短編
□カフェオレ
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「――甘っ、」
先輩は、一瞬顔をしかめてから、それでも再びストローを口に運んだ。
「甘い」。そんな言葉はまるで似合わない濃い茶色のパッケージ。
先輩が飲んでいるのは、いつもと同じ、カフェオレだ。
「……毎回、甘いって言いながらそれ選んでますよね。」
「……るさい、」
3階の空き教室。先輩から3人分くらいのスペースを取って、私は壁に寄りかかっている。
暖房は入っていないはずなのに、暖かさに私の目はまどろむ。
冬の太陽って、こんなに暖かいものだったっけ?
「またサボりですか。」
「休憩だ。」
「サボりなんですね。」
「……お前もだろ。」
「そうですよ。」
悪びれもせずに答えると、先輩は「あきれた、」と言う代わりに小さく苦笑いをした。
「本郷先輩、」
「なあに。」
目をこすりながらこちらを見る先輩。声もいつもより柔らかい。
あぁ、先輩も眠いのか、なんて心の隅で思う。
「……なんでもないです。」
「そうか。」
「はい。」
さして興味もなさそうに、先輩は目線を窓に移した。
冷たい風が吹く。2人の髪が揺れる。
前髪が邪魔そうだ。ただでさえ重く見える、漆黒の先輩の髪。
距離を縮めて手を伸ばすと、先輩は一瞬おどろいて目を閉じる。
そして、ふわりと笑った。