ハリー・ポッター(夢)

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冬も終わりを迎えた季節の変わり目。今ホグワーツでは風邪が大流行していた。

医務室は定員オーバーで、医務室と隣接している空き教室を解放しているほどだ。そして、なんでも部でも風邪をこじらせた生徒が居た。

「大丈夫?」
「、うん」

大きなソファーをベッド代わりにして寝ているルーナを心配そうに見ている椿。
まだしっかりと活動はしていなかったが、すでに候補部員が入り浸る様になっていた部室にはそのメンバーがそろっている。

「さ、みんなは寮へ戻って。風邪がうつっちゃうから」
「でも、」

「大丈夫。私が付いているから」

だから戻りなさいと、渋る椿の背を押してみんなを締め出す。

「薬を飲む前に食事にしよう」

クッションを背中に挟んで、土鍋から皿に移されたドロドロしたものを前に首を傾げる。

「これなんですか?」
「おかゆだよ。私の故郷の料理なんだ」

風邪をひいた時や体調を崩した時はこれが良いと、スプーンですくって口元へ運ぶ。

「少しでもいいから食べて」

そのドロドロしたものはとても飲み込みやすくて、痛む喉でもどうにかなった。

「美味しい」
「それはよかった」

元気があるうちに食べられるだけ食べてと、かけられる優しい言葉と美味しいおかゆ。
苦い薬を飲んだら頭を撫でられて、甘いジュースをくれた。

「・・・ママみたい」
「なら、今だけ君のお母さんになろう」

薬が効いて来たのか、トロンとした目で見上げればまた優しく頭を撫でられた。

「君に今必要なのは、溺れるほどの愛情と睡眠だよ」
「愛情で風邪が治るの?」

「もちろん。愛情が治せないのは恋の病くらいだよ」

クスクスと笑うルーナに笑い返し、膝に頭を乗せて撫で続ける。

「ゆっくりお休み。次に目が覚めたらスッキリしてるよ」

目を閉じれば、扉の開く音がした。

「ここで見ていたのか」
「ルーナは四人部屋らしいからね」

他の子にうつるかもしれないからと、頭上で交わされる会話。

「薬は?」
「さっき飲ませた」

授業で聞くよりもずっと柔らかいセブルスの声に、自分の父親の顔が浮かんでくる。

「私が変わろう。お前も少し休め」
「ありがとう。でも私は今この子のお母さんだからね」

もう少し一緒に居たいと言えば呆れたようなため息の後、更に近くから声が聞こえてきた。

「では私が父と言うわけか」
「それは良い案だ」

チュッと言う小さなリップ音。そしてカツカツと遠ざかっていく足音。

「薬の調合?」
「ああ、男は黙って働けと言われているのでな」

「また、兄さんだね」
「さよう」

笑っているかのような穏やかな返事を最後に、扉は閉められた。

「お休みルーナ」

額に触れる柔らかい感触は、小さい頃母がしてくれたそれと同じだった。


目が覚めるともう熱は下がっていた。

「おはよう。気分はどう?」
「もう治ったみたい。ちょっと喉が痛いだけ」

「そう。じゃぁこれを舐めてて」

渡されたのは喉飴。

「朝食へは行けそう?」
「うん」

頷くとパジャマ姿にローブをかけられ、一緒にレイブンクローの寮まで向かう。

「その飴がなくなる頃には喉の痛みも引いてると思うけど、まだ続くようなら言ってね」

大広間で会おうと頭を撫でて階段を下りていく。

大広間には大勢の生徒たちがいて、風邪で寝込んだはずの生徒たちもいた。

「ルーナ!もう治ったの?」
「うん」

声をかけてきたジニーに頷き、後からやって来た椿と三人でグリフィンドールのテーブルへ向った。

「すごいよ!学校が『風来坊』の風邪薬を買い占めたんだ!」
「やるな校長!」

「見ろよ、スネイプがご機嫌斜めだ」

席につけば赤毛の集団が一斉に話だし、職員席を見てニヤつき出す。

ルーナたち三人もそちらを見れば、セブルスがいつもより眉間に皺を入れて朝食をとっている所だった。
その隣にいる梅並が何か話しかけている。

生徒たちには聞こえていなかったが、実際は風邪薬の注文がホグワーツだけでなく他からも大量に来ていて、それを一人で作ったセブルスを労わっていたのだ。
だが、それを知っている者はほとんどいない。

「それにしても、校長はいくら払ったんだろ」

風来坊の薬はすごく効く分高いのにと、今度はダンブルドアに視線を移す。

「『風来坊』って何?」
「知らないの!?すごい有名な薬屋だよ!」

誰がやっているのか分からない。店もない。

あるのは、たまに新聞と一緒にやって来るチラシだけ。

ハーマイオニーの質問にロンが大げさに驚いて説明を始めた。

「脱狼薬も脱吸血薬も売ってんだぜ!」
「噂じゃ、戦争から逃げ延びた死喰い人がやってるとも言われてる」

「そんな怪しい薬を校長先生が買うと思う?」
「でもうちにもあるよ、救急セット一式揃ってる」

「僕の家にもあった」
「高価だからあんまり使おうとしないけどね」

ジニーがそう言ってかぼちゃジュースに手を伸ばす。

「ウメナミも御用達だ」
「スリザリンの女子が感激してだぜ」

「私のためにあんな高価な傷薬を使ってくれるなんてって」

前に教室でトカゲを放った時の出来事を聞かせれば、椿がサラダを取り分けながら口を開く。

「お父さんも信頼してるわ。薬を作ってるのは逃げた死喰い人でもないし、安心して」
「『風来坊』の正体知ってるの?!」

その言葉にみんなが目を見開いて立ち上がる。けれど、椿はその騒ぎを見ても表情を変える事はなく、

「知ってるわ。教える気はないけどね」
「そりゃないぜツバキ嬢!」

「僕らの仲だろ!?」
「こればっかりはね」

口止めされてるからと食事を続けた。

「うわー、僕、今まで英雄と同じ薬使ってたんだ」
「よく効いたでしょ?」

珍しくクスクスと声を上げて笑う姿は、職員席にいる美しい先生ととてもよく似ていて、立ち上がっていたみんなはそっと腰を下ろす。

「ツバキはその、自分のお父さんが英雄って言われて、嫌じゃないの?」

ハーマイオニーの質問に、椿はニコリと笑う。

「嫌じゃないですよ。だって実際にお父さんを見たらみんな英雄って思うのと同時に思わ無くなりますから」
「どういう事?」

「会えば分かるわ」
「夏休みが楽しみだな。今年は強化合宿ってあるの?」

まだメンバーがそろってないから部としても成り立ってないけどとルーナが聞けば、

「お父さんはそのつもりみたい。こういうの大好きだから」
「あたしも行きたいって言っていい?」

「アーサーさんとモリーさんが良いって言ったらね」
「「パパとママなら問題ないね!!」」

声を揃える双子を見て、ハリーもクリスマス休暇で騒いでいた両親の事を思い出す。

「僕の両親とシリウスおじさんも行くって言ってた」
「ええ、聞いています。お父さんもリリーさんに会いたいって言っていました」

そう言って、持っていたミルクを置いてハリーを見る。

「ジェームズさんとシリウスさんに伝えてください」
「何を?」

「お父さんがまだ二人の事を“クソガキ”って言ってた事です」
「“クソガキ”?」

「英雄は意外に口が悪いな」
「子供がそのまま大きくなったみたいな人だもの、仕方ないわ」

肩をすくめて食事を続けた。
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