ハリー・ポッター(夢)
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ダンブルドアの孫であるトムは不可解な存在だった。
ホグワーツの歴史上もっとも偉大な魔法使いと謳われるアルバス・ダンブルドアの孫でありながらスリザリン寮に選ばれ、更にはパーセルタングまで操る。
まさにサラザール・スリザリンを彷彿とさせるのだ。
加えてその容姿。誰もがトムを振り返り、気を引こうとやっきになった。しかし、
「『生ける屍の水薬』を作るのに必要なものを答えられる者は?」
ピンッと手を上げるのはスリザリンのトムとグリフィンドールのローズ。
「トム・ダンブルドア」
「アスフォデルの球根の粉末、ニガヨモギを煎じたもの、カノコソウの根を刻んだもの、睡眠豆の汁などです!」
「よろしい、スリザリンに五点。山羊の胃から取り出すことの出来る物を分かる者は?」
またトムとローズが手を上げる。
他の者はみんなそれを見て呆然としていた。マーガレット以外は。
「ローズ・スネイプ」
「ベゾアール石です。効用は大抵の薬に対する解毒剤になります」
「グリフィンドールに五点。今のをメモしなかった諸君も理解していると判断してよろしいかな?」
黒板に何かを書きながら言うセブルスの言葉にみんなが一斉にノートを開き出す。
その間、バチバチと火花を散らしているローズとトムを、マーガレットが苦笑しながら眺めていた。
その光景は、スリザリンとグリフィンドールの合同授業全てで見ることができた。
合同の授業でなくても、それぞれの授業で互いに点を取り合い一歩も引けを取らない。
「あの二人って仲が悪かったの?」
夏休みで見た時はそう感じなかったけどとハーマイオニーがマーガレットに聞けば、
「いいえ、とっても仲がいいわ。ただお互いに負けたくないだけ」
ハッフルパフにいる椿の元で勉強を教わりながらにらみ合っている二人を見る。
トムは生前の記憶もあるしもとより頭がよかったのだが、それでも食いついて来るローズには絶対に負けたくないと思っているらしい。
「ローズは将来のために膨大な知識が欲しいんですって」
「トムは?」
「前に蘭樹おじさんがローズを褒めたのを見て、ライバル意識を燃やしてるの」
「・・・ああ」
トムの蘭樹好きを思い出してみんなが納得した。
大広間では、セブルスがスリザリン以外に加点したと大騒ぎになっていたが、職員席では素知らぬ顔で食事を摂っている。
その隣では梅並とクィレルが笑っているが、みんなはやっぱり娘が可愛いんだとひしめき合っていた。
「マーガレット!」
響いたのはウッドの声。
みんなの視線もそちらに集中した。
「今日の放課後は空いてるかい?」
「ええ、でも一度部室へ行きたいから少し遅れても大丈夫?」
「もちろんだ!!」
嬉しそうに叫ぶウッドに、シーンとする大広間。
梅並はテーブルに突っ伏して震えているし、クィレルも似たようなものだった。
ルーピンがチラリとセブルスを見れば、組んだ手に口を付けて静かにウッドを睨んでいた。
「うわー、今にもウッドを殺しそうな目でこっち見てるよ」
「うん・・・」
ロンの言葉に頷くハリー。だが、ウッドはそんなのどうでもいいらしい。
「君が居れば優勝間違いなしだ!」
「応援してるわ」
後でローズにも声をかけておくと笑うが、話している二人を睨んでいるのがセブルスの他にもう二人居た。
「・・・もしかして、ローズとトムってシスコン?」
「・・・そうかも」
セブルスの面影があるローズだけではなく、トムまで似たような顔をしてウッドを見ている。
「ロニー坊やでさえあそこまで殺気はださねぇよな」
「あの視線に耐えられるのはウッドくらいだぜ」
「ウッドはクィディッチの事しか考えてないでしょうからね」
肩をすくめたハーマイオニーにみんなが頷いた。
それからマーガレットとウッドが仲良くなるのは早かった。
よく一緒にいる所を見かける様になり、みんなは二人が付き合いだしたのだと声を潜める。
あのスネイプの娘に手を出したと、ウッドをある意味あがめる者まで出てきた。
しかし、二人は別に付き合ってはいない。
「この前仲良く腕をからめてたのを見たってシェーマスが言ってた」
「ディーンも、ウッドが後ろから抱きついてたって」
事の真相を知っているみんなは肩をすくめてため息を吐く。
「マーガレットはお人よし過ぎるわ!」
「そうだよ!何もそこまでやってやる必要なんてないよ!」
部室で騒いでいるローズとトム。しかし、
「ウッドは友達よ?それに一生懸命だし、できることはしてあげたいわ」
マーガレットは笑顔で言うが、二人とも引き下がる気はない。
「だからって人前で技の指導をしなくてもいいでしょ!?」
「ものによっては二人が抱き合ってるように見えるんだから!」
「それは、そうね。わかった、次からは人目の無いところでするわ」
「「余計誤解を招くよ(わ)!!」」
「二人って仲良いよね」
「そうね」
声を揃えてマーガレットを咎める二人を見ながらロンたちは頷く。
「第一男女の友情って成り立つか?」
「僕らには理解できないね」
「あら、成り立つわよ」
「私も成り立つと思うわ」
「私も」
成り立つと答える女子のみんなと、分からないと答える男子のみんな。
「先生はどう思いますか?」
「うん?」
薬の調合をしていた梅並にみんなが振り返る。
鍋をかき混ぜる手は止めず、梅並はほんのり笑って答えた。
「成り立つと思うよ」
「ほらね」
「「え〜?」」
不服そうな声を出すフレッドとジョージ。
声は出していないけれど納得はいっていなさそうなハリーとロン。
その顔を見てクスクス笑うと火を消し、出来上がった薬を確かめる。
「ただ、友達じゃいられなくなる事があるのも事実かな」
「絶交ってこと?」
「そうじゃなくて」
笑って鍋を戸棚の一番下、右から二番目へ入れた。
「友情が愛情になるってこと」
お茶にしようかと、ポットとカップの準備を始めれば椿が来てそれを手伝いだす。
ローズたちもテーブルの上を片付けて、ルーナは棚からタルトがたくさん乗った皿を取り出した。
「自分たちが男と女なんだって気が付いたら、友達じゃいられなくなる率は高いかもね」
「気づかないで友達になる方が大変じゃないですか?」
「文通くらいしか思いつかないよ」
「これは見た目とかの問題じゃないからね」
クスクスと、おかしそうに笑って紅茶を人数分注いでいく。
「友情じゃ収まらないくらい愛したら、それはもう友情じゃない。実際、友情が愛情に変わったら性別の垣根もなくなると思うよ?」
「「うへ!」」
「そういうものだよ」
笑って、タルトをどうぞと進めてくる。
みんなで好きなのを選んで皿にとり、紅茶と一緒に飲み込んだ。
「先生は、そう言うのを経験したんですか?」
ハーマイオニーが尋ねるとカップを持ち、
「秘密」
ニッコリ笑って紅茶を飲んだ。
「えー!?」
「もしかしてスネイプと!?」
「まさかのクィレルと!?」
「想像力が豊かなのはいい事だけど、あまり変な噂を広めないようにね」
それとと言ってマーガレットを見る。
「あんまりお父さんを心配させないように」
「はい」
梅並の言葉には肩をすくめながらも素直に頷いていた。