神代桜の奇跡

□弐陸
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気にくわない。



何もかもが。



俺は思わず歯ぎしりをした。あんな態度をとってしまったからには暫くはお互い気まずくなるだろう。無論そんな態度をとってしまった自分も気にくわない。しかしそれ以上にライラのあの瞳が許せなかった。俺がどんなに好きだと告げても、どんなに抱き締めても。どれだけ尽くしてもライラの俺を見る瞳は変わらなかった。それほどまでライラにとってあの男の存在はでかいのかと思うと、腹のそこからふつふつと殺意とも似た感情が沸き上がってくる。この行き場のない感情をライラにぶつけてしまった自分が許せない。明日がどんなに大切な日なのかは十分わかっている。だからこそとも言うのだろうか。千手の集落まで行くことはつまり、戦も終盤に差し掛かっているということだった。おそらく向こうもうちはの集落に攻めに来るだろう。きっとあと一年もしないうちに決着はつく。勝敗は最早双方からみてもわかりきっている。だからこそ……。
ライラを前線には置きたくないのだ。体調を整えろとは言ったが、明日前線に出すつもりは 初めからなかった。普段なら文句の1つや2つは言われるだろうが先程のこともありきっとそれもないだろう。


そうこれでいい。


俺はそのまま家をでた。




―――――――――――――――――――



その日の夜、マダラは帰って来なかった。いつもなら遅くなる時は必ず連絡の一つはあるはず。戦まえなら尚更だ。なにかあったかと言えば朝のことだろう。私が好きだと告げた途端マダラは私を突き放した。
何故だか昔からマダラは私が好きだというとどこか複雑な表情になる。普通の人ならば好きだと言われて気分を害する者は少ない。しかしマダラの場合はとても辛そうな顔をする。今回もそうだった。私が好きだと言えばみるみる深くなる額の皺。突き放された体。マダラが部屋を出ていってしまったあと私は再び窓を開けて外を見た。どうやら雪が振りだしたようで空からチラチラと雪が舞っていた。マダラが家を出ていくのが見える。雪のなかマダラはどこに行くのだろう。私はそののまま何をするわけでもなく、ただぼおっとしていた。

暫くしてイズナが食事を持って入ってきた。

「兄さんが運べっていったから持ってきたよ。具合でも悪い?」

マダラという単語にぴくっと体が反応したが、まさかマダラの命で食事を運んで来るだなんて。

「あーあー、こんな雪のなか窓なんて開けてるから風邪を引くんだよ。駄目でしょ。明日は戦なんだから」

イズナは私の隣から手を伸ばし窓をしめた。

「あっ、あと明日からの戦はライラはここに待機だよ」

『えっ?』

思わず目を見開いた。待機?でもマダラは私に体調を整えろと、いったはず。

『でもマダラが』

「これも兄さんからの命令だよ。それに待機といっても戦わないだなんて言っていない。聞いただろ?今回は集落まで攻め混むんだ。今まではわざと集落から遠ざけたところで戦っていた。それが集落に攻め混むとなると……どういうことかわかるよね?」


『だからって実際は待機なんてっ』

「待機も重要な任務だよ。待機組は基本手負いのメンバーだ。その中に一人五体満足の忍を置くことは別に変わったことではない。いざというときの為だよ。それに何かあったらすぐに連絡する。」

『マダラは……イズナは死ぬつもりなの?』

「……。これはいわば最終決戦だ。そこにあるのは“生きる”か“死ぬ”かのどちらかだ。俺は兄さんは“生きる”方だと信じている。」

イズナの目は決意にみち溢れていた。どんな結末を迎えようと信念は揺るがない、とても強い決意だ。私にはとても真似できない、強い意思。

そんなイズナだからこそ、つい聞きたくなってしまった。自分とマダラのことについて。私は、これからどうしたらよいのかについて。




『私はマダラが好き……。マダラは私のこと、』


イズナは私の目をい抜くように見たあとため息をついた。


「何を今更。兄さんは最初からライラ一筋だよ。俺から見ればライラの方が疑わしい気がするけど…」

『マダラもイズナもどうして?私は本気で』

「だとしたら無意識なんだろう。ライラの目は兄さんを見ているようで見てないんだ。口では好きだといっているけど心のなかでは誰か違う人に言っている。」

『違うわ!そんなことっ、』

「自分の胸に手を当ててゆっくり思い返せばいい。そうすれば何かしら答えが見つかるんじゃないかな?俺も理由まではわからないけどライラの目が兄さんに向いていないのだけは分かった。兄さんはそれが嫌だったんじゃない?」

『マダラを見ていない……』

「攻めるように言ってごめんね?ただ、ライラと兄さんにはもっと幸せな道があるはずだよ。それは二人で掴むしかないんだ。そのためにも二人とも長生きしなくちゃね」

イズナはあやすように私の頭を撫でにこりと微笑んだ。普段ならこんなことされないが、今日は私が今にも死にそうな目ですがったからだろうか?イズナは優しい手つきで頭を撫でてくれた。

『ありがとう、イズナ。』

「どうしたしまして。戦の間もちょこちょこ文を出すように兄さんに言っとくよ。ほら、手紙ならちゃんと考えて言葉を選べるからね。」

『ふふっ、それもそうね。私からも邪魔にならない程度にだすわ。』

「楽しみにしているよ 」

そういってイズナは部屋を出ていった。明日から暫くマダラに会えなくなるが、今はそれでいいのかもしれない。時間をかけてゆっくりと解決していくしか、道はないだろう。私ははぁと息を吐いて目の前の食事を口にした。

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