ハリー・ポッター(夢)

□3
1ページ/3ページ



最近気づいたことがある。梅並はフェミニストだ。

「うん?大丈夫だよ、もう少しゆっくり時計回りにかき回し続ければちゃんとできるよ」

材料を切るの上手いんだねと言って、後ろの席に座っていた女子を手伝ったり、

「どうしたの?」

からかわれてうつむいている生徒に声をかけたり、まぁつまり、大人気と言うわけだ。

「さすが梅並だ」

夕食の時にその話題に触れると蘭樹が胸を張った。

「ランジュの弟とは思えないぐらい出来がいい」
「おい」

そんなやり取りを聞いて周囲から聞こえる小さな笑い声。

「ウメナミは気が利くし可愛いのに、本当に血が繋がっているか疑わしくなってくるな」
「こんなにそっくりだろうが」

「残念だ」
「どう意味だ!」

梅並の身長は僕と同じくらい。
肌は黄色みがかっているけどキレイだし、癖の一つもない黒髪は艶々していて、平坦な顔だって整っている。

純血主義じゃないという事でスリザリンの中でも反感は確かにあるけれど、それでもみんなが向けてくる視線は嫌悪だけのものではない。
だからそれは良いんだ。

僕が今一番気になっているのは、

「やぁスニベルス!今日は一段と脂っこい髪をしているね!!」

廊下を歩いていたら、上から油缶が降ってきて、それを二人で一緒に被ってしまった。

「ポッター、ブラック、君たちは少しも変わらないね」
「ジェームズ、お前猿の言ってること分かるか?」

「生憎、僕は人間でね。猿語は論外なんだ」

この二人はいつからか梅並の事を黄色い猿と呼ぶようになった。
それを聞く度、僕の中でグツグツと怒りが煮えたぎる。

梅並が手を上げると、

「おっと、またおかしな術を使合う気か?」

ブラックが杖を向けて、それ以上動くなと梅並を脅す。
なら僕が魔法を使うまでだ。ポケットに手を伸ばせば、

「スニベルス、黄色い猿と一緒にいて人間の言葉を忘れたかい?」

動くなと言ったら君もだよと、杖を向けてきた。

二人で両手を上げて降参のポーズをとると、ポッターたちの顔が嬉しそうに歪んで唾を吐いてやりたくなった。

「しかたないよね、自業自得だ」
「あ?」

肩を下げてため息を吐く梅並にブラックが顔をしかめる。

「お前らっ」
「「!?」」

「いい度胸してんじゃねぇかっ」

口の端をひくつかせながら指をボキボキ鳴らしている蘭樹はとても怖かった。

「待てクソガキー!!」

時間短縮魔法でも使ったのかと思うほどのスピードで走り出した蘭樹は逃げるポッターとブラックを追いかけていく。

「二人とも、怪我は?」
「私は大丈夫です」

「僕も、缶には当たりませんでした」
「そう、よかった」

早足で近づいて来たマルフォイ先輩は杖を出したが、その油の量を見て顔をしかめた。

「これはシャワーを浴びた方がよさそうだ」
「はい、口の中も油まみれで気持ち悪いです」

「制服の替えは?」
「ありません」

「僕もです」
「仕方ない、少し大きいかもしれないが私のモノを貸そう」

その間に汚れた制服は屋敷妖精に洗濯を頼めば明日には乾いていると、丁度二人を捕まえたところらしい蘭樹に声をかける。

「ランジュ!二人を寮へ連れて行く!」
「おお!!俺はこいつらを大王イカの餌にしてから行く!!」

「「!!?」」
「殺さないでね」

「優しいなぁ梅並は。おい、感謝しろよ」

半殺しで勘弁してやると、湖へ向って歩いて行くのを見送った。

蘭樹に引きずられている二人の目がこちらを睨んでいるのを見て、マルフォイ先輩がため息を吐く。

「あれは懲りてないな」
「みたいですね」

ぐちゅぐちゅと靴の中からすごく気持ち悪い音を上げながら寮へ向って歩き出す。

「アーサーから二人の事を聞いて、気を付けていたんだけれどね。間に合わなくて悪かった」
「いえ、来て頂いて助かりました」

「ありがとうございます」
「あの二人と何かあったのかい?」

振り返って聞いて来たので、二人で顔を見合わせて肩をすくめる。

「リリーの事覚えてますか?」
「ミス・エバンス?」

「はい、眼鏡の方がリリーのことを好きなんです」
「僕たちがスリザリンだからリリーと話すのが嫌なんだそうです」

「・・・そうか」

少し前の自分を見ているようで悲しくなるよと、ため息を吐いて階段を下りていく。

「少し前?」
「数年前まで、私は純血主義だったからね」

そのことでアーサーとも蘭樹ともよくぶつかっていたと、苦笑しているような声音で言うが、先輩の顔はまるで感情を消したかのように無表情になった。

「一年の終わり頃にやっと純血主義に疑問を持ち出して、自分の答えを見つけるためにランジュの家に行ったんだ」
「ああ、夏休みの」

「そうだよ」

クスリと笑ってこちらを見て、前を向く。

「あの家はとてもインパクトが強くて、いかに自分が小さな存在か思い知った」
「インパクト?」

「うちはちょっと、・・・かなり特殊だから」
「楽しい所だよ」

クスクスと小さく声を出して笑う先輩と、苦笑する梅並を交互に見る。
そして、今なら聞けるんじゃないかと、ずっと思っていた疑問を口にしてみた。

「じゃぁ、先輩は純血主義じゃなくなったんですか?」
「それは難しい所だ」

「?」

肖像画に合言葉を言って、先輩たちの部屋へ案内される。

「制服はあるから、シャワーを浴びておいで」
「ウメナミ、先に入ってきていい」

「え、でも」
「いい、先に入ってきてくれ」

「・・・わかった」
「タオルはあるものを使ってくれて構わない」

「いえ、兄さんのを借ります」

そう言って、どれが蘭樹のものか分かるのだろう。
迷うことなく一枚を手に取り、替えの制服を受け取ってシャワー室へ消えて行った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