ハリー・ポッター(夢)
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次の日から、学校中に噂と憶測が広がった。
内容は“スネイプが惚れ薬を使って梅並と結婚した”というものだ。
その噂は主にセブルスを毛嫌いしているグリフィンドール生が流しているのだが、それを信じて止まない人がここに一人いた。
「ウメナミ先生!今日もお美しい!!」
「ありがとうございますロックハート先生。先生の笑顔は今日もチャーミングですね」
「あなたに褒めていただけるなんて、今日は最高の一日になる事でしょう!!」
どうか私の事はギディと呼んでくださいと朝食にやって来た大広間で叫ぶロックハート。
笑顔で対応している梅並だが、その隣にいるセブルスは殺気立っていて、梅並を挟んだ反対側にいるクィレルは頭が痛いと言った様子で額を抑えていた。
「それはありがたい申し出ですが、私には荷が重いですね」
あなたのファンに怒られてしまうと返して朝食を再開する。
「セブルス、この後君の研究室に行ってもいい?」
「構わん、好きに出入りしろ」
「ありがとう」
さっき見せた笑顔とは全く違う愛おしそうな微笑みを向けて手元のパンケーキを切り分ける。
「なんでも部にもたまには顔を出してね。せっかく君がいるのに一緒に研究ができないなんて淋しいもの」
「・・・善処しよう」
セブルスの言葉一つに表情を変えるその美しい人に、みんなが絶対薬を盛られたんだと確信した。
「私もぜひ拝見したいです!よろしければ私の研究室、」
伸ばしてきたロックハートの手を叩き落とし、セブルスが立ち上がる。
「申し訳ない。我々はこれから寮監の仕事がありますので。梅並、生徒たちに時間割を配りに行くぞ」
「そうだね。みんな集まり出したみたいだし」
先生も朝食を食べてくださいねと、笑顔を残してスリザリンのテーブルへ向かって行く二人をみんなが見ていた。
それからも、校内で二人が一緒に居る所はよく目撃された。
互いの研究室へ入る所、何かを楽しげに話しながら図書館へ向う所、大広間で食事をしている風景。
その姿を見かけるたびに生徒たちは思う。どれだけ強力な惚れ薬を飲ませたんだと。
「明日はついに東洋魔術の授業だ!」
フレッドとジョージがグリフィンドールの談話室で興奮している。
「スネイプが本当に惚れ薬を使ったのか確認してくるぜ!」
「確認って、どうやって?」
ハーマイオニーが怪訝そうに眉をしかめる。
「「そんなの簡単さ!」」
「僕たちが授業中騒ぎを起こす」
「それを見てグリフィンドールを減点するかで分かる」
「そんな事したらどの先生だってグリフィンドールを減点するわ!」
「「そうとも限らないんだなぁ!」」
そう言って二人が取出したのはビンに入った何十匹ものトカゲ。
「こいつらを教室に放つ、誰が放ったかなんて分かるもんか」
「後は驚いた僕たちが大げさに騒ぐだけ」
その騒ぎをどう収拾するかも見れる、一石二鳥だとニヤつく双子。
「ばれたらスネイプが黙ってないよ」
「ハリー、スネイプ“先生”よ」
訂正するハーマイオニーだが、誰もそれを聞いていない。
「君だって見たろ!?あのスネイプの顔。ロックハートが近づくだけで鬼みたいな顔してたよ」
「そりゃ、・・・自分の奥さんですもの。他の男の人と居るのが嫌なのよ」
あくまでもロックハートを悪く言わないつもりらしい。ロンがそれに呆れながらも自分の兄と親友に顔を向けた。
「あいつも毎日、よく懲りないよな」
「「最高の見世物だ!」」
「スネイプはいつも殺気立ってるけど、ウメナミは笑ってるよね」
それに頷いた双子は、さっきよりもずっと悪そうな顔をして声を潜めた。
「あの笑顔が本物かも、明日わかるぜ」
