神代桜の奇跡

□弐壱
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二度寝をしてしまってからどれぐらいたったのか。隣を見るとライラの姿はなくすでに起きているようだ。俺は未だ眠っている頭を覚ますため外の井戸へ顔を洗いに行った。昼間は大分暖かくなって来ているが流石に朝は冷える。冷えきった水で顔を洗い、布で軽く拭き取ると庭の向こうで物音がした。こんな時間に誰かいるのか。すっかり冷えた手を擦って暖めながらその音の方へいくと桜の木の前にライラがたっているのが見えた。

『晶遁の術』

ライラの言葉と同時に手のひらに水晶の塊ができた。それからは一瞬の出来事で、次々と同じように水晶が出来ていききづくと辺り一面水晶で覆われた。その真ん中にたっているライラはとても美しく水晶の色の輝きが桜を連想させ、正にライラらしい術だ。暫くその幻想的な光景に見ぼれていた。

「ライラ、大丈夫か」

俺が声をかけるとライラが此方に振り返った。

『これは晶遁という術なの』

晶遁の術。やはりこれは佐久夜の能力だった。

「ほぉ、これがお前の能力か」

俺は感心したようにそう言うと、砕いたら再起不能だの、物騒なことをいいだした。しかし、それはそれでいい能力だと思った。どうやって術をとくのか聞いてみると、どうやら高温で溶けるらしい。ならば火遁も有効なのか。俺は印を結び口から火をだした。すると思ったとおり水晶は解け、キラキラと結晶がまった。ライラは片手をだし舞った結晶を手のひらにのせていた。

『綺麗』

空に舞う結晶の中にたたずむライラの姿はとても美しく、艶かしい。これが人を殺める力があるだなんて誰が思うか。しかもうちはでも貴重な佐久夜の能力だなんて。うちはは血に塗られた一族だの好き勝手いわれてるが、こんなにも美しい術も持っているのだ。正にうちはを誇れるいい能力だ。素晴らしい。話をしているとひゅっと風が吹いた。寝間着のままきてしまったため正直寒い。

『部屋に戻る?』

「あぁ、」

『一緒に戻りましょう』

ライラは俺の隣に並んだ。俺はその手をとり、ぎゅっと手をつないだ。顔を見ると何処か違和感があるように思えた。ライラは俺を見ているようで見ていない。俺を通り越して誰かを見ているようだ。あの男だろうか。いや、そうに違いない。そうだとすれば俺はなんて哀れな男なんだろう。哀れだの愚かだの、そう類いの言葉が好きでない俺にとってそれはとても辛いことだった。するとライラは頭を降ってぎゅっと手を握ってきた。あの男のことを思い出そうとしたがダメだったのだろう。ライラが俺を見てくれるにはあとどのくらいかかるのか。そもそも俺のことを見てくれる日が来るのだろうか。繋がれた手はとても温かくライラがこの時代の人ではないなんて信じられない。確かに今ライラはここにいる。それだけで今は十分だ。俺はライラと同じように考えるのをやめた。

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