短編

□届かない背中
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 「今度からちゃんと出せよ」と言いながら、急ぎ足で結弦は教室を出ていった。
その後ろ姿をボーっと見つめていたら、小さく舌打ちが聞こえた。

背中がビクリとする。
結弦が出ていった方と反対の出入り口に目をやると、そこには数人の女の子がいた。


「こんにちは。麻原さん?」


 おそらくリーダー格の、1番前にいる子が私に向かって嫌味っぽく言う。
名前は忘れたけれど、確か隣のクラスの、結弦に盲目的愛を捧げているファンだった気がする。


「……どうも。」

「さっそくだけど、ちょっといいかしら。」



 クスクスと笑っている目の前の子たち。
ばれてないとでも思ってるのかな。
こんなこと、もう何回あったかわからないくらい経験してるんだから本能的に気付くよ?

 
「……わかった。」


 でも、私は行く。
どうせ助けてくれる人なんていないんだし
「釣り合わない」ってはっきり言われた方が、あきらめつくかもしれないから。







「……―っ!」


 連れていかれた先は屋上。
放課後の西日が肌を刺して、じりじりと痛い。
雨のかわりに降ってくるのは、蹴りと暴言だった。


「あんた、結弦様にまとわりついて、なんなの?」

「マジ邪魔なんですけど〜。」

「て言うかさぁ、あんたみたいなブスが学校の王子様と同じ空気吸う権利あるわけ?」

「消えてくれたらいいのに。つか、死んで?」



 わかってるよ。

アイツの隣に私がいちゃいけないことも。
一緒にいる権利が無いってことも。
……同じ空気を吸うことも、同じ世界にいることも許されない。

 全部、わかってるよ。



 クスクスと笑いながら、一部始終を見ていたリーダーは
とどめをさすように私の手の甲を踏み潰して言う。


「痛い?そりゃ痛いよね。でもわかってるでしょ?これがあんたのやってきたことの代償。」


「……知ってるよ。」
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