ハリー・ポッター(夢)
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「ルシウスはいるか」
「はい、ここに」
父上に連れられてきたのはヴォルデモート卿の元。
私は死を覚悟していた。
蘭樹やアーサーと過ごした七年間で、父上に教えられてきた考えを私は変えた。
つまり、死喰い人になることを拒否したのだ。
「お前の話が聞きたい」
「かしこまりました。ではお茶のご用意をいたします」
初めて対面した時、私は死を覚悟していたと言うのに殺されなかった。
それどころかヴォルデモート卿に気に入られ、事あるごとに呼び出されるようになった。
シシーの姉であるベラトリックスには毛嫌いされるようになったが、それは別に気にしていない。
しかし、なぜ気に入られたのか分からない。
「学生時代の話を聞かせてくれ」
卿は決まってこう言う。
私の話など楽しくもないだろうに、ジッと私の目を見て頷きながら静かに聞いている。
多分開心術を使っているのだろう。
私は心を閉ざし、嘘をつかないように、しかしみんなの事を明かさないように、七年間の思い出を語り出す。
「私の学生時代は、ルームメイトに振り回される毎日でした」
初めて蘭樹に会った時、純血かと尋ねた。
その質問に頷いたので私は同じ純血主義なのだと思って疑わなかった。
しかし、蘭樹は違った。
他の寮の生徒ともマグルの血が混ざっている者とも普通に接し、あまつさえグリフィンドールのアーサーと友人になった。
その事実を受け入れられず、何度も衝突した。無視をすることもできたが、蘭樹がそれをさせなかった。
「人生であんなに声を荒げたのは初めてでした」
事あるごとに問題ばかり起こして、それを私が叱る。気が付いた時にはそんな形式美が出来上がっていた。
マグルを贔屓しているアーサーの考えも理解できず、もしかしたら蘭樹以上に本気で言い争ったかもしれない。
しかし、それも一年という短い時間だった。
「お前はその友人の家へ行ったのだろう?アブラクサスが零しておったぞ」
毎年夏に友人の家へ出かけてはたくましくなって帰ってくる。
その言葉を聞いて苦笑してしまう。
「その家で体術を習っておりました」
「体術?」
「はい、杖を使わず戦う方法です」
畳のひかれた稽古場。
白い胴着を着て取っ組み合い、聞いたこともない技をかけられてのた打ち回る日々。
「私や一緒に行った友人は軟弱だと笑われておりました」
しかし、あの笑顔は蔑んだものではなかった。
「さすが、実力主義を掲げている家だけあります」
私の言葉に卿が目を細める。
その目に宿っている光は怒りや憎しみではない。どんな意味があるのか私には分からないが、何かを懐かしんでいるようだった。
卿が口を開こうとした時、扉がノックされ死喰い人の一人が頭を下げながら部屋に入ってくる。
「我が君、お時間でございます」
「・・・わかった」
憎々しげに顔を歪めて返事をすると私に退室するよう合図し、入れ違いに部屋へやって来た死喰い人を呼び寄せる。
私は、この後何が起こるか知っている。
扉が閉まると同時に悲鳴が上がり、どざりと何かが倒れる音がした。
ヴォルデモート卿がなぜ私を殺さないのか分からない。
私と話しているのを邪魔した者は容赦なく殺すのに、その矛先を私に向けようとはしない。
更には父上にも私が死喰い人になることを拒否したと知らせていないらしい。
父上は私が卿のお気に入りになったと喜んでいた。
いったい、あの方は何を考えておられるのだろう。