神代桜の奇跡

□拾壱
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“相変わらず綺麗な髪だ”
顔が見えぬ男が髪をすくいあげた
“ふふ、いい加減その癖はなおらないの?”
私は男の頬に手をそえながらそういった

“治らないし治す気もないがな。お前こそ頬を触る癖は治らないのか?”


“私も治らないし治す気もないわ”

ぷつり、そこで目の前は先ほどと同じ部屋がうつった








イズナとヒカクさんより先にお風呂に入った私は早々に風呂から上がりマダラの部屋にいた。私が上がったときに扉の開く音がしたのでマダラが帰ってきたのだろう。


春の夜はまだ肌寒く髪が完全に乾いていないためさらに寒くかんじる
窓を開けているのなら尚更だった


私は女中さんが用意したであろうタオルで髪をふくのも早々にタオルを部屋の端にほしまた外を眺めた

外には鑑賞用なのか桜が植えられておりそれらがとても美しく咲き誇っていた
美しいと思った
しかしそれと同時になにか物足りない気もした。折角誰かがこの木を植えたのに、とても失礼であるけど何かがたりないのだ
すると風に舞い花びらが1枚こちらに飛んできた
私は手を出してそれを掴み自分のほうに引き寄せるとそれをまじまじと見つめた
傷ひとつない綺麗な花びらだった
しかし此も違う、違うのだ

握った掌からは銀色の指輪が少し覗いた
先程お風呂に入ったとき自分の着物の裾から出てきたものだ。今の今まで気づかなかったがこれを見た瞬間とても懐かしいと思った。そしてこれをはめたら先程の映像が流れたのだ
きっとこれは私が前につけていたのだろう
そしてあの映像はきっと私の記憶、
過去の物をみて少し記憶が戻ったのだろうか
その指輪は銀の輪にシンプルな白濁した石がはめられていた。その石は例えるならまるで桜の色のようだった
しかしこの掌の花びらとは違うもっと深みのある色だ。そんなことを考えているといきなり襖があいた音がしたのではっと振り返るとマダラが髪を拭きながら立っていた


『あっ…お帰りなさい』

いきなりだったためとっさに何か言わなくてはと、まだ言っていなかったことを口にした

マダラは短く返事をすると襖を閉めて中に入った

ちらりと部屋の端にほしてあるタオルに目をやるとこちらへ歩いてきた
そして私の前で立ち止まると私と目線を合わせるようにしゃがみこんだ
私はその漆黒の瞳から目を放せなかった。向こうは私の目を見てはおらずけして目があっている訳ではないのに、まるで捉えられたかのように目が放せなかった

マダラはすっと手を伸ばし私の髪を少しすくって自分の顔に寄せた






「綺麗な髪だな」










なんで、そういう前に私の手は彼の頬へと無意識に動いていた

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