ハリー・ポッター(夢)
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クリスマスパーティーが開かれる今日、椿が泊まりにくる。
屋敷しもべ妖精たちは準備に追われているのだろう。
「そろそろ時間だ」
パーティーが行われる大広間の横、応接間として使っているこの部屋に蘭樹の手紙と一緒に入っていた紙を床に広げる。
「いつ見ても不思議ね」
暖炉飛行以外でこれるなんてとナルシッサが言えば、ルシウスとドラコも頷いた。
時計が時間を知らせる。
それと同時に紙に文字が浮かび上がり、次の瞬間には光って紙の上に椿が立っていた。
真っ赤な着物に黒い帯。
いつものポニーテールは緩いウェーブがかかっていて、髪には飾りとして赤い花を一輪さしていた。
うっすら化粧もしているのか、赤い唇に目が行ってしまう。
「こんばんは、ルシウスさん、ナルシッサさん、ドラコ」
パーティーに呼んでいただいてありがとうございますと頭を下げてニコリと笑った。
「ようこそ、君が来るのを心待ちにしていたよ」
ルシウスが笑顔で迎え入れ、ナルシッサは興奮気味に椿を抱き寄せる。
「その着物とっても綺麗ね。ツバキにぴったりだわ!」
なんて可愛らしいのかしらとはしゃいでいる。
「こんなに大きなパーティーは初めてなので、お母さんが用意してくれたんです」
「この花は本物?」
「はい、私と同じ名前の花です。木元家は草花の名前を子供に付ける習慣があるので」
花にそろえて着物も赤になったんですと笑って返せば、ナルシッサの興奮はさらに高まる。
「一日しかいられないなんて残念だわ、楽しんで行ってね?」
「はい」
大広間への扉を開けて、ドラコが椿をエスコートした。
毎年恒例のクリスマスパーティーなのに、今年はいつもと違った。
「まぁ、可愛らしいお嬢さん」
「どこのご令嬢だ?」
社交界デビューとなる椿は注目の的だった。
ルシウスやナルシッサに椿の事を聞けば、あの戦争で英雄となったランジュ・キモトの長女だと説明する。
人形の様とナルシッサが言うほどだ。
それも見慣れない着物はよく目立つ。そこにいるだけでも視線を集めているのに、木元の名にさらに注目は集まった。
「ドラコ、もうすぐ曲が始まるわ」
ナルシッサがドラコに耳打ちをして、ドラコからグラスを奪う。
その目は期待に満ちていて、半分諦めのような気持ちで歩き出した。
「ツバキ」
声をかければ自分を振り返り、無表情ながらに驚いているのが分かった。
「・・・僕が呼んだんだから、いて当たり前だろ」
「そうじゃないわ。でも、ちょっと驚いただけ」
言って、椿も持っていたグラスを近くのテーブルへ置いた。
「もうすぐ曲が始まる」
「そうなの」
教えてくれてありがとうとでもいう様にドラコを見る。
周囲ではもうペアができていて、中央へ向っていた。
仕方ないとため息を吐いて、頭を下げながら手を出す。
「一曲踊っていただけますか?」
本来ならレディという所なのだろうが、ドラコはそれを口にはしなかった。
周りがざわつき出したことに首を傾げて顔を上げると、
「よろしくね、ドラコ・マルフォイ」
椿は人形みたいな無表情を満面の笑みに変えて、手を握り返した。
「知らないかもしれないけど、私踊れないの」
「・・・そうなのか?」
「明日、足が腫れていない事を祈ってるわ」
向い合って、まじかにある顔をニコリと変える。
他の誰でもない自分に、その笑顔を向けてくる。
今、ドラコと椿は中庭へ来ていた。
「まさか十回以上踏まれるなんて」
「あなたが回数を数えていた事に驚きだわ」
中庭を進みながら、さっき踊った愚痴を言う。
「素敵な庭ね。連れてきてくれてありがとう」
「これ以上被害者を出さないためだ」
「懸命な判断だわ」
「君がそれを言うのか?」
ドラコが顔をしかめれば、珍しく声を出して笑い出す。
「ドラコ、とても素敵な庭ね」
「・・・さっきも聞いた」
「そうね。じゃぁ言葉を変えるわ」
ニコリと笑って、雪の積もった庭を進んで行く椿。
「あなたがこの家に生まれてよかったと思う場所に連れて来てくれてありがとう」
暗い夜。月明かりの下で黒と白の中にいる椿は赤で、一輪の花みたいだと思った。
「・・・そんなんじゃない」
そんなつもりでここに来た訳じゃない。
ただ、あのまま広間にいたら椿は別の誰かに誘われて、その誰かの足を踏んで騒ぎになると思ったから。
「でも私はそう受け取ったわ」
「勝手なことを」
自分の手を握り返した時のように、別の誰かに笑いかけたのだろうかと椿を見つめる。
あの無表情を変えて、誰かを見たかもしれない。
「・・・寒くないのか?」
「寒いわよ。でもここはとても素敵だから、もう少し見ていたいわ」
さっきすごく近くに居たせいか、こんな真冬なのに花の香りがする。
「客人に風邪をひかせるわけにはいかない」
「・・・それもそうね」
それじゃぁあなたが怒られてしまうわねと、自分の元へ戻ってくる椿。
「なんだか、少し大人になれた気がするわ」
「パートナーの足を踏まずに踊れるようになってから言うんだな」
「いつになるかしら」
それが大人になるって事なら、私はきっとずっと子供ね。
黒い髪に黒い目、自分よりも黄色なのに白い肌。
赤くて甘い香りがする一輪の花。
椿が帰るまでの時間、ナルシッサは椿に夢中だった。
「父上、母上はどうなされたのですか?」
さっきから着せ替え人形のようになっている椿を見て聞いてみた。
「前に女の子が欲しいと言っていたからな。好きにさせてあげなさい」
ルシウスは紅茶を飲みながらそんな二人を笑って眺めていた。