神代桜の奇跡

□弐漆
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翌朝降り積もった雪のなか俺達は千手の集落を目指した。今俺達はうちはの集落とは別のところで仮家をたてて暮らしているが、おそらく千手も戦ようの仮家で暮らしているため実際人はあまりいないのだろう。人こそいないが、本陣をとることはつまり敗北を意味する、それはこの時代では常識であった。
うちはを出るときライラは見送りに来てくれたが特に会話をしないで終わってしまった。自分からまいた種とはいえ、心にぐっと刺さるものがあった。戦いは最終段階まで来ていることは誰もが皆わかっているだろう。そのため、今回の戦に反対するものは沢山いた。俺ははじめは戦いを継続させようとしたがあまりにも反対意見が多いため、一時は千手に休戦協定を出すつもりであった。しかし弟のイズナの意志は固く、今まで死んでいった仲間の仇をうつんだという信念に皆押し黙るしかなかった。俺もまたイズナの言葉をきき今日の戦に踏み出すのを決意した。

積もった雪のなかを歩くのにはかなり骨がおれる。こんな悪天候のなか戦うのは些かお互いにとって良くないことではあるが、火遁を得意とする我らうちはにとっては、やつら千手より幾分か有利である。戦は力こそ大切だが、それ以前にしっかりとした寝床と食料、そして体調管理はそれ以上に大切である。火を炊くことによっていくらかの暖をとることはできる。それに柱間の木遁の術も雪により少しばかりスピードが落ちるのは捜索ずみだ。


暫く歩けば前から同じように、こちらに歩いてくる集団がみえた。あの家紋は、間違いない。


俺が駆け出すと同時にうおおと雄叫びをあげて一斉い走り出す。それから日が沈むまで敵を殺しては仲間を殺されを繰り返し日が沈んだあとは、視界が悪く、戦どころではなくなるのでお互い一度引く。夜も奇襲がないよう交代で見張りをつけ、質素な陣をつくりそこで眠る。いつ死ぬかわからない状況で呑気に眠れるほど神経は図太くなく、疲労がとれないまま朝を迎える。そしてまた昨日と変わらない一日をおくる。
戦は体力だけではなく精神力も削られていく。あるものは食事を取れなくなり、またあるものは精神病にかかる。日々減っていく仲間たち。時間が立てば立つほど冷静さをかいてかいく為、余計に犠牲が増える。今までとは比べ物にならない激戦に心がおれそうになった。そんななか、俺が正気でいられたのはライラとの文のやり取りがあったからかもしれない。

ピーョーロロ

上空で鷹がなく声がした。俺は空を見上げると満点の星空のなか鷹がこちらに飛んできた。腕を伸ばせば鷹がそこにとまる。首に赤いスカーフを巻いた鷹はライラが飛ばせたものだ。背中についた紙をとりそのまま鷹とともに部屋にはいった。

“お疲れ様です。相変わらず此方はとくに変わったところはないです。安心して下さい。そろそろ雪の季節も終わる頃です。春が訪れるのもあとわずかでしょう。”

ざっと冒頭の部分だけ読み俺はほっと肩を下ろした。どうやら向こうには何もないようだ。今俺たちのいる陣をぬけさらにライラたちのいる借家をぬければうちはの本陣だ。そのため、本陣に向かうにはまずここを突破しなくてはいけないのだが回り込んでいる可能性もないとは言い切れない。そのためにもライラを置いてきたのだ。一先ず無事がわかり俺はそばにいるイズナとヒカクに教える。

「そうですか、ご無事でなによりです。」

「くくっ、兄さんまた頬が緩んでるよ?」

「なっ、そんなこと」

「あはははっ。兄さんったら顔赤いよ?大丈夫、熱?」

にやにやと笑うイズナに多少の怒りを覚えたが、ここで怒ってはますますイズナの思う壺だ。それに自分でもわかるほどライラから文がくると思わず口元が緩んでしまう。俺は咳払いをして筆をとった。

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