短編
□Candy
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久しぶりに、お互いの都合がついた休日。
2人だけの部屋、テレビを見てる結弦の隣に座ったら、ふんわりと柑橘系の匂いが鼻をかすめた。
「結弦、また、アメなめてるの?」
「……いいじゃん別に。おいしいんだから。」
あきれたように私が聞いたら、子どもみたいにいじけた彼は、言い訳っぽく返事をした。
いつもと変わらない、こんな会話のひとつひとつが
私にとっては、すごく、幸せだ。
ふと開いた携帯。
ランプが照らすのは、もうずっと会っていない人の名前。
もうきっと、会うことのできない、だからと言って消すこともできない名前。
ねぇ、結弦。
あなたは今、私の隣にいるはずなのに
私は彼女のことを思い出してしまうんだ。
妹の彼氏だった結弦。
そんなあなたに恋をしてしまった私。
知らない間に狂ってしまった歯車は、簡単に元には戻らなくて
私と結弦は付き合いだした。
妹ととは、もちろん別れた後だった。
でも、私は知っていた。妹がまだ、彼を愛していたことを。
直接聞いたわけじゃない。でも、時々部屋から聞こえてきた泣き声で、なんとなくわかっていた。
「―ごめん。」
「っ、最低!」
怒りを買うのは当然だった。
謝ることが正しいのかもわからず、でも「すきだったから」なんて簡単な言葉じゃ
片づけることのできない問題であることには気づいていた。
私と妹の間の会話は消え、家族の仲は冷え込んで
私はそこから逃げるみたいに、1人暮らしの結弦の家に転がり込んで、そのまま同棲をはじめた。
これが正しかったのかは、正直、今でも全くわからない。