次の日、東洋魔術を取った生徒たちが教室に入る前にはもう梅並が来ていた。
「来たね、席は好きなところに座って良いよ」
この授業は選択授業で人数も少ない。そのためグリフィンドールとスリザリンが合同なのだ。
自由に座っていいと言われているにも関わらず、左右に分かれて座った生徒たち。
それを見て梅並は苦笑してしまう。
「じゃぁ自己紹介からしようか」
校長先生もしてくれたけどねと付け足して全員の顔を見回す。
「私は梅並・スネイプ。得意な教科は東洋魔術と魔法薬学。あとは闇の魔術に対する防衛術もかな」
それを聞いてグリフィンドール生がやはりかと顔をしかめたが、
「あ、マグル学もね」
これにはスリザリン生もざわついた。
「私はみんなと同じ、ホグワーツで魔法を教わったんだ。その時はスリザリンの寮だった」
だから副寮監を任せて貰えたのかなとほんのり笑って名簿を開き、全員の名前を丁寧に読み上げて行く。
フレッドとジョージは互いに少し離れた場所に座ってアイコンタクトを送り合う。
やるなら今だ。
名前を読み上げ、返事をした生徒の顔を見た後目を名簿に戻す。
その瞬間、教室に入った時から仕掛けていたビンの蓋を杖で開けた。
「キャー!!」
悲鳴が上がったのはスリザリン生が座る席。それはグリフィンドールの席にも広がって行き、
「うわー!トカゲの大群だ!!」
「毒トカゲだー!!」
立ち上がって叫べば更に加速するパニック。
みんなが立ち上がって入り口に走り出すその教室に、
「縛!!」
大きな声が響いた途端足元から何かが吹き上がってくるような感覚に襲われる。しかし、別に何かあるわけではない。
「これは俊足トカゲだね。とても足が速い。そしてよく似た模様をした毒トカゲも存在する」
梅並はみんなが動きを止めた教室をゆっくりと歩いて、一匹のトカゲを持ち上げた。
トカゲは石にでもなってるのかと思うほど、身動き一つしない。
「君たちの動態視力は素晴らしい。クィディッチの選手?」
「、はい」
「ビーター、です」
「そう、グリフィンドールは優秀な選手がいるんだね」
試合が楽しみだとニッコリ笑って、袖から杖を出すと流れるような動きで振る。
「さぁ、森へ帰りな」
窓を開けて何十匹もいるトカゲに声をかけ、手のひらを向ける。
「解」
窓から出て行ったトカゲはビチビチ動いていて気持ち悪かった。
「あのトカゲに毒はないけど、噛まれた人はいない?」
「わた、私っ、爪でっ」
「見せて。大丈夫だよ、ちょっと待ってね」
泣きじゃくる生徒の頭を撫でて、黒板の近くに置かれていた棚から平べったい容器を取り出して戻ってくる。
「これを塗ればすぐに治るから。もう泣かないで」
トロッとした半液体を指ですくうと傷に塗る。すると本当にすぐ傷は塞がった。
「さぁ、もう大丈夫。涙も止まったね。せっかく可愛いんだから笑ってた方がいいよ」
そう言って立ち上がると容器に蓋をして棚に向かい、
「他に怪我をした人はいないね?じゃぁみんな座って。授業を再開しよう」
振り返った時に揺れた黒髪も笑顔も、すこぶるキレイだった。
授業が終わり、教室を出て行く生徒を見ながら梅並は声をかける。
「フレッド、ジョージ」
立ち止まった二人は互いを見てから振り返る。
「私はトカゲよりも花が好きなんだ。多くの女性もそうだと思うよ」
ニッコリと、あの妙にキレイな笑顔を作り、
「女性には優しくしなければいけないと、お父さんに教わらなかった?」
じゃあねと手を振られて教室を後にする。
「聞いたか?ジョージ」
「ああ、ばっちりね」
さっきのセリフと騒ぎを起こした時に言われた言葉。梅並は自分たちがトカゲを放ったと分かっていながら見逃したのだ。
「「決まりだな」」
スネイプが惚れ薬を盛ったんだと、談話室へ走り出した。