神代桜の奇跡

□弐惨
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ライラと二人で部屋に戻るとイズナとヒカクがいた。とりあえず四人で座ってみるが沈黙が続く。俺はそんな空気に耐えかねて一通りのことを二人に話し、ライラに託してみるも特にないとあっさり終わってしまった。そのあとにイズナが元の時代に帰りたいのかと聞くとライラは暫く黙ってしまったが首を横にふった。俺はてっきり元の時代に帰りたいのかと思っていたので案外そうでもないとわかるとそっと胸を撫で下ろした。ヒカクも戦について聞いていたがそれはここにいる誰もがわかっていることだった。聞き手のヒカクだってわかっている。しかし、それを敢えて聞くのはきっとライラを思ってなのだろう。ライラを戦に出させようと最初に提案したのはヒカクだというのにかってな奴だ。それから朝食をとり取り敢えずここ最近ためていた事務仕事を終えることにした。頭領ともなればやらなくてはいけないことが沢山でてくる。忍び一人一人の実力の把握もしなくてはならないがそれだけ多くはさすがに覚えきれないので色々と書類にまとめるのだ。忍びは成長も退化もするので常に目を通さなくてはならない。まぁ、他にも色々とあるのだ。とりあえず忙しい。ライラには悪いが同じ部屋にいろと言いつけた。理由は簡単でライラを一人にさせないためだ。勝手だがこれはイズナとヒカクと決めたことで、佐久夜の能力がある以上暫くの間はライラを一人で外に出さないようにしようと決めたのだ。そんなわけで、ライラとは同じ部屋にいるのだが俺はやることがあるのでとても忙しいがやることのないライラはとても退屈そうだ。さっきっから部屋に飾られている花の水を取り替えてみたり、部屋の隅を箒で掃いてみたり。ともかく、暇をもて余していた。

『退屈だわ』

ついにライラが愚痴を溢した。いつかは言うだろうと思っていたが案外頑張ってくれたと思った。俺はそうだなと一言返し再び書類へ。するとライラはいそいそと隣に座り俺の手元を除きこんだ。そしてその目線は徐々に上に上がり俺の顔にたどり着いた。キラキラとエメラルドのような深い緑色の綺麗な瞳が俺を見つめる。そんな目で見られたら……俺ははぁ、とため息をついた。

「庭ならいいぞ」

するとライラはクスリと笑いありがとうと言って部屋をでていった。相変わらず俺はライラの笑顔に弱いらしい。それが計算なのかどうか分からないが例え計算だと知っても、あの笑顔には堪える。大きな瞳をほそめ、白く綺麗な歯を見せ笑う顔はとても美しくまた艶かしい。今のような些細なことでも心臓がはね上がってしまう。気をとり直して書類に没頭しようと、1枚書類を手にした。暫くすると偵察に行かせてたうちはの忍びが俺の元に訪れた。

「マダラ様」

「あぁ、お前か。どうだった?」

「先ほど大名様から依頼がございました。明日にでも千手に奇襲をかけるべきです」

「そうか、ならば明日の朝に行く。そう皆に伝えてくれ」

「かしこまりました」

その忍びが去って俺は頭に手をあてた。この間の戦からまだ三日もたっていないていうのに。前に比べて明らかに戦の頻度が上がっている。この調子では大名など関係のない戦になるだろう。そうなればあとは時間の問題で、千手かうちはどちらかの一族が滅ぶまで戦が続くだろう。そうなったらライラはどうするのか。平和を願うライラはこの事をどうとらえるのだろう。俺は再び書類に目を通した。一度集中すれば時間はあっという間に過ぎるもので気づけば昼も大分過ぎた頃だった。そういえば庭に行ったっきりのライラが帰って来ないななんて思い俺は気晴らしもかねて庭にでた。すると今朝と同様、いやそれ以上に荒れはてた庭の光景があった。高温で溶けるらしいがいくらなんでもこれは……

「やりすぎだ」

俺の声に気付いたライラはくるりと振り返り苦笑いをした。

『ごめんなさい。つい』

なにがついなのか、全くこれだけの量の水晶を作って大丈夫なのだろうか。それに、明日は戦だ。怪我なんてしたら大変である。

「全く、明日は戦になる。修行もほどほどにな」

『あら、そうなの。ならよかったわ』

「なにがよかったんだ?」

『やっと佐久夜に使いなれてきたの。だから明日の戦は心配ないわ』

「それは心強いな」

『あっ、ところでマダラ。神代桜のところに行きたいんだけど……。』

「それなら戦が終わったら行くか。」

『えぇ。花は散ってしまうかしら…』

「もしかしたら、すべて葉になっているかもな」

『そう。だったら、またいつか見に行きましょう。』

「花がなくては駄目なのか?」

『えぇ。久しぶりにあの花を見たいの。』

「そうか。ならいつか。」

『二人で見に行きましょう。』


約束よ。そう言ったライラはにこりと微笑んだ。そして、ライラの右手の小指と俺の左手の小指を結んだ。いわゆる指切り元万だ。どうか、二人で桜の花が見れますように。
そんな幸せな時とは真逆で次の日もまた、明くる日も俺たちは戦に明け暮れた。

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