神代桜の奇跡

□弐玖
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雪も溶け、日中になればいくらか暖かくなった。そんな3月の初め、俺達は変わらず千手との戦いにみまわれていた。集落をでてからどれ程の仲間が死んでいっただろう。もう死んでいった仲間を数えるのはやめた。そんなことは虚しさが増すだけだと気づいたのはいったいいつだったのだろう。変わらない日々に頭が狂いそうにな。生き残った周りのものたちは休戦を求める一方、俺はいまいちそれに踏み込めずにいた。そうやって曖昧にしているうちに刻一刻と時間は過ぎていった。

カキンッ

刀と刀がぶつかる音が響く。ちらりと横をみると、イズナと扉間が戦っているのがみえた。イズナは強い。しかし、相手の扉間は目の前にいる柱間の弟なだけはあって侮ってはいけない。俺はそちらに目配せをしながら再び柱間に刀を振りかざした。いとも簡単に交わされると今度は刀を鞘に戻し印を結んできた。あの印が木遁であることはわかっている。俺も同じように刀をしまい素早く印を結んだ。

「「木遁木龍の術/火遁龍火の術」」

通常のものより何倍も質の高い術が交わる。そして大きな爆風をたててお互い一旦距離をとった。煙がなくなり、そこに見えた光景はイズナが扉間に切られているところだった。


「イズナ!」


「がはっ」

イズナの口から大量の血が吐き出された。俺は肩にイズナの腕を回して体を支えた。すると俺を追いかけてきた柱間が目の前にたった。


「マダラ……お前は俺には勝てない。もうこんな戦いは終わりにしようぞ」

カランと柱間は武器を捨て、差し出された手。辺りを見回すと死んでいった仲間の死体だらけだった。もう限界なのかもしれない。ここで…
俺は一歩足を踏み出した。


「やつらに騙されるな兄さん。」


「っ!」

そうだ、俺は今までなんのために戦ってきたんだ。ここで柱間の手をとっては死んだ仲間達に合わせる顔がないじゃないか。懐に隠していた煙玉で俺はその場を後にした。



「っ兄さん、俺は、もう…」

「イズナ、これを飲め」

薬を渡すとイズナは大人しくそれを飲んだ。ライラから渡されたこの薬は体の傷を早く治してくれる物らしくしばらくすると効果が出てきたのか荒かった呼吸が幾分かましになった。

「兄さん、」

イズナは布団から体を起こした。

「イズナ、傷口が開く!」

「兄さんもわかってるだろう?俺は……もう助からない」

「そんなことはない、頼むから大人しく寝てくれ」

「兄さんに、頼みたいことがあるんだ。」

「なんだ」

「少し後ろを向いてくれないか。」

「後ろを?」

俺が聞けばイズナはこくりと頷いた。言われた通りにすれば、しばらくして聞こえたイズナの深呼吸をする音。そしてうっと、くぐもった声がきこえた。それと同時にかぎなれた鉄の匂いがした。ぎょっとして振り替えると両目から大量の血を流しているイズナの姿があった。そして手に握られた眼球。今の俺にはそれが何を意味しているのか理解できなかった。

「イズナ……」

「兄さん、これを…移植して。拒否権は、ないよっ。だってもう取っちゃったし…。優しい兄さんのことだからこうでもしないと……移植しないでしょ?」

「いっ、急がないと……。早く」

つき出された手を振り払うことはできず俺はそれを受け取ることしか出来なかった。
それからはあっという間だった。今までとは違う新たな力が沸々と沸き上がるのがわかる。どうやら上手く移植できたようだった。両目はまだ熱をもっており、俺の頬を涙が伝った。

「どうっ?」

「イズナ、すまない」

「謝らないで……俺が勝手にやった…ことだ」

近くにあった救急箱で素早くイズナの治療をする。最後に目に包帯を巻く。包帯を巻いているときイズナはもう助からないなどと呟いていたがそんなこと気にせず包帯を巻いた。

「今日は寝ろ。ライラに文を送った」

「ははっ……それまで……持つかなっ」

「お前は死なせない。わかったら黙って寝ろ」

「最後に……ライラにっ会いたいな……そしたら……」

イズナは疲れてしまったのかそのまま眠ってしまった。俺は自分の眼球が入った箱を持ち外にでてそのまま火遁で燃やした。正直、最近はろくに前も見えていなかった。時折ひどい激痛がはしり戦いどころではなかったのだ。俺はこの新たな光で千手を倒す。俺はそう決意して部屋に戻った。

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