ハリー・ポッター(夢)
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「・・・」
水の音を聞きながら無言で床を見つめ、先輩に向き直る。
すると先輩もこちらを見ていたようで、目が合うと微笑まれた。
「さっきの続きが気になるかい?」
「、はい」
頷けば笑ってタオルを渡してきた。
「ローブを脱いでそれを体に巻きなさい。今お茶を入れよう」
言われた通り油をたっぷり吸ったローブを脱いで、進められた椅子へ腰を下ろす。杖を振ればどこかからカップとクッキーがでてきて、洗礼された動きでポットを傾ける。
「ダージリンだ。口に合うと良いが」
「あ、ありがとうございます」
受け取って一口飲んでみる。今まで飲んだ紅茶の中で一番おいしかった。
「美味しいです」
「それはよかった」
笑顔を向けられて、改めて思う。この人は貴族なんだ、と。
「私は純血主義ではなくなったが、それでも純血は尊いものだと思っている」
「・・・?」
「魔法と同じだよ。古く、原型に近い程とても貴重だ。だが、一度失われてしまえば蘇らせるのはとても難しい」
「はい」
「魔法族である限り、純血は保護すべきものだ。他の血を差別するのではなく、ね」
先輩の言いたいことは分かるような気がする。
純血だけで魔法族は成り立たない。
しかし、決して失ってはいけないもの。魔法族にとって、守らなければならないもの。
「幸い、父が決めた婚約者は純血の家柄で、私は彼女を愛している。これはとても幸運なことだ」
「・・・そうですね。そう思います」
純血を守るために何かを犠牲にしなくてはならないというのは、辛い。
先輩はその心配はないと言う。喜ばしい限りだ。
「ただ、彼女も生粋の純血主義でね、私たちは愛し合っているが分かり合えない」
それでも彼女もいつか分かってくれると信じていると、私がたった数年で考えを変えたくらいだからねと苦笑してカップを持ち上げた。
純血であり、貴族だからこその悩み。同じ純血でもウィーズリー先輩や蘭樹とは違う。
「先輩は、貴族であることが嫌ですか?」
「・・・嫌になった事は何度もあるね」
価値観の違う親友たちと話、楽しく今を過ごして未来に夢をはせる。その度、彼らの自由が羨ましくなることもある。
「けれど、最近は思う事も少なくなった」
この地位だから許されない事がある変わり、許されることもある。
「私はスリザリンがあっていると、改めて思ったよ」
楽しげに笑っている先輩に安心して、僕はもう一口紅茶を飲んだ。
しかし、バンッと勢いよく開いた扉に吹き出しそうになった。
「くそっ!後ちょっとだったのに!!」
「もう少し静かに入ってこい」
「あ、クッキー」
「話を聞け」
どかどかと足音を鳴らして椅子に座り、キレイに盛り付けられたクッキーをパクパクと食べていく。
それにため息を吐きながらもう一つのカップを出してお茶を注いだ。
「あの二人は?」
「大王イカが足で捕まえたところでマクゴナガルに見つかった」
「危機一髪だな」
「おまけにスリザリン五点減点されたし」
「予想はしていた」
「それ聞いてあいつらがニヤケ出したから目の前で殴ったらまた二点減点された」
「合計七点か。まぁ、明日のDADAで挽回できる」
「ルシウス君頼もしー!」
「気持ち悪い」
繰り広げられる言葉のやり取りに自然と笑ってしまう。
初日、嫌そうに顔をしかめていたルシウス先輩の表情も、気を許している相手だからこそ向けたのだと、今なら分かる。