ハリー・ポッター(夢)

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持てるだけの薬を持って医務室へ向い、それをマダム・ポンフリーに渡して梅並に近づいて行く。

「どれでも好きなのを使ってください」

うつ伏せに寝かされている梅並の体は包帯だらけで、少し血が滲んでいる。
ズグリと心臓なのかどこなのか分からない場所が痛む。

理由は分からない。

「梅並」
「今は薬で眠っています。明日まで起きないでしょう。この薬はあなたが?」

あらすごいと言っているマダムの声を聞きながら、まだ青白い頬に触れてみる。
知っている体温よりもずっと低かったけれど、ちゃんと温かかった。

「造血剤は必要ですか?足りないなら僕が造ります」
「ありがたい申し出ね。でも大丈夫よ、面会時間は夕食までですからね」

そう言って僕と梅並だけにしてくれた。

梅並は目を閉じたまま動かない。側に座って手を握ってみて、僕の手よりも小さい事に驚いた。
少し前までは同じくらいの大きさだったのに、今は僕と全く違う手をしている。
僕の手は骨ばってゴツゴツしているのに、梅並の手は指が細くて小さい。
薬の材料を扱うので少し荒れてはいるけど、僕はこの手を見たことがある。

おばさんと同じだ。

料理をよくするおばさんの手も、こんな風に少し荒れていたと思う。
それに、男にしては華奢すぎる。
蘭樹でも男っぽい手をしているし、体だってもっとがっちりしている。

「梅並?」

癖の一つもない黒髪は短く切りそろえられていて、青白いうなじが覗いている。小さな肩に細い腕。
頭に浮かんだ考えにバカバカしいと首を振ってもう一度梅並を見てみた。

「・・・」

違う、梅並はおばさんに似ているだけだ。
兄弟の中で誰よりもおばさんに似ているからそう見えるだけだ。

違う、そんなはずはない。

毎日一緒に居たんだ。
上半身だけど裸も見た事がある。
違うと何度も浮かんだ考えを否定して、長い睫が作る影に目が行き赤い唇に指で触れてしまう。

いつも一緒にいた。
梅並は親友だ。
リリーへの恋心が憧れだったと気づいて、それで僕はどうしたんだ?思い出せない。
恋が終わったと気づいてもショックはなくて、その隣にはいつも梅並がいて・・・。

僕は、いつから梅並を親友以上に思っていたんだろう。

次の日、朝食前に急いで医務室へ行った。そこには起き上ってこちらに笑い返してくる梅並がいて、本気で安心した。

「気分はどうだ?」
「ちょっとクラクラするくらいかな。まだ血が足りない感じ」

「そうか」

側に座って正面から向き合い、目を反らす。
いつの間にか、梅並の背を越していた事実に苦笑が漏れた。
そしてポケットから透明な石を取り出し、両手ですくう様に持つ。

「あ、お年玉で貰った石。懐かしいね」
「ああ、やっと使い方が分かった」

「?」

首を傾げる梅並に笑って石に集中する。
すると少しずつ石から水が溢れてきて、僕の手から零れるほど湧いてくる。

「傷を見せてくれ。これをかければきっと痕も残らない」
「いつの間に使い方がわかったの?」

「昨日夢で見たんだ」

昨日眠ってから見た夢で、僕は木元家の森にいた。社の前で石を持っていて、そこで森のみんなが使い方を教えてくれた。

それを聞いて納得したのか、僕に背を向けて包帯を解いて行く。
まだ肉が抉れているそこに水をかければ、すぐに傷が消えていった。

「冷たい」
「雪融け水だからな」

傷が全部消えたのを確認して、残りの水を梅並に飲ませる。
柔らかい唇が指に触れて、熱でも出たんじゃないかと思うほど熱くなった。

「マダムを呼んでくる」
「うん、ありがとう」

小さくなった石をポケットにしまって立ち上がる。
指から顔に熱が飛び火したんじゃいないかってくらい、熱かった。
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