短編

□花火
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 地元の夏祭り。
受験勉強もしなきゃいけないのに、他県や遠い街の高校に行ったヤツまで集まって
ぎゃあぎゃあと騒いだ帰り道。


 海辺の方に、小さな灯の光が見えた。
吸い寄せられるように近づいていくと、そこには見慣れた、でも久しぶりに見た顔。


「本郷じゃん。」

「……なんだ、麻原先輩か。」

「なんだって何だよ!ったく、相変わらず生意気だねぇ。」

「褒め言葉として受け取っておきます。」

「……どこが褒め言葉だ、これの。」


 はは、と小さく笑いながら、手持ち花火に火をつける本郷。
光の正体はこれだったのかと、1人で納得していると「先輩もやりますか、花火。」と
手持ち部分が変なキャラクターになっているヤツを渡してきた。


「私はガキか。」

「頭の中は。」

「ひどっ!これでも一応、あんたの先輩なんですけど?」

「こんなときだけ先輩ぶらないでくれます?」


確かに本郷は大人びているし、落ち着いているし、身長もすごく高いから
何も知らない人から見れば、私の方が後輩に見えるんだろう。

 しぶしぶキャラ花火から出る火を眺めながら
そういえば、こんな風にコイツの毒舌を聞くのは久々だなぁと思った。

バスケ部の大型ルーキーだったコイツ。入った途端即レギュラーで、将来の部長候補。
でも、彼は1年の途中で突然部活をやめ、学校内でも一切見かけなかった。


「そういやあんた、最近どうしてるの?」

「は?」

「いや、全然会わなかったじゃん。学校で。すれ違うこともなかったし。」

「先輩こそ、どうしてんすか。受験とかあるのに、ここでこんなことしてていいんですか。」

「それ今言うかなぁ……。」


なんとなく聞いてみると、バツが悪そうに話を変える。
どうやら触れてほしくないことらしい。
それ以上何も言わないでおくと、線香花火のパチパチという音と共に小さな声が聞こえた。
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