神代桜の奇跡
□拾玖
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「兄さん、ライラ、お帰りなさい」
家に帰るとイズナが出迎えてくれた。何時もならもうとっくに寝ている時間なのでてっきり寝てしまっていると思った。
「あぁ、ただいま。」
『ただいま戻りました。』
「随分と遅かったけど…大丈夫?」
「あぁ、その話なんだが……。ヒカクは?」
「ヒカクなら今さっき任務から帰ってきて風呂にはいっているよ」
「そうか……。ならヒカクも居るときに……朝話そう。」
「…そうだね。」
取り敢えず今日は色々あって俺もライラも疲れている。早いところ寝て明日の朝二人に話そうと思った。
「あっ、マダラ様。それにライラ様も。すみません、お先に失礼してしまいました。」
ちょうど靴を脱ぎ玄関から上がった時に、向こうからヒカクがやって来た。
「いや。それより任務ご苦労。」
「いえいえ。食事はいかがいたします?」
あぁ、そういえば朝飯を食べてから今の今までろくな物を食べていない。そのわりには腹は全く空いておらず、正直明日の朝で十分だ。ライラにどうするかと聞いたら、どうやら俺と同じらしく首を横にふった。ヒカクは大分疲れているらしく俺が食事は朝でいいと言うと一礼してから自室に戻った。イズナもそういうことならといい部屋に戻って行った。
「先に風呂に入ってしまえ」
『私は後でも……』
「男の好意は黙って受けとれ」
そう言えばライラは大人しく風呂に向かって行った。俺は部屋に戻り窓を開けた。そのまま物思いに夜空をみた。こうでもしないと頭の中がパンクしてしまいそうだ。はぁ、とため息が溢れる。いつまでもこのようにライラと暮らしていれるのだろうか。考えれば考えるほどマイナスに考えてしまう。俺はそれを振り払うかのごとく只無心に夜空をみることにした。
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『はぁ、』
湯に浸かりながらため息を1つ。今日は色々あって大分疲れた。記憶が戻ったとはいえ予想に反しあまり生活に変化は無さそうだ。ただ、自分が何十年という時を越えたということには正直今でも信じられないが…。
だがあの人は確かにチカゲだ。私の記憶ではまだ十にも満たない幼子であったが面影は残っていた。確か、あの戦の時も見送りに来てくれていた気がする。はて、その戦の後に私は願い事をしたのだろうか。その日の記憶はなんとも曖昧でまた、思い出そうとすれば頭がズキリと痛む。もうやめにしようと頭をふった。
ふと脳裏にマダラが浮かんだ。彼がいなかったら今頃私はどうなっていたのやら…。未だにいく宛もなくさ迷っていたかもしれない。最悪の場合死んでいたって可笑しくはない。私にとってマダラは命の恩人といっても過言ではない。それ以前からマダラには特別な意識があった。それは初めて合った日からなのかもしれないし違うかもしれない。それが果たして恋愛感情なのかと問われればイエスとも言い難く、ノーとも言えない。詳しいことは自分でもわからないが確かにマダラのことを特別視している自分がいた。
『…はぁ……。』
私はもう一度ため息をつき、湯から上がった。服を着替え脱衣場に置いておいた指輪をはめ部屋に向かう。一体今は何時頃なのだろうか。辺りは物音1つ、虫の音さえも聞こえなかった。部屋に戻るとマダラが窓をあけ外を見ていた。布団も引いておいてくれたようで二枚分並べてあった。
『マダラ、お風呂あいたわ』
私がそう声を掛ければこちらを向いた。その瞳には疲れの色がみえた。
「あぁ。」
マダラは何時もより少し低めの声でそう言うとお風呂へと向かって行った。
私は開けられた窓から吹き抜ける風邪が心地よく、すぐに睡魔が襲ってきた。
一度布団に体を預けたらもう最後だ。私の意識はすぅと夢の中へ行ってしまった。