんだろう。マダラは私の肩を掴んだ。掴まれた肩は骨がギシギシと音をたてて激痛が走る。お互いの顔がよく見える体制になり、マダラの顔を見ると涙こそ出ていないが私にはマダラが泣いているようにみえた。その顔を見ていると言葉がつまる。


「その目だ……。お前は俺のことを本気で好いていない。すべてあの男を通しての偽りのものだ。お前の記憶をあの男が占めていると思うと気が狂いそうだ。」

肩にあったてがいつの間にか首に回っていた。

「いっそここで殺してしまおうか。」

徐々に込められる力に生理的な涙がでてくる。息を吸おうとも喉がひゅうひゅうと音をたてるだけで肺まで届かなかった。酸素が十分に取れず頭の中が真っ白になる。叩かれた頬が痛い。今まで一度だって手をあげられたことはなかった。私の涙がマダラの手を濡らした。私は何の抵抗もしなかった。それに苛ついたのかマダラは爪をたてて首を占めた。爪が首に刺さり熱いものが流れ落ちるのがわかった。あまりの激痛に顔こそしかめたが、それでも抵抗しなかった。私を見て、マダラがなにかをいっているが聞き取れなかった。そこで私は意識がなくなった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