神代桜の奇跡

□惨拾
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「マダラ様、イズナ様の目を移植したのですか?」

責め立てるような口調でうちはの何人かが部屋に入ってきた。イズナの目を移植したその晩のことであった。
そうだ、と頷けば皆、顔面を蒼白させた。

「何て言うことを、」

「もう我らに勝機は見えません!最近では千手に亡命する者もいる始末。」

「それでも、俺達は戦わなくてはならない。それを忘れたのか?」

「だからといってこれ以上犠牲を増やすのですか」

「戦に犠牲はつきものだ。忍ならばそれくらい覚悟の上だろう。とにかく戦は続ける。話は終わりだ」

「マダラ様っ!待ってください」

俺はそれを無視して立ち上がる。すると、ギリリと奥歯を噛み締める音が聞こえた。俺は今背を向けていてわからないが、あいつらは恐らく俺のことを睨んでいるだろう。だが、俺もこればかりは譲れない。戦いに勝たないと、イズナが視力を失ってまで残したこの力の意味がなくなる。俺はこの力で必ず一族を勝利へと導くのだ。
イズナの部屋に戻ればイズナが血を吐いていた。手で口元を押さえているが、赤黒い血が白い布団の上に落ちる。急いでイズナのところへ駆け寄るとイズナが弱々しく手を伸ばしてた。俺はそれをそっと握った。

「最後……だからかな……。たくさん…話したい気分だよ…。」

にこりと笑うイズナの顔と、だんだん冷たくなっていく手に俺の額から汗が流れた。

「兄さん…これまで、色々なことが…あったね…。小さいころは、よく喧嘩して…兄さんが、父上に怒られて…た。でも…最終的にごめん……って謝ってくれる…兄さんのこと、……好きだったんだよ。はははっ…。随分……懐かしいよね。」

まるで最後の別れを告げているかのように細々と話し出すイズナに不安が過る。

「でも……今まで、一番驚いたのは……やっぱり、ライラのことかな…。だって…夜にいきなり……兄さんが、綺麗な女の人……連れてくるんだもんな……。最初は……兄さんが誘拐しちゃったのかと…思って焦ったよ。あの日の夜は…思わずヒカクと…話し合いをしたんだ、。ライラを……どうするかについてね…。でも兄さんの…必死さに、俺もヒカクも…折れたんだったよね……。」

昔を懐かしむように遠くを眺めるイズナ。自分の手が震えているのがわかった。

「兄さん……俺の最後の……頼みだ……」

「最後だなんて言うな。お前の頼みならいくつでもこたえてやるから…。」

「最後ぐらい格好つけても……いいだろ?」

イズナは震える俺の手を力を入れて握り返した。

「うちはを頼む」

「あぁ、任せてくれ。だが、それにはお前の力が……」

「俺は死んでも……後悔は…ないよ。だって…兄さんの目に…なれたんだ。平和な世界を…一緒に見れるんだしね…。兄さん、今まで本当に……ありがとう。俺、兄さん…の弟でよかった……。」

「あぁ、もうわかったから……。だから、死ぬな、イズナ」

頬をったっていた涙はついにイズナの頬に零れ落ちた。イズナの口元は笑っていた。安らかな顔だった。あぁ、むかしむかし、まだ他の弟達も生きていて皆で遊んだ時もこんな笑顔だったな。俺は弟のその笑顔を守りたかっただけなのに。気付いた時には全て失っていた。
イズナの表情はそのまま変わることはなかった。





−−−−−−−−−−−−−−−−





おかしい。マダラ達が戦にでてから3ヶ月ほど過ぎたが、それからは毎日のように文のやり取りをしていた。マダラは忙しいのにも関わらずすぐに文を返してくれた。最初は無理して返さなくてもいいといったが、別に無理をしていない、とマダラから返事が来たときはどれ程嬉かったことだろうか。内容は相変わらずであったけれど、それでもマダラをいつも側に感じられていてとても安心できた。もう3ヶ月も会っていないのに寂しいという気持ちがないと言っては嘘になるが、それほど遠く離れているという気持ちはしなかった。

