短編

□届かない背中
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 どうして私は、あんなヤツのことを好きになってしまったのだろう。


頭脳明晰 眉目秀麗  文武両道 才色兼備

 成績は常にトップ。運動神経も抜群。
クールな雰囲気は女子人気1の、頼れる学級委員長。
次期生徒会長候補と名高いアイツの名前は、本郷結弦。

 どんなに完璧な四字熟語を背後に並べても、全く違和感のない結弦と
勉強も何もかも全部フツーとしか言うことのできない、何のとりえもない私が、結ばれるわけがない。

 そんなことは、私自身が1番よくわかっている。

 なのに、なんで好きなんだろう……。



「みき、今日提出のプリント、まだ出てないんだけど。」

「へ?……あ、ごめん。今出すね。」



 
 家がご近所で、母親同士が仲の良かった私とアイツは、必然的にいつも一緒にいた。
恐ろしいほどの腐れ縁でクラスは小学校からずっと同じ。
高校までも、お互い話したわけでもないのに同じになった。

 つまり、人の言う「幼馴染」というやつで。


 だから、結弦が女子と距離を置くようになった今でも、私のことだけは
「みき」って名前で呼んでくれる。

 中学2年の頃からなんとなく気になりはじめて、片思い歴早3年。
最初はそれが「特別」みたいな気がして嬉しかったけど

今はそれが苦しくて仕方ない。

 名前で呼ばれるせいで、結弦のファン達から敵視されるし、女の子の友達が一気に少なくなった。
教室ではほとんど独りぼっちで、影みたいな存在。
話しかけてくるのは所詮、アイツに近づきたくて私を利用しようとするヤツだけ。

 そして何より、アイツから「みき」と呼ばれることが
私のことを結弦が女として見ていない、「ただの幼馴染」としてしか見てくれない証拠だから。


「……はい。このプリントだよね。すみませんでした。」

「はぁ……。」


 私がプリントを渡すと、結弦は大きくため息をついた。


ドキン

ズキン


また「どうしようもないヤツ」と思われたかな?
 ちょっとの会話だけで、顔は嫌になるくらい火照ってくるのに
それ以上の苦しみや孤独、不安が襲ってくる。


 本当に、なんでこんなに苦しいのに、
なんでこんなに結弦が愛しいんだろう。

なんだか自分がバカらしいよ。


 
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