ハリー・ポッター(夢)
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「まぁハリー!それ本当!?」
クリスマスの準備をしている母親になんでも部の事を尋ね、その部がまた始まるのだと告げると料理の手を止めて駆け寄ってきた。
「う、うん。ウメナミ先生が今メンバーを探してるんだ」
「ウメナミがホグワーツの先生になったの?!もう!あの二人は何にも教えてくれないんだから!!」
酷いわと言いながらキラキラした笑顔で便箋を呼び寄せた。
「ランジュだってツバキの事教えてくれなかったし、こっちから行くしかないわね!」
「リリー?どこかに出かけるの?」
「ええ、日本に行ってくるわ」
「日本?!」
声を聞きつけたのかリビングでチェスをしていたジェームズとシリウスがキッチンへ顔をだし、妻のいきなりな宣言に慌てだす。
「どうして急に!?」
「ウメナミがホグワーツの先生になったんですって!それもなんでも部の顧問よ!?」
これが黙って居られる!?と興奮したまま父親に詰め寄る母。
置いてきぼりを喰らっているハリーは、隣に立っている大好きな名付け親を見上げた。
「シリウスおじさんは知ってる?」
「あ、ああ」
声をかけてやっと我に返ったのか、目が合っても焦点が合うまで時間がかかった。
「ウメナミは、その、元気だったか?」
「?うん。すごくキレイな人だよね、スネイプと結婚してるって聞いてみんな驚いてたよ」
「・・・そうか」
渋い顔をしたシリウスに首を傾げていれば、リリーが笑い出した。
「シリウスはウメナミが好きなのよ」
「え?!」
「リリー!何言ってんだお前!!?」
「もう認めちゃいなさい!そうやっていつまでも認めないからあなた独身なのよ!」
「そうだそうだ」
「あの戦争になる前から好きだったんでしょ!?」
「そうだそうだ」
「それで戻って来た姿を見てがっちり心を持ってかれたのに、いつまでも意地になってそれを認めないから!」
「そうだそうだ」
「ジェームズ!お前は俺の味方だろ?!」
「僕はリリー至上主義だからね。いつだってリリーが一番さ」
「このやろっ」
「なんでも部が再開するってことは強化合宿もよね?なら今年の夏休みに行くわよ!そこでちゃんと区切りをつけて!」
「、」
「パッドフッド、良いじゃないか」
あれから十年以上も経ったんだ。梅並の歳を取った姿を見れば気持ちも変わるかもしれないだろと肩を叩いて夏に行くことを進めるジェームズ。
シリウスの顔はさらに渋くなったが、親友には弱いと見える。最後には頷いていた。
ハリーはそんな大人たちのやり取りを見て、と言うか父と叔父の会話を聞いて、それは無いんじゃないだろうかと予想した。
東洋特有なのか同い年の父や母よりも若く見えるし、昔を知らない自分が言うのもなんだが今でもすごくキレイだ。
もしかしたら恋心が冷めるどころか燃え上がるんじゃないかと、大好きな叔父だからこそ心配してしまった。
クリスマス休暇が明け、梅並は部室へ向っていた。がだ、途中で声をかけられた。
「ウメナミ先生!」
振り向けばこちらに手を振ってやって来るロックハートの姿。
「今からお時間よろしいでしょうか!」
「え、ええ。構いませんが」
「本当ですか!?いやぁよかった!」
大げさに喜んで手を掴むとずんずん歩き出す。
「実は先生のクラブ活動にとても感銘を受けましてね!私もクラブを作ってみたんですよ!」
「クラブをですか?」
「はい!校長にも許可を頂き、今日が最初の活動日なんです!!」
そうしてたどり着いた部屋の前で正面から向かい合い、
「今日はどうしてもあなたにいてもらいたかったんです」
「はぁ、そうなんですか?」
首を傾げ続ける中、扉を開ければそこには大勢の生徒が居た。みんながこちらを見ている。
「決闘クラブへようこそ!」
ようこそも何も、連れてこられただけなんだが。そのまま扉の前に立っていれば、ロックハートが壇上へ上がっていく。
「みなさん、今日は初日という事もあり特別ゲストをお招きしております!」
それがどうやら梅並の事らしい。だが、驚くべきはそれだけではなかった。
「校長先生からの許可も頂き、決闘クラブでは本格的な魔法使いの戦いを学びます」
助手を紹介いたしましょうと手を広げて呼んだその名に、生徒たちの頭に浮かんだ言葉は一つ。
こいつ死んだな。
「大丈夫ですよ、私がスネイプ先生を殺してしまうなんてことはありませんから」
無表情のセブルスを見て、梅並は笑いだすのを懸命にこらえていた。
今吹き出したら確実にめんどくさい事になる。
我慢しろ自分。堪えきれと口と腹に力を入れて震える体を叱咤し続ける。
「女性の悲しむ姿など見たくありませんからね」
ダメだ。お前もうしゃべるな。
その思いで頭の中がいっぱいだった。
セブルスはセブルスで、ロックハートを本当に殺すんじゃないかと生徒たちが心配するほどの殺気を放ち、震えている自分の妻を見て舌打ちをしていた。
向い合うセブルスとロックハートに、生徒たちは息を呑む。ビリビリと肌を刺すこの緊張感はいったいなんなんだ。
「1・2・3」
「エクスペリアームス!」
吹っ飛ぶロックハートに、梅並は痛そうと顔をしかめた。
立ち上がってふら付きながらも今のはわざとだと言える根性はすごいなと感心し、顔をセブルスへ向ければ目があった。
こんな茶番に巻き込まれてご立腹らしい。
今日は甘やかしてやろうと一人頷いていれば、生徒同士の決闘になった。
選ばれたのはハリーとドラコ。
「良いですね?杖を取り上げるだけですよ!」
その言葉をどちらかでも聞いていればよかった。
そう思えるほどの泥試合。
あーぁとため息を吐いて見ていれば、ドラコの放った魔法で蛇が出てきた。
「私が追い払ってやろう」
「いえ私が!」
ロックハートが余計なことをしたせいで、床に叩きつけられた蛇は逆上して近くにいた生徒へ向かって行く。
「風」
緊張が頂点に達していたその場に、静かで優しい声が響く。
「森へ帰してあげる。こっちにおいで」
青白い球体に包まれた蛇へ手を差し出しているのは特別ゲストとして招待された梅並。
「いきなりで驚いたね。ごめんね」
球体に包まれたまま宙に浮いている蛇に話しかければ、見つめ返して来て舌をチロチロとさせた。
「私はこの子を森へ帰して来ますので」
それではこれでと部屋を出て行こうとする梅並に、
「よろしければこれからも参加して頂きたい!」
ロックハートの言葉に振り返り、とてもキレイにニッコリ笑って見せる。
「私は決闘をする時杖を使いませんから。それに、」
チラリとセブルスを見て笑顔を深める。
「安心して背中を預けられる方がいますので」
決闘クラブは自分に必要ないと言う。
「みんなも、決闘はケンカじゃないからね。ロックハート先生の言う事をよく聞くように」
パタンと閉まった扉と、シーンと静寂が広がる部屋。
そこに落とされた低い声。
「では、生徒たちの指導を続けるといたしましょう」
無表情のはずなのに勝ち誇ったようなセブルスの声が響いた。