いつも通りの時間に起き、いつも通り外にでて鷹をまつ。しかしおかしなことにいつまで待っても鷹が来なかった。今までも何回か来ない日もあったが、今日は何故か変な胸騒ぎがした。女の勘はよく当たるのだ。二時間ほど外にたっていると些か体が冷えてしまった。女中達が何度か中にはいるよう声をかけてくれたが私はもう少し、といってその場から離れなかった。流石に今日は来ないのかもしれないと思ったが何故だか体が動かなかった。

「ライラ様、せめてお食事だけでも…。」

「ええ、あとでいただくわ。」

「ふふっ、そういうと思いまして、握り飯を作って参りました。」

私はびっくりして女中の顔を見ると、昔他の女中に膝を叩かれていたまだ成人していないぐらいの女中であった。
私の前に笑顔で握り飯を差し出している。
「まぁ、私のために作ってくれたの?」

「勿論でございます。ライラ様といえども、きちんと食事をとらなければいざというときに力が出ません。少しはしたないですが…。良かったら食べて下さいまし」

「ありがたく頂くわ。」

私は肩にかけた羽織を片手で押さえてもう片方の手で握り飯を受け取った。

「せっかくだから、一緒にそこの木のところで食べましょう。」

「えっ!私もよろしいのでしょうか…」

「ふふっ、当たり前じゃない。だって貴女が作ったものでしょう?朝食はまだ?」

女中は少し頬を赤らめながらコクりと頷くと、では…と小さくいい二人で食べることにした。

「しかし、こんなところに座っては、着物が汚れてしまいます!」

「いいのよ、そんなこと。それより、頂きます。あらっ、美味しい。」

「ちょっ、ライラ様。こんなとこねぇ様達に見つかったら。」

「その時は私が無理やり誘ったって言いなさい。それでも駄目なら私が直接いってあげるから…。ほら早く食べないと冷めてしまうわ。」

女中は最初は渋っていたが、諦めて私の隣に座った。

「ふふっ、いい子ね。」

私が頭を撫でると再び赤くなる頬。忙しい子だなと思いつつ、私は再び握り飯を口に運んだ。丁度よく塩が効いたこの握り飯は私が好きな味だった。

「ライラ様は……」

とても小さな声で最後が聞き取れなかった。聞き取れなかったからもう一度、と言えば女中は私の目を真剣に見つめた。茶色のまるで鼈甲のようなきれいな瞳だった。

「ライラ様は休戦をお望みですか!?」

休戦…。私は繰り返すように呟いた。望んでないといえば嘘になる。早くこの地獄のような戦を終わりにしたい。しかし、マダラの意志を尊重したいと思うのもまた本当だ。今はその両方を天秤にかけても結果は自分でもわからない。

「わからないの…」

「そうですか…」

「ええっと、今さらだけど名前を聞かせてもらってもいい?」

「はっ、はい。私は千鶴と申します。」

「そう。じゃあ千鶴はどう思う?」

「私は……休戦を望んでいます。」

私は千鶴の言葉に胸が痛んだ。その強く、真っ直ぐな目に思わず視線を反らしてしまった。

「私の両親は、戦で死にました…。そんな身寄りのない私、いや私達をここで働かせてくれたのは他でもないマダラ様達です。」

そのことを聞き驚いた。この屋敷は確かに広い。がそれ以上に女中などの使用人が多いと前から疑問には思っていたのだ。まさかそんな理由だとは思わなかったが。

「マダラ様は人の痛みがわかる方だと思います。わかるからこそ、休戦の意味があると私は思います。」

私は自分よりいくらか下のこの少女がとても強く、頼もしく見えた。やはり、千鶴を初め多くの人が休戦を望んでいる。それに、今回戦が始まる前にも、色々と内部で揉めていたようだ。それでも始めたこの戦には何の意味があるのだろう。勝利の先には何があるのだろう。仲間の死?それならばこの戦はなんのために…。

ピョーロロ

「これは!」


急いで立ち上がり上をみる。すると案の定鷹が急降下してきた。私は急いで腕をだした。背中の紙をとり中を開く。私はその内容をみて驚愕した。

「ライラ様…?」

「千鶴、私、今からマダラ達のところへ行ってくるわ。」

「えっ、そのままの格好でゆくのですか!?」

「今は時間が惜しいの。だから他の人にも伝えておいて」

「はっ、はい。御武運を祈ります。」

私は軽く頷き、急いでマダラ達の元へ向かった。

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